第19話 この想いだけは…
はじめに言っておきますが今の私は偽物の私です。
本来の私ではありません。
と、言っても今は言っている意味がわからないと思います。
ですが、今それを話すのも少々骨が折れます… なので、その説明はまた後日ということで…ご了承下さい。
後々、私が言って意味を理解できる日が来るでしょう…
では、本題です。
「清水さんは嘘なんかつかなそうだよね!」
…と、よく言われます。言われてしまいます。
そう言ってくれるのは嬉しいですが、残念ながら私は嘘つきです。嘘つきまくりの最低人間と言っても過言ではありません。
純粋な疑問ですが、嘘をついたことがない人なんているでしょうかね…いたら尊敬します。
まあ、いないと思いますが…
最近、ここ一週間は特に嘘をついてしまってます。もうつきまくりです。嘘のバーゲンセールですよ…
言い訳すると、あの件が原因かもしれませんね。
私にとっては事件、惨劇と言いましょうか…
こんな嘘つきな私の見苦しい言い訳を聞いてもらえると嬉しいです。
気楽に、聞き流す程度でいいので、聞いてくれたらそれだけで、私の気持ちが少しでも晴れると思います。
あっ…正確には読んでもらえると…ですね。
自分勝手で身勝手な私の言い訳ですが話させてもらいますね…あっ因みにもう強制ですよ?ここまで読んでからには逃がさないですよ!?
なんてね…
では…
あれは、一週間前のことでした。
放課後にある人が待ってると言われて、私は学校と体育倉庫の狭間の木下に行きました。
そこには、九頭竜坂くんがいました。
私を呼んだのは九頭竜坂くんでした。
何度か学校の食堂で九頭竜坂くんを見かけていました。印象としては、正直、少し怖いなと思ってしまってました。
見た目で、人を判断してはいけませんよね…
「俺と付き合え」
九頭竜坂くんは私にそう言いました。
ドストレートです。
ほぼ、初対面というのにそう言ったんです。
交際の申し込みです。
私は少し間を空けて、言いました。
「ごめんなさい…」
私にはまだ、好きな人はいません。
かといって、気になる人すらいません。
傲慢なのでしょうね…私は。
好きなタイプとかも別にありません。
恋愛はしたいな〜とは考えてはいます。
ですが、いまいち恋やら愛やら、人のことを恋愛的に好きとはまだ、感じたことも思ったこともありませんでした。
なので、九頭竜坂くんには申し訳ないのですが、付き合うことはできません。
恋愛とか、交際とかは安易な気持ちで承諾してはならないと思います。
それに、私なんかより可愛くて、性格のいい子は世の中にたくさんいます。
そもそも、私では九頭竜坂くんに見合ってないですしね…私ではもったいないですよ。
それらのことを考えての言葉でした。
「は?お前に拒否権なんてねーよ」
と、九頭竜坂くんは即答しました。
えっ?と驚いてしまいました。
拒否権がないとはどういうことでしょうか?
たしかに、こんな私にある権利としたら人権ぐらいですが…
「えと…どういう意味かな…?」
私は言いました。
意味がわからなかったので。
「お前は俺の彼女だ」
なんということでしょう…
このままでは強制的に彼女になってしまいます。
「あの…それは無理というか…そもそも私なんかじゃ、九頭竜坂くんに釣り合わないというか…」
そう言ったときでした。
九頭竜坂くんは私の肩を両手で掴んで、私を壁に押し付けました。
痛かったです。
とても、強い力でした。絶対に抵抗などできないぐらいに。
「お前は俺に従えばいいんだよ」
そのときの九頭竜坂くんは鬼のような顔をしていました。
とても、怖かったです。
怖くて、体が震えました。
「あっ………の………」
あのときの私は恐怖で声が震えていたでしょう。
「わかったか?」
九頭竜坂くんはさらに言いました。
顔を近づけて、目の前には鬼のような恐ろしい顔がありました。
私はただ震えていました。
「返事は?」
そのあとのことはあまり覚えてません。
多分私は、はいと言ってしまったと思います。
本音でもなく、ただ恐怖から逃れたくて、否定したらどうなるのかが怖くて、そう言ってしまいした。
「誰かに助けを求めてもいいぞ?だが、そいつがどうなるかは知ったことではないけどな?」
唯一、別れ際にそう言ったことは覚えていました。いわいる脅しですね…
こうして、私は九頭竜坂くんの彼女になってしまいました。
初めての彼氏です。
強制的に彼女になってしまいました。
ですが、はいと言ったのは紛れもなく私です。結論は、結局は私が悪いのです。
いいえと言えば、よかったのですから。
恐怖で、九頭竜坂くんが怖くてそう言ってしまったのですから…
結局私はただ逃げただけです。
次の日には、もう私と九頭竜坂くんが付き合ってることが学校中に広まっていました。
しかし、たった1日程度でここまで広まってしまうとは恐ろしいですよね。
「聞いたよ!九頭竜坂くんと付き合ったんだって?」
親友の春色ちゃんがやってきて言いました。
「……うん」
私はそう言うしかありませんでした。
例え不本意でも、不平等でも事実は事実なのですから。
それに、私は本当のことは誰にも言うつもりはありませんでしたし。
もちろん、親友の春色ちゃんにだって、本当のことは話せません。
話してしまったら、どうなるかわかりませんからね…
ここまで、約一週間、九頭竜坂くんと付き合っての学校生活でしたが…大変でした。
学校では、ただ隣にいさせられました。
それはまだ、マシな方です。
放課後、一緒に商店街など行った際に九頭竜坂くんは非常識で、他の人に迷惑になるような行動、行為をしていました。
なので、私は注意をしました。
それが、九頭竜坂くんの逆鱗に触れてしまったようです。
そのあとは、人気のない橋下などで私は暴行を受けました。
髪を引っ張る、押し付けられたり、お腹を殴られました。
痛かったです。
辛かったです。
苦しかったです。
それからは、それが日常的になりました。
私は、九頭竜坂くんのストレスの受け人形のようだったと思います。
そんな日々は地獄でした。
落ち込みました。
元気が出ませんでした。
ですが、学校ではなるべく普段通りに振る舞いました。
友達や先生、周りに悟られないに。
もし、このことを知られれば、私を気にかけたり、助けようとすれば、その人たちが九頭竜坂くんに何をされるかわかりません。
それが、怖いのです。
私のせいで、他の誰かや、大切な人が傷つくのが何よりも怖いのです。
「清水さん…大丈夫?なんか顔色が悪いけど…」
「あ〜ちょっと、寝不足でさ!全然大丈夫だよ!」
と、私はまた嘘をついてしまってます。
嘘つきなのです。
でも、これでいいのです。
私が耐えればいいのです。
私だけが辛い方がいいのです。
私だけが痛い思いをするだけでいいのです。
周りは関係ない、巻き込みたくない、傷つけたくないのです。
ですが、あるキッカケで私は別れを言おうと決心しました。
そのキッカケは、またまた、ある日の放課後の帰り道のことです。
私はぼーっと歩いていました。
何を考えていたのかはわかりません。
でも、ストレスやら、疲労やはで結構限界だったのかもしれませんね、フラフラでした。
そして、あろうことか私は赤信号なのに無意識で信号を渡ろうとしてしまいました。
気がつけば、車が私に突っ込んで来ました。
まあ、車道は青なので当たり前ですが…
そのとき私は、あっ…死んだって思いました。
ですが、ある人が私を身をもって助けてくれました。
その人は同じクラスメイトでした。
全く、私はどうしようもない女です。
自分自身で幻滅します。
助けてもらったのに、その人に別のある感情を思ってしまいました。
その後は、その人には当然に幻滅させちゃいましたけどね…
このことが、私にとってキッカケです。
このままではいけない、前に踏み出さなければいけないのです。
助けは求められません。
自分で対処するしかありません。
そして、私はある喫茶店で別れを九頭竜坂くんに言いました。
結果としては、最悪ですね。
無謀で無計画で無鉄砲でした。勢いのままに言っただけでした。
承諾なんてしてもらえるわけがなく、今こうして無理矢理に手を引っ張られています。
そして、人気の無い橋下まで連れられました。
で、いつも通りに壁に押さえつけられました。
九頭竜坂くんは今まで以上に怒っていました。
「最後にもう一度だけ聞いてやる…お前は俺と別れたいなんて言ったのか?!」
九頭竜坂くんは鬼よりも恐ろしい顔で私に言いました。
「今なら許してやる…俺と別れたいのか?」
今訂正すれば、別れないと言えば許してもらえる…酷い目に合わなくてすむ…痛いことされなくてすむ…傷つかなくてすむ…楽になれる…
でも、逃げたくない。
私の思い、決意、決心は変わらない。
周りに偽ってきた…
嘘をついていた…
「……は…はい!言いました!私は九頭竜坂くんと別れたいです!何を言われようと、されようと、それは変わりません!!私の気持ちは変わりません!」
でも…この、想いにだけは…嘘をつきたくない…!
「そうか!残念だ…」
九頭竜坂くんは、拳を高く空へ振り上げました。
ああ、また、暴力を振るわれる…もう嫌です、嫌です、嫌、嫌、嫌…イヤイヤイヤイヤイヤ!!!!
嫌です…
嫌だ…
限界です…
誰か…
誰か…
………………………
「うう……誰か…私を助けて…」
「そこまでだ」
………誰かの声が聞こえました。
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