第20話 脳死パンチ

 「そこまでだ」


 空耳でしょうか…?

 そう聞こえてしまいました。

 誰かの声が聞こえました。

 誰も私を助けになんか来ないのに。

 多分私の勝手な妄想、幻聴なのでしょう。

 

 私は知らぬ間に、無意識に誰かに助けを求めすぎていたのでしょうね…


 助けてくれるようなヒーローなんているはずないのに…

 

 「あぁ?」


 九頭竜坂くんが、振り返りました。

 振り返ったということは、九頭竜坂くんにも聞こえたということです。

 

 まさか…本当に誰かが…?


 私は、声がした方向を見ました。


 そこには、おかめの仮面を着けていて、ニット帽もを深く被った誰かが立っていました。


 見た目はただの変質者そのものです。


 「誰だテメー?」


 九頭竜坂くんは、私を離して言いました。


 「彼女から離れろ」


 その声は以上に高音でした。

 まるで、ヘリウムガスを吸った時の声のように。拍子抜けしてしまうように。


 やはり、変質者なのでしょうか?


 「なんだそのふざけた仮面と声は?」


 「お前には関係ない」


 「ナメてんのか?」


 九頭竜坂くんはブチギレたようでした。

 当然です。誰だって怒りますよ。


 「ああ、なめてるさ…女の子に手を挙げるような…この下衆が」


 「言ってくれるな!」


 その瞬間、九頭竜坂くんが、おかめの仮面を着けた仮面の人に殴りかかりました。


 仮面の人がひょいと横にかわし、九頭竜坂くんの拳は空を切りました。


 「貴様…やる気か?」


 「ああ、当たり前だろ?そのふざけた仮面を引き剥がして、テメーの顔を拝んでから殴り殺してやるよ!」


 九頭竜坂くんは拳を鳴らし、そう言いました。

 どうやら九頭竜坂くんは喧嘩をしようとしてます。


 「そうか…なら一つだけ約束しろ…」


 「約束だぁ?」


 「ああ、俺がお前に勝った場合は、もう2度と清水に関わるな…」


 仮面の人は私の名前を知っていました。

 顔見知り?知り合いなのでしょうか?


 いや…それよりも…


 「上等だ!いいだろう!約束してやる!その代わり俺が勝ったら、貴様の腑を引きちぎってやるからなぁ?!」


 私はこらから起こることを、止めることはできません。

 ただ、見ることしかできません。


 あの仮面の人が何者かは分かりませんが、不思議と、ある人と重なって見えてしまいました。


 あの日に命を救ってくれたヒーローに…


 



 ◇◆◇◇◆◇


 はぁ…まさかね…そのまさかだ。

 

 この鬼介から貰った、おかめの仮面とヘリウムガスを使うことになるなんて思っても見なかった。完全に予想外だ。

 正直、絶対に使わないし、いらないし、無意味だと思っていた。(なんなら、帰ったら捨てようとすら考えていた)

 が、結果としてこうして、使うことになった。役に立ったのだ。


 もしかしたら、この世にいらないものなんてないかもしれない。

 この世に存在している時点でなにかしらの意味はあるんだろう。

 俺が存在している理由…は、まだわからないけど…

 今、そんなことを思った。


 結局あの後俺は清水のあとを追ってきた。

 

 そう、清水のことが心配だから—————というわけでもなく、一つは純粋に九頭竜坂のことがムカついたからだ。

 あの態度、振る舞い、全てが許せない。


 もう一つはアイツらの喫茶店の金を貰うためだ!


 結局アイツらは、喫茶店で、お会計せずに出て行った。

 なので、そのせいで、他人である俺が代わりに払うはめになった。


 もちろん、俺が自ら払いますと言った。

 日頃、お世話になっている喫茶店に申し訳ないと思ったからだ。あくまで他人だが、あくまでもクラスメイトだ、なので俺が無視するわけにはいかない。


 ふざけるなよと思った。

 ただでさえ、お金がないのに余計な出費と、なった。まだまだ読みたいラノベがあるのに買えなくなってしまう。


 ってことで、橋下までついて来たわけだ。


 少し、様子を伺ってようと思ったのだが、九頭竜坂が清水に暴行をしようとしてたので慌てて登場した。


 それにしても、九頭龍坂は予想通りのクズだった。見る感じ、付き合ったのも強制的で一方的なものだろう。


 最近の清水のあの様子はやはり彼氏である九頭竜坂が原因だった。

 日頃から、清水に対して酷いことをしてきたのであろう。


 全ての元凶、全てはこの九頭竜坂のせい…


 純粋に、単純にムカつくな—————


 今、俺と九頭竜坂は一定の間合いで向かい合っている。


 無駄にデカいな…

 180センチ以上はあるであろう身長、筋肉質な図体…

 俺とはかなりの体格差がある。


 陰キャに勝ち目がないって?

 まあ、一見するとそう思うだろう。

 だが、今の俺は

 そう、素のままでいいのだ。


 一見不利に見えると思うが、その分技術で補って見せよう。


 「テメーうちの学校のもんだな?」


 「さて…それはどうかな?」


 「あぁ?テメー、制服じゃねぇか?」


 「あっ……」


 しまった。

 おかめの仮面をつけただけで、俺を完全に隠せるていると錯覚していた。馬鹿だった。

 こりゃ、どっかの誰かさんに「一体いつから完璧に変装していると錯覚していた?」と煽られても仕方ないレベルだ。

 

 まあ、制服がバレた程度なら許容範囲だ。

 問題は顔を見られることだ。

 顔を見られなければ、俺だとはバレない。

 なので、絶対に仮面をとられてはいけない。

 

 俺の勝利条件は、仮面を取られず、素顔を見せないまま、九頭竜坂をぶちのめすことだ。

 

 うん…まあ、イージーゲームだ。


 「覚悟しろよぉ!!」


 九頭竜坂は俺に叫ぶ。

 覚悟しろだと?……お前がな…

 よくも、俺の可憐で優雅なひとときを邪魔しやがって、それに、お金も…清水のこともな!(ついで…)


 「覚悟するのはお前の方だ…来るならさっさと来い!」


 俺は九頭竜坂に煽るように手招きした。


 「死ねゃあ!!!!」


 九頭竜坂は狂ったように、発狂しながら、暴走汽車のように俺に殴りかかる。


 「フッ……」


 俺は九頭竜坂の殴り方を見て、思わず笑ってしまった。


 実に脳死で単純で失笑してしまった。


 俺に、数発殴りかかってきたが、全て空を切った。

 俺は当然のごとく、余裕で九頭竜坂のパンチを掠ることなく全てかわした。


 「ほう…俺の攻撃を全てかわすとは、貴様、やるな?!」


 「別に大したことない…今程度の攻撃なんて、小学生でもかわせる」


 「あぁ!お前はそうとう死にたいらしいな!」


 「ああ、殺す気で来い…そうしないと、こっちから殺すぜ?」


 さて、そろそろやるか…

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