第17話 スペシャルパフェ
「陰田くん!一緒に帰ろ?!」
掃除が終わって、帰ろうとしたときに天野が俺に言った。
「あ〜、ご……」
断ろうとも、思ったが俺がこれから行く喫茶店はどうせ駅周りの商店街にあるし、一緒に帰るだけなら別に構わない。
それも、天野だからだ。
他の女子とかだったら無理。
天野は他の女子に比べて、話しやすい、接しやすい。
もちろん、好意とか、好きとかではない。
「あご?」
天野は首を左に傾けた。
「ago?」
天野は首を右に傾けた。
「顎が痛い…」
「えっ…大丈夫?陰田くん?」
何を言ってんだか。
とりあえず、誤魔化しておく。
特に意味もないが…
「ああ、問題ない…いいよ、一緒に帰ろう」
「やった!」
天野は嬉しそうに微笑んだ。
ってことで、帰り道。
俺は昨日と同じように天野と横並びで歩いている。
天野のほんのり優しいく甘い匂いが鼻を通る。この距離感なので特に匂いを感じる。
「ん?陰田くん、私の顔に何かついてる?」
おっと…無意識に天野の天使のような顔を見すぎてしまった。
「い、いや…別に何もついてないよ」
「ふ〜ん…あっ、そういえば掃除の時間、早乙女さんと何を話してたのかな?」
「えっ…?」
「ほら、陰田くんが早乙女さんと仲良さそうに話していて意外だなって、少し気になっちゃって」
「なんか、このあと暇かって…」
「え?!それってデートのお誘いじゃない?」
「いやいや、違うだろ…」
「違くないよ、逆にデート以外ないでしょ?」
デートの誘い?な訳…
どうせ、早乙女なんかと一緒に遊んだら奢りたかられる気がするしな。
まあ、全部俺の偏見であり、決めつけであるけど。
俺は大抵のことは偏見で決めつけるような最低なやつだ。
そこに関しては素直に謝ろう。
ごめんなさい…
でも、時にはその偏見が役に立つこともあったり…なかったり…
「じゃあ…この後って…」
「いや、普通に断ったよ」
「え?なんで?」
「今日はちょっと用事があるんだ…」
行きつけの喫茶店でラノベを読むという用事がある。
大事な用事。外せない用事。必要な用事。
俺の心の安らぎの一時。
「用事って…?」
喫茶店でラノベを読みます————とは言いいたくない。
できれば、誰にも言いたくないのだ。
俺だけの秘密。シークレットだ。
「親に買い物を頼まれて…」
「そうなんだ!」
嘘をついた。
俺の得意の嘘。
「陰田くんはえらいね〜ちゃんと親のいうことを聞くなんてさ」
「そうか…?」
「私なんて、絶賛反抗期だから、おつかいなんて頼まれたらヤダって拒否しちゃうもん」
まあ、嘘なんだけどな…
「親と仲がいいんだね〜」
「いや、別に…」
天野が想像するような家族ではない。
仲の良い、理想的な家族でももちろんない。
「あっ…そういえば、清水さんだけど…なんか、体調悪そうだったよね…」
次は清水の話題か。
「まあ、そうだな…」
たしかに最近の清水の様子を見る限りなにか変だ…清水は疲れている様な、疲労困憊という感じだった。
ただの体調不良とかなら、まだいいが…俺は何か裏がありそうな気がすると思う。
「あんなに元気だったのにね…風邪かなぁ?」
「さぁな」
どうせ風邪かなんかだろ。
とりあえず、安静してほしい。
「それはそうと、清水さんの彼氏さん!九頭竜坂君って意外だよね〜」
Bクラスの九頭竜坂。
見るからに、ヤンキーみたいなやつだった。
絶対に関わりたくないと心の底から思った。
「まあ、ああいうやつが好きなんだろ」
清水は多分、ヤンキーが好みなんだろう。
「確かに、少し怖い感じがするけどかっこいいもんね!」
「そうだな」
「まあ、私は陰田くんの方がかっこいいと思うけど…」
「えっ?」
唐突のかっこいい宣言に俺は驚いた。
「ああ!違うよ!変な意味とかじゃなくてね!その、私の好みというか…」
「好み…!?」
「ああ、言い間違えた!言い間違えたよぉ!今のなし!聞かなかったしてぇ〜」
天野はあたふた焦っていた。
「わかった、わかった聞かなかったことにする…」
「あっ、そうだぁ!」
と言って天野は俺の前に立った。
そして、俺の鼻を綺麗な指で押した。
「忘れるスイッチオン!ポチっとな」
昨日もこんなことやったな…
俺は駅で天野と別れた後、予定通りに喫茶店へと来た。
さて、頼むものは決まっているが一応メニュー表を見ておくか。
「なっ!」
あるものに目が止まった。
それは、スペシャルパフェだ。
俺は甘いものが大好きだ。
特にスイーツ系。ケーキや、クレープとか。
メニュー表にパフェが追加されていたのだ。
しかも、スペシャルだ。
その名の通り一般的なパフェに比べて、ボリュームが違う。
圧倒的に大きい。
「全長…1.2メートルだとぉ!」
思わず声を出してしまうほどの大きさだった(もちろん公共の場なので小声だ)
もはや、ゴジラだ。
大怪獣だ。
だが、一つ問題がある。
それは値段だ。
このスペシャルパフェの値段2880円(税込)
一般的なパフェは1000円前後だ。
2.5倍以上も高いのだ。
だが、その価値は十分ありそうな見た目をしている。
食うか…?
お腹は減っている。昼にカレーとラーメンを食べたというのに腹ペコだ。
全く…俺のお腹は欲張りだ。
財布の中身を確認する。
5000円札が顔を出していた。「やっほー」って…
金は足りる…だが…
食べるか食べないか、迷う。
クソ!決断ができない!
俺はふと、テーブルの上に置いてあったラノベを見た。
その,ラノベの主人公の名言「迷ってる暇があったら進め!」を思い出した。
結局俺はその言葉に背中を押されてスペシャルパフェを頼んでしまった。
あと、ココアも頼んだ。
悔いはないはずだ。
今まで、後悔だらけの人生だったが今回は大丈夫だろう。
パフェの語源はパーフェクトだぞ?つまり完璧という意味だ。
完璧だから心配することはなにもないはず…
それに、これも冒険だと思えば気が楽だ。
それから、10分ほどで俺の目の前にスペシャルパフェが届いた。
写真で見るより迫力があった。
さすがはスペシャルというだけある。
「いただきます」
俺はパフェというものを開発した人に感謝をして、一口パフェの生クリームを口に運んだ。
「おいち〜〜!」
俺は心の中で叫んだ。
美味しすぎたのだ。
ほっぺがとろけるような甘味が口の中に広がった。
やっぱり頼んでよかった!
俺はあっという間に、スペシャルパフェを完食してしまった。
気づいたら無くなっていたような感覚だった。
さてと、満足したしゆったりとラノベでも読みますか。
そう思い、ラノベを開いた瞬間だった。
「ったく!遅ぇんだよ!たらたらすんな!」
俺の席から少し離れた席から怒号が聞こえた。
こんな喫茶店という神聖な場所で大声を上げるとは、けしからんやつだ。
まるで、マナーがなってない。
俺はそのけしからやつを睨んでやろうと目線を送ると…驚いた。
そいつは九頭竜坂だった。
そして、その前には清水奏の姿もあった。
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