第14話 おかめ仮面

 次の日の朝である。

 俺はいつも通り朝一番乗りで教室にいる。

 もちろん、誰もいない。いや、今日は誰もいない。

 清水奏もまだいない。


 誰もいないので、ものすごく静かだ。

 そして、その中でラノベを読む。それが、俺のロマンってやつだ。

 ああ…今週はこうして朝のラノベルーティンをできていなかったから、できてよかった。

 久々の優雅な朝ってやつだ。


 読み始めて、5分ほどたった。

 読んでいるラノベも主人公がヒロインの女子に告白する一歩手前のシーンまで迫っていた。

 いよいよここからが本番だ。物語において1番面白くなるシーン、いわば見せ場というやつだ。クライマックスだ。


 どうせ、クラスのやつらが登校する時間までは、あと10分はある。読むのが早い俺ならば、告白シーンの章は読み終えれるはずだ。

 

 さてと、続きを読も…

 「ガラガラ」


 教室の扉が開いた音がした。

 誰かやってきたのだ。

 クソ…いいところだったのに!一体誰が邪魔して…え?!


 教室の扉を見ると、見慣れない人物が立っていた。

 それもそのはずだった。


 それは、を被っている何者かだった。


 「誰だ…?」


 俺は恐る恐る言った。

 あんな、おかめの仮面なんか被るやつなんてまともな奴はそうそういないだろう。

 まるで、何かの組織の一員のよう。

 何か怪しい組織のよう。


 格好は制服。つまり学生の誰かの可能性が高い…一体誰が?何のために?何が目的で?


 「ふふ…誰でしょうか?当ててみな…蒼」


 その声はトーンが以上に高かった。高音だ。

 まるで、ヘリウムガスでも吸って声を変えたように。

 いや、実際変えたのか。

 声で正体がバレないようにするために。


 見た目、声までも、完璧に隠しているのだ。

 隠蔽しているのだ。


 待てよ、コイツはもしかして…

 言ってみるだけ言うか…

 ものは試しよう…


 「おい、いい加減お遊びはやめようぜ鬼介」


 俺はおかめ仮面の人物に言った。

 言ってみた。

 半分勘だ。


 「へっ!なぜ俺とわかった?」


 仮面をとって確認できたのは、やはり鬼介だった。


 「鬼介だと思った理由は簡単だ、まず俺の友達はお前含めて2人しかいない…グテスか鬼介だ。それに、身長や、体型、笑い方とかがクデスとかけ離れていたからな…よって、クデスは除外される。そして、こんなくだらないことをするのは、しそうなのは、鬼介、お前ぐらいしかしないからな…」


 万が一、ただのやばい組織だったらどうしようかと思っていたが、アニメの見過ぎだな。

 まあ…おかめの仮面を被りそうなやつをお前浮かべたら、鬼介が思い浮かんだから言ってみたのだが…とりあえず当たってよかった。


 「フハハ!さすがは我が友でありライバルの蒼だな!」


 鬼介は以上に高い声で笑った。

 思わず笑ってしまうくらいの声の高さだ。


 「で?ただのドッキリのつもりか?それとも、俺を試したのか?」


 一体なぜ、こんな意味不明なことをしたのか?


 「まあ、試したのもあるが変装の仕方をこうして実演してやろうと思ってな…」


 「実演?」


 「そうだ、今この街にはダークエンジェルのやつらが潜んでいる。俺たちの存在を奴らに知られてはならない。そこでだ!目立った行動をするときには変装をすることで俺たちだとバレないようにすることができるのだ!」


 「なるほど…」


 そんなことで俺の朝の至福の一時を邪魔したというのか…


 「ん?なんか蒼、もしかして怒ってる?」


 「イエス、キル、ユー!」


 

 結果として、鬼介からおかめの仮面とヘリウムガスをもらった。いや、渡された。

 いらないと言っても渡された。

 もらわないと鬼介がうるさいのでなくなく受け取った。


 「もし、自分の正体をブラックエンジェルや、別の何かから身を隠したいときに使え」


 と、鬼介が言っていた。

 こんなもの、使うときが来るのだろうか?

 来るならできれば今日きて欲しい。

 なぜなら、これを持ち歩くのは今日で最初で最後だから。

 


 それから、ぞくぞくとクラスメイト達が教室へと入ってきた。

 はぁ…今日も地獄のような1日が始まるのか。


 しかも、朝のラノベタイムを邪魔されるという最悪な始まり方だった。

 終わりよければ全てよしなんて言葉があるが、いくら終わりがよくても俺は嫌だ。全てよくないと意味がない。

 我儘かもしれないけれど、人間って基本的に自己中で我儘の塊りみたいなものだろ?

 オールグレイトディがいい…

 

 貪欲に生きてなんぼよ…


 「おはよう」


 そう俺に声をかけたのは清水奏だった。

 清水は昨日よりも、疲れたような、体調が悪そうな表情をしていた。

 せっかくの美しく、可愛い顔も、今日は感じられない。


 「おはよう…」


 いつも通りの挨拶。

 清水がおはようと言って、俺がおはようと返すだけの言葉のキャチボール。

 

 それ以降に会話はない。

 俺からなんて話しかけるわけがないから。

 そうだったのに。そう思ってたのに。

 話しかけようとなんて思わなかったのに。


 「大丈夫か?」


 俺は清水に言った。言ってしまった。

 おはようの後に俺から清水に話しかけるのは初めてだった。

 普通はこんなことしない。


 だが、今の清水の様子は何か変だ。

 明らかに異常だ。

 もし、万が一清水が助けを必要としているならばできる限りのことはしたいと思ったのだろうか?


 「大丈夫だよ!」


 清水はそう言って笑った。

 明らかに作り笑いだった。

 無理をして、平気なのを装っているように見えた。

 

 「そうか…」


 清水がそう言うなら仕方ない。

 何か問題があると思った俺の勘違いかもしれない。

 ただ単に体調が悪いだけなのかもしれないし。変に首を突っ込もうとしたのが間違いだった。余計だったのだ。余計なお世話だ。

 

 「おはよう!陰田君!」


 次にやってきたのは天野だった。

 天野は相変わらず元気そうだ。


 「おはよう、天野」


 「今日はいい天気だね!あっ、清水さんもおはよう!」


 「おはよう…天野さん」


 「あれ?清水さん…なんか調子悪そうだけど大丈夫?」


 天野も清水の様子から察したようだ。

 今の清水は誰が見ても思わず心配して当然の顔だ。


 「うん!大丈夫!ちょっと、お腹が痛むくらいだよ」


 清水はわざとらしくお腹を摩って言った。

 俺には嘘にしか聞こえなかった。


 「…あまり無理しないでね?なんかあったらなんでも言って!私にできるとこならなんでもするから!」


 天野は清水の手を握って言った。


 「ありがとう…天野さん…」


 「フフッ、困った時はお互い様だよ!」

 

 これが女子同士の熱い友情ってやつか…

 俺には熱々すぎて、火傷してしまう。

 

 気のせいかもしれないが、少しだけ清水の顔に生気が戻ったように感じた。


 

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