第7話 ケチャプ&マスタード
それから、清水は何度か会話を試みたが、ことごとく2ターンで終わった。
いや、俺が終わらせた。
清水が質問し、俺が他愛もなく一言で返す。
そんな、地獄みたいなラリーを繰り返していた。
「あっ…着いたね」
気がつけば、ファミレスに着いていた。
「じゃあ、入ろっか!」
ファミレスは夕食時ということもあって、混んでいた。
だが、幸運なのか、不運なのかはわからないが、ちょうど一席だけ空いていたので待つことなくファミレスへと入ることができた。
こういう時だけ、気をつかう神様が憎い。
おい、神様、一回話し合おうか?
幸い、同じ学校の生徒はいなかった。
清水奏と一緒にファミレスでお食事しているところなんて見られるわけにはいかない。
見られてしまったら終わりだ。
彼氏と間違われる?付き合ってると話題になる?その程度ならまだ良いが、多分彼氏さんに殺されると思う。
他人の彼氏に殺されました笑、は笑えない。
「わぁ〜どれも美味しそうだね!私、お腹ペコペコだよ〜」
清水はメニュー表を見て子供のように無邪気に目を輝かせていた。
俺も程よくお腹が空いていた。
「何食べよっかな〜じゃあ…ハンバーグカレーにしよっかな!」
なっ…俺が頼もうと思っていたのに…
先を越されてしまった。
俺は前から、ネットやらの広告でここのファミレス店のハンバーグカレーを見たことがあった。
その度に、是非とも食べたいと思っていたのだ。
「陰田君は?何食べる?あっ、今日は遠慮しないでね!私の奢りだから!」
「えっ?」
思わず声が漏れた。
奢りだと?
「昨日助けてくれたお礼!こんなんじゃ、返しきれないけどね…」
お礼か…だとしても女の子に奢られるのは男である俺のプライドが許さない。
それに、あの清水奏にだ。
「いや、俺の分は自分で出すよ」
俺はキッパリ言った。
「だーめ!私が出す!」
は?
「いや、清水に奢ってもらうとか、頭が高いというか、申し訳ないし…」
「いいよ!だって、お礼だもん!人からのお礼は素直に受け取った方がいいよ?」
コイツ…引き下がらない。
「その、別に助けたからってお礼とかいらないし」
たかが、されども、命を救ったたげだ。
たいしたことはしていない。
「陰田君がいらなくても、私がお礼したいの!」
駄目だ、これは何を言っても無理なやつだ。
意外と頑固なのか?
「わかりました…ご馳走様です…」
俺は渋々折れた。
不本意だが、清水は絶対に引き下がりはしないだろう。
このままでは永遠とこのラリーを繰り返すだと俺は判断した。
「わかればよろしい!」
そう言って清水は、店員呼び出しボタンを押した。
えっ?まだ、俺の食べたいメニューを聞いていないはずだが?
「お待たせしました」
店員が爆速でやってきた。
さすがは某有名ファミリス店、対応が早い。
「あの…俺は…」
「あっ!ハンバーグカレー2つ!」
清水は迷いなく、あらかじめ決まっていたように言った。
「で…いいよね?」
清水はチラッと俺を見た。
確信していたのか、清水は自信満々の表情だぅた。
「はい、それでいいです…」
なぜわかった?俺の食べたいメニューを当然のように当たることができた?クソ…なんだか、一本取られたような気分だ。
しかし、まだ甘い。
俺はできれば、フライドポテトも食べた…
「あと、フライドポテトも!」
参りました。
清水はなぜか、俺の食べたいメニューを全て把握していた。
清水は、俺の心の声が聞こえるとでもいうのか?
やはり、清水は超能力者なのだろうか?
「なんで、俺が食べたいメニューがわかったの?」
店員が立ち去ったあと、俺は恐る恐る清水に聞いた。
「ん〜勘かな!」
「えっ?」
予想外の答えに、驚いた。
勘だと?
数あるメニューから、勘で当たることがてぎるのか?
メニュー数約70種類。
確率にして、1.43%…
神に愛されているのか、はたまた清水自身が女神なのか…両方だろうが…
「当たっててよかった〜!」
「ちょっと待って、当てずっぽってこと?」
俺はつい余計に言葉数を多く発言してしまった。
「まあ、正確に言うと陰田君の好きそうなメニューを予想してみたんだよね!」
俺の好きなメニューを予想した?
そんなこと、可能なのか?
実際にやってみせたので、可能ではあるか。
少なくとも俺には不可能だ。
「すごいね…」
俺は素直にそう思った。
全く、彼女には恐れ入った。
「えへへ、ありがとう」
清水は照れたように笑った。
俺に褒められたのが嬉しかったのか?
「ところで、さっき本屋さんで何の本を買ったの?」
清水の次なる質問が飛んできた。
まずいな。
正直、先ほど買った本名を知られたくはない。
純粋に恥ずかしい。
「ラノベ…題名は、あの夜空へ」
俺は堂々とウソをついた。
清水には申し訳ないが、ここは嘘をつかせてもらう。
「へ〜私、普段小説とか読まないからな〜あっ、もしよかったらおすすめの本とかある?」
「…………んと………」
俺も普段ラノベぐらいしか読まない。
かと言って、ラブコメを紹介するのも違うしな。
清水が好きそうな小説…ん〜難しいな。
異世界転生系?ラブコメ?日常系?それとも、ミステリとかは…う〜む…
「お待たせしました。フライドポテトでございます」
丁度いいところに、店員がフライドポテトを、運んで来てくれた。
「わあ!美味しそうだね!食べよ、食べよ!」
ここで、問題が一つ。
フライドポテトは大皿で一つしかなかった。
つまり、この大皿のフライドポテトをを2人でシェアして食べるといことになる。
清水は、フライドポテトを箸で掴みケチャップをチョンチョンとつけて口へ運んだ。
その姿でさえ、可憐に映る。
つい、清水をじっと見つめてしまう。
「ん?あれ、陰田君も食べなよ!」
清水に名前を呼ばれて意識が戻った。
「うん」
俺は清水のお言葉に甘えてフライドポテトを箸で掴む。
ここで、選択肢が発生した。
ケチャップをつけるか、つけないか。
普段なら絶対にケチャップを付けるが…清水がつけたものに、俺なんかがつけていいのか?
その行動は恐れ多い。
俺が悩んだ末に出した結論は…ケチャップの隣のマスタードをつけて、食べた。
清水がまだ触れていないマスタードならいいだろう。
「もう高校生になって2ヶ月か〜時が過ぎるのってどうしてこんな早く感じるんだろうね」
清水がフライドポテトを頬張りながらそう言った。
俺にとっては長く感じたけど。
清水にとっては、一瞬のようだっただろう。
そりゃ、清水は皆んなから好かれて、もてはやされて充実した学校生活を送れたからだろう。
それに、彼氏もいるし。
俺とは雲泥の差がある。
「あっ、さっきから私ばっかり質問してたね、陰田君は、私に何か質問はないかな?」
清水に質問なんてあるはずがなかった。
別に、俺からしたら清水のことなんて興味がなかったと思っていたから。
だが、俺は無意識に口を開いていた。
なぜ、そう言ったのかは一生わからないだろう。
「清水って彼氏いるんだね」
その言葉の直後にマスタードのマイルドな辛みが俺の口に伝わった。
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