第10話 走れ陰キャ

 痛い…痛い。

 ただひたすらに頭が痛い…

 もはや、痛みなど通り越して激痛だ…

 激痛が俺を襲う。

 頭痛か?いや、もっとだ…それ以上だ…

 頭が割れるように痛みが響き渡る。

 

 痛い…痛すぎる!


 「ハッ…!?」


 俺は目が覚めた。


 「オラァ!」


 「痛っ…てぇ!!!!!!!!!」


 俺は痛みで叫んだ。   

 咄嗟に俺はおでこを手で押さえながらベッドから撥ね起きた。


 「やっと起きたか、この変態、寝坊助!」


 はぁ?!

 何が起きたかが、さっぱり、キッパリ一寸とも理解できなかった。

 俺はあまりに意味が理解できずに、軽くパニックを起こしていた。


 俺の目の前には義理の妹である美来がいた。

 普段絶対にいないはずの美来がいた。

 普段俺から起こすはずの美来に起こされた。


 なぜ、美来が俺の部屋に?


 夢にまで見た最愛の妹が優しく起こしてくれるというボーナスイベント…というわけでもなさそうだ。

 むしろその逆だ。


 起こしてくれたが、優しくではない。

 むしろ優しさの真逆、優しさなんてものは1ミリも無かった。

 ただ美来が気まぐれに俺に暴行したかっただけではないだろうか…なんて被害妄想が膨らむ。

 誰か、頼むからこの状況を説明してください。なんて、そんなご丁寧に説明してくれる人など存在しないことは、もう証明されている。


 眠っていたのであくまで予想だが、現状から考察するに、美来は俺のおでこに平手チョップをかましていた。


 平手チョップで起こされたのだ。

 なぜに平手チョップなのか…?

 まだ、グーパンやフライパンで顔面を叩き起こされるよりは明らかにマシな方ではあるものの…


 「痛てて…酷いなぁ、起こしてくれるんだったらもっと優しく起こしてくれよ」


 俺は文句を垂れ流した。

 いくら、俺のことが嫌いだからってそれ(平手チョップ)はないだろ。

 そのおかげで今なお、俺のおでこは痛む。

 おそらく、骨などに異常はないが痛いは痛い。


 「アァ?昨日の借りを返したんだよ」


 美来は、そう言ってそっぽを向いた。


 昨日?

 そういえば、昨日うっかり、あくまで偶然で、悪気やいやらしい気なのど一切なく、美来の裸を直視してしまったのだ。ガン見してしまったのだ。


 今も美来の発育途中の裸体を鮮明に覚えている。なんなら、今宵の夢に出てきた様な…


 なんだよ…そんなことで、怒っているのか。

 たかが、裸を見られたぐらいで…大袈裟な、

 全く…手がかかる妹だな。


 確かに裸は見てしまった…だが、こちらも裸を披露した。見せたのだ。同じ土俵に立ったのだ。結果的には、イーブンじゃないか?


 ん?そんなことを考えていると…俺は一つ大事なことを確認するのを忘れていたことに今更ながら気づいた。

 

 そのことを思い出したのは、美来が制服姿だったからだろう。


 「待て、今何時だ?」


 俺は声を震わせて美来に訪ねた。


 「………ご自身でご確認くださぁい〜」


 美来は悪魔のようなうすら笑みを浮かべながら俺にスマホに表示されている時刻を見せてきた。


 俺は表示されている時刻を見て驚愕した。


 「まずい!」


 このままだと遅刻してしまう。


 俺はすぐさまに支度を急いだ。

 パジャマを破るように脱ぎ捨て、制服を乱暴に着る。

 幸い、今日の授業道具は昨日の夜に準備してあった。

 偉いぞ俺!

 さすがは俺!


 リビングを彗星のごとく駆け抜けていく際にテーブルにおそらく真由美さんが作ってくれたであろう朝食が置いてあった。

 

 もちろん、朝食を食べる時間なんてあるわけがなかった。

 俺は心の底からごめんなさいと謝った。


 そして、俺は猛ダッシュで駅に行き電車に飛び乗った。


 「現在の時刻は…」


 俺は電車に揺られながら、腕時計の針を確認する。


 よし…


 今の時間だと、ギリギリ紙一重で学校に間に合う。もちろん、最寄りの駅から学校まで全力ダッシュしなければならないが。


 できれば、遅刻はしたくない。

 なぜなら、遅刻すると少なからず目立つ。

 それに、入学してからまだ遅刻をしていない。どうせなら、3年間遅刻0で卒業したい。

 俺は見かけによらず意外と真面目だからな。


 「ハァ…ハァ…」


 俺は乱れた息を整えた。

 もう、汗だくだった。

 それぐらい必死だったのだ。


 クソ、全くもって身支度ができなかった。

 おかげで、顔も洗ってなければ、歯も磨いていない。おまけに、髪をセットしていないのでボサボサだ。


 目覚めてから初期状態だ。

 ああ、なんとも最悪な朝だな。

 まあ、逆にいい朝なんてそうそうないけど。


 「あれ?もしかして、陰田?」


 「!?」


 突然、唐突に声をかけられた。

 

 恐る恐る前を見ると、金髪のロングの少し奇抜な化粧をした美少女がいた。

 バックには多量のキーホルダーや、ぬいぐるみ。

 スマホケースは虹色で余計に輝いていた。


 その姿、格好を一言で言うと、ギャルだった。


 「君は早乙女…」


 その美少女はギャル+美少女こと、同じクラスの早乙女愛羅さおとめあいらだった。


 「はよ!陰田がこんな時間にいるなんて,珍しいね。いつもは1番に教室にいるらしいじゃん?」


 早乙女愛羅はフレンドリーな雰囲気だった。

 彼女はいい意味で誰とでも親しげに接することができるようだ。その証拠に俺みたいなド陰キャに平然と躊躇いなく、躊躇なく、こうやって話しかけてしたのだ。


 彼女は担任から遅刻魔と呼ばれている、遅刻常習犯だ。いつも、平然と遅刻してくるので彼女ことは、印象的で覚えていた。


 まあ、当然記憶に残るぐらいの会話なんてしたことはなかった。

 今になって会話という会話をした。


 なのに、彼女も当然のごとく俺の名前を知っていた。さらに、俺が朝一番に教室にいることも知っていた。


 一体そんなゴミみたいな情報はどこから入手したのか…?


 「あは!髪ボッサボサじゃん!ウケる!」


 彼女は俺のボサボサの髪を見て笑った。


 「これは、その…」


 しまった…

 俺は恥ずかしさに苛まれた。


 「髪をセットできないぐらいに急いでたんだ?」


 「まあ…」


 俺が説明する必要もなく、彼女は察してくれた。


 最寄り駅に着くまで、あと5分ぐらいか。


 その時間で髪をセットしなければ…あっ!

 俺はヘヤブラシを所持していないことに気づいた。

 普段はしっかり髪をセットしてから行くのでヘアブラシなんて必要ないため、持っていなかった。


 まずい、ボサボサのままで学校に行くことになる…

 このまま行けば、下手するとクラスの笑い者になるかもしれない。

 それだけは絶対に避けなければならない。


 どうする?

 隠す?…無理だ。

 ならば、トイレで水を濡らして…駄目だ髪が濡れたまま登校することになるし、そんな時間はもとよりない。


 ああ…八方塞がりだ!


 「もしかして、ヘアブラシないの?」


 彼女は頭を抱える俺を見て察した。

 彼女はよく察してくれる。


 「まあ、その…」


 「おっけ!ウチに任せとけ!ほら、近づいて!」


 「えっ?」


 彼女は俺の手を掴んで引っ張った。

 彼女との距離が詰まる。


 近い…

 体と体が接触している…


 「ほら!ジッとして!ウチがセットしてあげる!」


 彼女は彼女のであろうヘアブラシをバックから取り出した。


 そして、俺の髪をヘアブラシでブラッシングする。

 優しく、丁寧なブラッシングだった。


 「これでよし!どう?」


  2分ほど俺の髪をブラッシングしてくれた。


 彼女は小さな化粧鏡を俺に出した。

 

 「おお…」


 髪は見事にセットされていた。

 普段通りの俺の髪型になっていた。


 「ありがとう!」


 俺は素直に感謝した。

 彼女がセットしてくれなかったら、笑い物になっていただろう。


 「へへっ!バッチリでしょ?ちゃんと陰キャぽさを出しといてあげたからね!」


 ん?陰キャぽさだと?

 ということは彼女は俺を少なからず陰キャだと思っているのか?


 だとしたら、純粋に嬉しいが…

 俺にとって、陰キャと言われることは褒められるのと一緒だ。褒め言葉だ。


 と、思っていたら最寄駅へと着いた。


 「あ〜こりゃ間に合わないね〜しゃーない!一緒に怒られよ!」


 駅を出て、彼女はスマホ時刻を見て言った。


 あと、10分で遅刻となってしまう。

 ここから、学校までは2キロ弱…徒歩で30分はかかる。


 普通なら諦めるだろう。

 が、俺は最後までは諦めない。

 諦めずにやれば、きっと夢が叶うさ…なんて夢物語のような、都合のいい戯言はおいておいて、俺は最後まで運命に抗うつもりだ。


 俺は身を屈める。

 そして、クラウチングスタートのポーズとった。


 「えっ…まさか、走るの?」


 彼女は俺を見て驚いた。

 まあ、駅前の出入り口でクラウチングスタートするやつなんていないからな…


 「ああ、走れば間に合うかもしれない」


 この会話の時間さえ今は惜しい!


 「位置について…よーい…ドン」


 俺は勢いよくスタートをきった。

 

 俺はダッシュで学校へと走った。

 

 鞄が重たいので、走りずらいがそんなこと言ってられない。

 ただ、俺は無我夢中で走るのみ。


 気分はメロス。

 メロスのように太陽の10倍の速さで走れれば良いのだが、残念なことにそれは無理というか不可能だ。


 「クソ!」


 走り始めて2分、信号に捕まった。

 いいときだけに信号に捕まってしまうのはなぜだろうか?


 あと、約8分…だが、このペースだと間に合いそうだ。よかった…


 「はぁ…はぁ…ちょっと、待って…」


 「!?」


 なんと、早乙女がここまでついて来てたのだ。


 相当早いスピードを出していたが…

 まさか、ついて来れるとは驚きだ。


 だが、見るからにもう限界のようだ。

 彼女は膝に手をついて息を切らしていた。


 「ハァ、ハァ…もう限界!ウチはもう走れない…」


 早乙女はそう言って、地面に倒れる様に座り込んだ。


 よく頑張りました。

 結果は、どうであれここまでよくぞやったよ君は。

 あとは、任せろ…君の死は無駄にはしない。


 「だから…陰田…連れてって!」


 「えっ?」


 彼女は手を広げて俺に言った。


 「は?」


 「だーかーらー抱っこして連れてってよ!」


 「ん?????????」


 キミハナニヲイッテイル?



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