第12話 逃げ出したい…
はぁ…逃げ出してもいいだろうか。
今俺の状況は最悪そのものだ。
まるで、切れ味抜群の日本刀を首元に当てられている気分だ。
そんな状況なら誰だって逃げだす。
せめて、逆刃刀にしてほしい…おろ?
春色瑠花に問われた質問。
いや難問。無理難題。
「昨日なんで奏と一緒にいた?」
俺からしたら、なんで清水奏と一緒にいたことを知っているのかということ。
確かに昨日清水奏と一緒にいたことは紛れもない事実だ。
さて、この質問にどう答えるのが正確か…
一つは、惚けること。
そんな場所にも言ってないし、清水奏とも会っていないと。
「知らない!知らない!私が知るわけない!」と惚ける。惚け通す。
だが、もし惚けて嘘をついてバレればさらに面倒なことになるかもしれない。惚けるのはリスクが生じる。
嘘をついたとバレれば、春色に拷問された上に殺されるかもしれない。
もう一つは素直に認めること…
「すみません!俺が悪かったです!」
と、土下座でもすれば、春色は許してくれるだろうか…いや、そもそも俺は悪いことはしていない!
俺が選んだ選択肢は。
「俺は清水とは会ってな…」
「見たわよ」
はい、終わった。
俺は惚ける作戦に出たが、秒で砕けさった。
お疲れ様でした〜
死んだら異世界転生できるといいな
「あんたと、奏がファミレスから出るのを見たのよ…」
「そうですか…」
なぜそんなところを偶然、奇跡的に見たのだろうか…見てしまったのだろうか…目撃してしまったのだろうか…
本当に偶然とは恐ろしいものだ。
「で?質問を繰り返させてもらうけど、なんで奏と一緒にいた?」
振り出しに戻ると。
さて、なぜと聞かれてもな。
清水がお礼に飯を奢ってくれました———って…意味がわからないしな…春色にとっては。
最初から全てを話すのも骨が折れる。
「それは…清水本人聞けばいいんじゃ?」
そうだ、春色は清水と仲がいいはずだ。
そんなこと、わざわざ俺に聞く前に清水本人に聞けばいい。
「……最近、奏の様子が変で…」
「変?」
「なんか、暗いというか、元気がなくて…」
「……なんでだ?」
「聞けないよそんなこと…だって深い事情があるかもしれないし、奏が相談したいと思ったらあっちから話すと思うし…」
そんなものなのか…?
変に気を使っているということか。
たとえ、親友でもそこはシビアと。
たしかに、春色がそう思うのはわかる。
だけど、清水は誰かに聞いてあげると言われない限り自分から話せないようなことかもしれない。誰かが救いの手を差し伸べない限り…
まあ、そんなのは俺の空論だが…
「あんたじゃないでしょうね?」
「へ?」
春色は俺を睨みつける。
何やら変な誤解をされているようだ、勘弁願う、冤罪だ!
「俺は関係ないよ」
「……まあ、陰キャのあんたが何かできるとも思えないけど…」
酷いいいようだ。
だけど、陰キャと言ってくれてありがとう。
「で?まだ、私の質問の答えをもらっていないのだけど?」
「たまたま、ファミレスで会っただけ」
ということにしとこう。
ということにしてもえませんか?
「たまたまにしては、とても仲が良さそうだったけど?」
「清水が優しいだけだろ」
「いや、でも最後は奏が悲しそうに走り去っていたわよね…」
ギク…
そこも見られていたのか…
1番見られたくない場面を見られてしまった。
「奏になにかした?」
「なにも」
「本当に?」
「本当に…」
怖い…ナイフのように鋭い目つきで俺を見てくる。次の瞬間には俺の首が掻っ切れてしまうかも…
「フン!まあ、いいわ」
春色は鼻を鳴らした。
どうやら、誤魔化せたようだ。
そのあと春色はカレーをもぐもぐと食べ始めた。
「……話は終わりか?」
「…ええ、終わったわよ」
「行かないのか?」
「なんで?」
普通、用が終わったら立ち去るだろ…?
陰キャと2人きりで昼食なんて嫌じゃないのか?
「あんたも、まだまだカレーが残ってるじゃない…食べないの?」
「食べるけど…」
「何よ、陰キャのくせして私と一緒に食べるのが嫌なの?」
また、春色の目が鋭く尖っていく。
「い、いや、別に俺は構わないけど、春色が嫌じゃないのかって…」
「嫌に決まってるでしょ?」
嫌なんかい。
「でも、私が立ち去ったらアンタが1人で食べることになるでしょ?それは、いくらなんでも可哀想だからこの超絶美女の春色様がご一緒してやってんの?」
「はぁ…」
コイツ、なんか凄いやつだな…
自分のことを超絶美女とか言っちゃうのか。
超絶陰キャの俺はそんなことは言えないな。
「感謝しなさいよ」
「は、はい」
「じゃなくて?」
「ありがとうございます…」
「うん、よろしい」
春色は俺がお礼すると、ご機嫌そうにカレーを頬張った。
コイツ結構単純だな…
まあ、春色の機嫌が良くなったのならいい。
さっさとカレーを完食させて立ち去ろう。
「そういえば、来月のテストだけど、あんたは大丈夫なの?」
急に別の話題をふっかけるな…
「多分…」
「多分?前回のテストの合計点数は?」
「う…325点」
定期テストは国語、数学、社会、理科、英語の5教科、各教科100点満点、計500点。
その500点満点のうちの俺は325点だ。
この学校の合計平均点数とほぼ同じだ。
「低くもないけど、高くもないわね…普通って感じ、面白味のかけらも無いわね」
まあ、それを狙ってやったわけだからな…
「悪いかよ…それなら春色は?」
「私は…その…」
「ん?」
「340…」
俺と15点しか変わらない…
それなのに、俺を馬鹿にしたのか。
「340…俺とさほど変わらな…」
「でも、アンタよりは上!上なのは変わらない!」
「そ、そうだけど…」
意地張りなのか、負けず嫌いなのか…
「だったら、来月のテストの合計点で勝負する?」
「いや、遠慮しとく…」
「はぁ?私に負けるのが怖いの?」
「ああ…春色が平均点以上を取れば君が勝つだろうし…」
「フン…まるで、狙って平均点をとってるみたいな言い方ね」
「そんなやついないだろ」
「そうね、メリットがないものね…」
俺はカレーが食べ終わった。
春色は喋ってばっかでまだ、半分以上残っている。
「俺は食べ終わったので失礼しま…」
「なに?自分が食べ終わったからって、私を1人にするつもり?」
俺が立ち去ろうとすると、春色の鋭い目つきが俺の首元を刺した。
「いえ…」
「だったら、お座り」
「
そして、俺は大人しく春色が食べ終わるのを飼い主のことを待つ犬のように待ったのだった。
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