第4話 もはや両手ドン

 俺は、清水奏から逃げるために図書館へと隠れ込んだ。


 もしかしたら、俺を追ってくるかもしれないと思ったなんて、馬鹿か俺は?


 俺を追ってくるとでも思っているのか? 

 第一あんな美少女を怖いと思わないだろ。


 勘違いするなよ俺。

 焦っているのか、意味がわからないことばかり考えてしまう。


 空想にして、幻想。

 想像に幻覚だ。


 逃げたのは、ただ陰キャとして行動したまでだ。

 陰キャなら、多分こうすると思ったから。


 それにしても、清水奏はなぜ俺にかまう?

昨日までと同じように、放っといてほしいのだが。


 彼女を助けてから、彼女が頻繁に(まだ数回程度)俺に近づいてくる。

 お礼がしたいのか?いや、俺はお礼なんて貰える人間ではない。

 それに、人を助けるのは当たり前のことで、あって、あくまで俺は人として当然の行動を、とったまでだ。


 それにしても、この学校の図書室に来たのは初めてだ。


 当たり前だが、本がたくさんある。


 図書室は静まり返っていた。

 物音一つ聞こえない。静寂がこの空間を支配しているように。

 図書室に人が1人もいないからだ。


 ここの生徒は本を読まない人が多いのだろうか?普通、何人かは図書スペースで本を読んでいるものだと思うが。


 たしかに、今の世の中は本ですらスマホ一つで読めてしまう。

 わさわざ、図書館にまで出向いて借りて読むのは面倒だろう。 

 俺は、本を直接手にとって読みたい派だけど。


 誰もいない図書館。

 なぜかテンションが上がる。

 まるで、この世界に俺しかいないようだ。

 

 せっかくなので、図書館を見て回ることにした。


 俺はラノベが好きだが、別に小説や本が好きなわけでない。


 これを期に、普通の小説でも読んでみるか?


 俺は、本棚を見て回った。

 思ったよりも、図書室は結構広い。

 さすがは、学校の図書室といったところか、難しそうな勉強に関する本が多い。

 誰が読むんだ?と思う俺は真面目くんから怒られてしまうな。


 「ん?」

 

 とある本棚で足が止まった。

 

 「ラノベ?!」


 なんと、ラノベがあった。

 普通はラノベとかは図書館にないものだと思っていたが、まさかあるとは。


 しかも、俺が気になっていたものが結構たくさんあった。


 あれ?ここは天国だっけ?

 そう錯覚してしまう。俺からすれば、天国だった。


 借りるしかない。


 買うより、借りる方が絶対にいい。


 無料でラノベを読むことができるなんて、なんだか違法行為みたいだ。

これが、合法なんて…ウフフ…フフフ!


 さてと〜♪

 俺は気になっていたラノベを手に取った。


 その、ラノベのジャンルは恋愛系だ。

 最近は結構、恋愛系を見ている。

 純粋に面白いからだ。決して恋愛をしたいとか、羨ましいからではない。


 まだ、読んでいないが、率直に表紙の子かわええ〜!思った。

 やっぱり、ラノベのキャラは可愛い〜


 「それ、面白いよね」


 「ぎゃあ!!!」 


 突然背後から声に驚き軽い悲鳴を上げてしまった。

 冗談抜きで心臓が飛び出そうになった。


 振り返ると、黒髪のおさげ三つ編みの眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな美少女が本を抱えて立っていた。


 誰だ?同じクラスではない。

 というか、人がいたんかい!


 「そのラノベ私も読んだことがあるよ。ヒロインの子の頭のネジがぶっ飛んでいてね…主人公がその子に振り回されるラブコメだったような…最後まさかのヒロインが別の人付き合って終わってしまうのよね…」


 彼女は俺が今手にしているラノベのあらすじと最後のオチまで綺麗に言った。

 完全なるネタバレだ。


 俺が今から読もうと思っていたのに、物語のオチを言われてしまった。

 最悪だ。

 なに?ただの嫌がらせか?


 「あっ…もしかして、まだ読んでない?」


 俺は首を縦に振った。

 人生で1番に深く首を下に降ろした首の振り方だった。

 

 「あちゃ〜ごめんね、普段この図書室に来る人なんていないからさ、久々に人が来て嬉しくてついはしゃぎすぎてしまった」


 その子は頭の後ろに手を回してそう言った。


 何があちゃ〜だ!こっちは楽しみしてたのをぶち壊されたんだぞ!

 どうしてくれる!?

 ネタバレは最大の禁忌だろ?

 せっかく、楽しみにしてたのに!


 ん?


 俺はふとその子が手に抱えていた本に目が止まった。


 なんと、それは俺が1番大好きなラノベだったのだ。


 「そ、その本は…」


 「ん?ああ、これね。私が1番好きなラノベなの。もしかして、君も?」


 「ああ!俺もそれめちゃくちゃ好きなんだ!」


 あっ…つい興奮して素で話してしまった。

 まあ、いいか同じクラスの人じゃないし。


 「ふふ…君とは気が合いそうだね…君名前は?」


 その眼鏡をかけた美少女は俺に尋ねた。


 「陰田蒼…」


 「陰田蒼くんね…覚えておくよ、あっ私も自己紹介しなきゃだね…私は一年B組の星北栞ほしきたしおりだ」


 眼鏡美少女はまさかの俺と同じ一年生だった。

 隣のクラスか…


 「そっか…思わずネタバレしてしまったよ、じゃあ代わりに別の本をおすすめしてあげよう」


 別の本か…

 星北なりの謝罪の気持ちなのだろう。


 そして、星北は俺に近づく。

 そして、俺の後ろの本棚へと手を伸ばす。

 俺がいるのに、構わずにに接近する。


 「えっ?」


 近い!

 これは、もはや壁ドンと同じ構造をしていた。

 

 しかも、俺が星北に壁ドンされる側。


 「んと、あれ…たしかここら辺に…」


 星北が動くたびに彼女のご立派な胸が俺に摩擦する。


 なんだこの状況は?

 まずい…早く、抜け出さなければ…


 「あった!これね」


 星北は俺の目の前にあるラノベを出した。


 そのラノベのタイトルは…


 「図書室で出会った女の子が可愛すぎた件」


 星北がタイトルを読み上げた。


 「これ、おすすめだよ」


 そのラノベは読んだことがない。

 しかも、めちゃくちゃ面白そうだ。なにより、表紙の女の子が可愛すぎる。


 俺は星北から本を受け取った。


 「面白そうだな」

 

 「面白いよ、これは神作といっても過言ではない。因みに私が好きなシーンはこうやって、ヒロインの女の子が主人公に壁ドンして告白するシーン…」


 星北はそう言って両手を本棚につけ、俺に壁ドンをした。

 いや、この場合は両手ドンだ。

 

 この人は、なにがしたいんだ?


 「そ…そうなんだ…と、いうかそろそろ避けてくれないかな…」


 俺は一刻も早くこの状況を抜け出したかった。

 近すぎる…


 「あっ…ああ!ごめんごめん。つい君を壁ドンしてしまった、いやこれはもはや両手ドンだな…失敬、失敬」


 そう言って、星北はやっと俺を離れてくれた。


 全く…一体全体なんなんだコイツは?

 平然と、いや無意識にあんなことをするのか?


 クソ…ドキッとさせらてしまった。


 「で?借りるの?」


 星北は何事もなかったように平然していた。


 まあ、たかが陰キャに壁ドンしたところで、なんだって話だよな。


 「借ります」


 結局俺は星北にオススメされた本を借りたのだった。


 因みに、星北は図書委員だった。

 だから、図書室にいたのだ。


 「期限は来週の月曜日だからね、厳守してくれよ…もし家に忘れたとか言ったら…わかるよね?」


 そう言った星北の顔は恐ろしかった。


 「ふぁ…はい!」

 

 ちゃんと、来週の月曜日までに返さないと、星北に殺されそうだ。



 ◇◆◇◇◆◇



 俺は星北におすすめされた本を手に持って、教室へと戻った。


 そして、自分の席へ着く。


 隣の清水奏はいなかった。

 とりあえず、一安心。


 といっても、あと少しで昼休みが終わる。


 「はあ〜」


 昼休みなのに、休んだ気分はしない。

 逆に疲れた。

 これからまた地獄の授業の後半戦が始まるというのに、疲れが残っているのはしんどい。


 さてと、話は変わるが、果たして俺の陰キャライフは大丈夫なのだろうか?


 今日だけで、美少女2人と話してしまった。

それは、陰キャとしてよくない。


 普通の陰キャは美少女と話すことなんてないからだ。


 まだ、俺は陰キャになりきれていないのか?

 俺の演じている陰キャは完璧ではないのか?


 一体俺はどうすればいい?


 俺は頭を抱えて、机に突っ伏した。


 「ねえ!ちょっと!」


 ん?


 強い口調が俺に飛んできた。


 俺が机から頭をあげると机の前に、桃色のツインテールの髪の美少女が立っていた。

 


 


 


 


 

 

 


 

 

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