第21話 決着

 「いいだろう!そんなに死にたいならそうしてやる!!!」


 九頭竜坂は叫ぶ。

 本当に叫ぶことしか脳がないのかコイツは?

 つくつぐ、残念なやつだと思う。


 まだ死にたくはないので精一杯必死に抗おう。


 「オラァ!!」


 2発、九頭竜坂は俺に拳を振るった。

 2発とも、かわした。

 九頭竜坂のパンチは空気を切った。

 彼は空気と戦っているのかな?

 かわすときに、ブンと音がした。


 「クソォ!」


 九頭竜坂は苛立ったのか、闇雲に拳を振るった。


 全て、俺ではなく空を殴った。

 全て、かわした。


 「なぜだ!なぜ当たんねぇんだ!!」


 「わからないのか?」


 「なっ?!」


 九頭竜坂の拳は俺に届くことはない。

 なぜなら、殴る際のタメが大きすぎるからだ。


 九頭竜坂は、殴ろうとする際に拳を引く(タメをつくる)。

 それが、1番の原因だ。


 俺からしてみれば、なぜそんなタメを作るのかがわからない。意味不明だ。

 だって、タメ=殴るよ〜と合図しているようなものだ。

 タメを冷静に見るだけで誰でも簡単にかわせてしまう。


 まあ、あとは単純な九頭竜坂の力量。


 以上が、九頭竜坂が俺に全く触れられない理由だ。

 九頭竜坂には教えないけどな…

 かと言って九頭竜坂がそれに気づくこともないだろう。


 「はぁ…はぁ…クソが…」


 見えない敵と戦い疲れたのか、はたまた空気を殴りすぎたのかはわからないが九頭竜坂は息が上がっていた。


 「もう終わりか?」


 俺は言った。

 余裕です。


 「終わりなわけないだろ…お前こそやる気あんのかよ?!まだ、何もしてねーじゃねーかよぉ?」


 そう、俺はまだ何もしていない。

 ただ、九頭竜坂のパンチをかわし続けた。

 たしかにもう九頭竜坂をおちょくるのも飽きてきたし…そろそろ頃合いかもな。


 「そろそろ、終わりにするか…お前の幼稚園児のようなパンチをかわし続けるのは飽きた」


 「やってみろよ!お前のパンチなんか俺に1ミリも効きやしてねぇ!」

 

 「さあ、それはやってみないとわからないだろ?」


 「やってみろよ!」


 「後悔するなよ?」


 「お前がな!」


 九頭竜坂は俺に向かってきた。


 見せてやるよ…パンチとは、人を殴るとはこうするのだ…


 俺は構えた。

 半身になり、左手を前(目の高さぐらい)右手を腰に置いて重心を下げる。


 そして、九頭竜坂の大ぶりの右ストレートに合わせて俺の右ストレートを九頭竜坂の顔面におみまいした。

 いわいる、同時カウンターというやつだ。


 1番手っ取り早く効かせるにはカウンターが最も有効だと思う。


 「ぐぅぅぅぅ!!」


 この見事で華麗な同時カウンターにより、九頭竜坂は顔を手で抑え、悶絶して後ろへと後退した。

 顔は鼻血などで赤く染まっていた。


 かなり効いているようだ。

 そりゃ、とっておきの同時カウンターだ効くわ。

 九頭竜坂からすると、自分の勢いが仇となり、正面衝突したんだ、ただではすまない。


 俺はその隙を見逃すほど優しくもなければ、甘くもない。


 俺は続けて大ぶりの右アッパーをおみました。

 基本的にアッパーなどの大ぶりはかわされやすいし、あと隙が大きい…だが、チャンスの時や、フィニッシュに決め込む時は有効だ。


 九頭竜坂は、俺の渾身の右アッパーにより宙に浮き、そのまま倒れた。


 手応え的にもう立てないだろう…と思ったがのだが…


 「ま……まだ……勝負は終わって…ねぇ!」


 九頭竜坂は立ち上がった。

 フラフラになりながらも、力を振り絞って立ち上がったのだ。


 「ほう…」


 驚いた。

 あの一撃を喰らって意識がある上、立ち上がるとはな。

 根性とタフさは結構あるようだ。


 「いいや、もう終わりだ」


 九頭竜坂はもう立っているだけで精一杯だろう。九頭竜坂にはもう戦う力など残っていない。

 そんな状態で戦う必要はない。


 「まだだ!俺はまだ戦える!来いよ!ズタズタにしてやる!」


 威勢だけはいい。

 まあ、痩せ我慢を無理してしているだけだが。


 「よせよ。お前はもう戦える状態じゃない」


 見た感じ、コツンとデコピンをするだけで倒れそうだ。

 それに、これ以上やると大怪我をする(九頭竜坂が)可能性もある。


 「それを決めるのは俺だ!それに俺は認めないぜまだ俺は負けてねぇ!」


 やれやれ、しょうがないやつだ。

 くだらないプライドというやつがあるんだろう。

 フラフラのやつにトドメを指すということはあまり気が進まないが仕方ない。


 九頭竜坂に負けを認めさせなければならない。


 俺は、九頭竜坂に近づいて拳を振り上げた。

 トドメのストレートだ。

 まあ、気持ち軽めに打ってあげた。


 「ぐっ!あああ…」


 俺が殴る前に、九頭竜坂は糸が切れた人形のように倒れた。

 限界だったのだろう。

 よく頑張ったよ、お前は。

 

 「クソが…力が入らねぇ…」


 「もう決着はついた…約束通り今後一切清水には関わるなよ」


 「フフ…ハハ…わかった…約束通り、もう関わらないでやるよ…しかし、お前がこれほどのやつだとは思わなかった…俺が全く歯が立たねぇなんてな…一体…お前、何者なんだ?」


 「それは、教えられない」

 

 絶対に教えたくない。

 教えられない。

 口が避けようと言えない。


 「ハッ!お前、清水のことが好きなのか?だから、助けに来たんだろ?!」


 「は?」

 

 コイツはさっきから訳の分からないことばかりほざく。

 達者な口ですこと…


 俺はしゃがんで、うつ伏せに倒れている九頭竜坂の髪を掴み上げた。


 「俺は、ただ単純にお前らに邪魔をされたんだ」


 「邪魔…だ…と?」


 「ああ、俺の邪魔をするものは何者でも決して許すことはできない」


 俺の優雅で美徳な喫茶店でのラノベタイムを邪魔しやがって…


 「ハッ!いいさ…だが…いつか…お前の正体を見つけ出して…このかりは必ず返す…覚えておけ……よ……」


 そう言って、九頭竜坂は気絶した。

 力尽きたのだ。


 本当に惜しい男だ。


 だが、今のままじゃお前は一生俺には勝てない。

 お前が生まれ変わらない限り、お前は一生敗者のままになるだろう。

 少なくとも、女に手を出すようなグズにはな。


 まあ、そもそも俺の正体がわからないだろうがな。


 この世は結局勝者が正義なのだ。

 強いものが勝つ。

 弱いものは負ける。

 強いやつが生き残り。

 弱いやつから死んでいく。

 この世は残酷なことに、弱肉強食な世界なのだ。


 俺はふと、そんなことを思ってしまった…




 


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