第2話 破壊の始まり

 「朝か…」


 俺は寝ぼけながらスマホのアラームを切った。

 スマホ画面には午前6時と表示されていた。

 全く、朝というものはなぜこうも訪れるのが異常に早いのだろう。


 「ふわっ〜寝むぃ〜」


 昨日は何故だか寝つきが悪かった。

 お陰で寝不足だ。

 体感的に2、3時間しか寝ていないようだ。


 「ふーよっと」


 俺はベットから起き上がり軽くストレッチをした。


 そしてカーテンを開ける。

 陽の光が眩しい。

 俺の部屋から見える景色は隣の家の壁と、俺の家の庭ぐらいだ。

 僅かに見える空を確認する。


 「うん。いい天気だ」


 窓の外には青空が見えていた。


 下に降りると、キッチンで母が朝食を作ってくれていた。


 「あっ…おはよう蒼君」


 俺に気づいたの真由美さんが言った。


 「おはようございます。真由美さん…」


 真由美さんは義理の母だ。

 俺の父は数年前に真由美さんと再婚した。


 まだ、俺はいまだに真由美さんをお母さんと呼んだことは一度もない…

 まだ、正直母親とは思えないのだ。

 真由美さんは真由美さんのままだ。


 父はもう会社へ行ってしまったようだ。


 俺はリビングの奥に飾ってある亡くなった母の写真前に座り「おはよう」と言った。


 俺の母は事故で亡くなった。

 俺を…………


 俺は顔洗い、髪型を整えた。


 そして、真由美さんが作ってくれた朝食を食べる。


 今日の朝食は焼き鮭に卵焼き、そして大好きな卵かけご飯。

 陰田家の朝食は基本和食だ。


 いつも通りの朝。

 普段と変わらない、朝のルーティーン。


 「蒼君、悪いけど行く前に美来を起こしてやってくれないかしら?」


 真由美さんが俺にそう言った。


 「……わかりました…いつも通り起こしてから行きます…」


 「本当にごめんね…あの子ったら…私じゃ起こせなくて…」


 真由美さんは困ったように言った。


 気づけば妹の美来を起こすことが、朝の日課になっている。

 美来を起こすことは気が進まないのだが、真由美さんに言われているし仕方ない。


 「そろそろ、行くか。おっと、美来みくを起こさないと」


 俺は学校に行く前に中学生の妹の美来を起こさなければならない。


 陰田美来

 中学2年生

 特技、空手

 好きなもの ?

 嫌いなもの 俺


 美来は義理の妹だ。

 数年前、俺の父親と未来の母親、真由美さんが再婚し、その時に美来と出会った。


 俺は美来の部屋に行き、幸せそうに寝ている美来を見た。


 なんて幸せそうに寝たんだコイツ。

 寝顔だけは可愛いんだけどな…


 「ムニャ、ムニャ」

 「おい!起きろよ、朝だぞ」


 俺は美来の肩を揺すりながら言った。


 「ムニャ、ムニャ」


 起きない。

 そう、美来は普通に起こす程度では起きないのだ。


 「全く…仕方ないか…」


 俺は、あの作戦を実行することにした。

 

 「よっと!」


 俺は未来の顔に水を浴びせた。


 「うぎゃあ!」


 未来は飛び起きた。

 よし、起こせた。


 「おはよう、未来!」


 「チッ!クソ野郎が!また、なんつー起こし方するだ!」


 未来がキレ気味に言った。

 未来の寝起は最悪だ。


 「こうでもしないと、お前は起きないだろ?ほら、タオル」

 

 俺はタオルを渡した。


 「だとしても、人様に水をぶっかけて起こすとかありえねーだろ!」


 顔を拭きながら未来はそう文句を言った。


 「俺はもう行くからお前もさっさと朝食食って早く学校行けよ」


 「わかったって…うるさいな、そっちこそ早くいけよ!余計なお世話なんだよ!」


 美来は機嫌悪そうに俺にそう言い放った。

 美来は起こされたから機嫌が悪いわけではない。

 いつもこうだ。


 見てわかるとうり、俺と美来の仲は良くない。最悪だ。


 美来の方がなぜか俺に敵意を持っている。

 出会ってから、お兄ちゃんなんて呼ばれたことすらない。

 

 まあ、理由はわかってはいるが…


 俺は未来と仲良くしたいんだかな…

 どうしたら、仲良し兄妹になれるのか…


 未来から「お兄ちゃん」と呼ばれたいな。



 


 ◇◆◇◇◆◇


 俺は学校へ向かう。

 駅から学校までの通学路。


 この時間帯はほぼ俺以外に学校へ向かうものはいない。


 俺の登校時間はクラスの奴らより早い。

 なので通学路で会うこともない。


 陰キャとはいつと早い時間に登校するもの…俺はそう思っている。


 早い時間に登校し、誰もいない教室でラノベを読む…それが、陰キャの朝だ。


 俺は、信号機が赤だったので止まった。

 この場所は…


 昨日のことがふと思い出してしまう。


 「陰田蒼君だよね?」


 「眼鏡してない方が…カッコいいね…」


 アイツ…俺のこと知ってたんだな…

 

 アイツとはクラスメイトの清水奏だ。


 俺は昨日車に轢かれそうになった清水奏を助けた。


 その時、アイツは俺のことを認知していた。


 「まあ、クラスメイトだから知っていて当たり前か…」


 そうだ。決して俺の陰キャっぷりが悪かった訳ではない。


 そう思おう。


 理想は俺の名前なんて知らないっていう展開が望ましかったが、まあ仕方がないだろう。


 まだ、俺は空気になれていないようだ。

 理想の陰キャになるためにはもっと精進しなければならない。

 いい教訓になった、そう思おう。


 そして俺はまだ誰もいない教室へと入る。

 ふふふ…今日も1番乗りだ。


 誰もいない教室。


 俺しかいない教室。

 まるで、世界には俺1人しか存在していないみたいだ。


 なんとも…気持ちがいい。


 このなんとも言えない優越感に浸るのが俺の朝の日課だ。


 さて、そろそろラノベでも読むか…

 楽しみにしてたんだよな、この本。


 本のタイトルは、「あの美少女は堕天使だった」だ。

 なんとも、面白そう。


 そんなことを思っていたら…


 「ガラガラガラ」


 教室の扉が開いた。

 誰かが入ってきたのだ。


 見ると、衝撃的な人物が僕の瞳に映った。


 教室に入って来たのは清水奏だった。


 「あっ、おはよう、陰田君」


 は?


 なんでコイツは、俺におはようなんて言うんだ。


 俺は空気。

 俺は今、空気となっているんだ!


 「今日は天気がいいね〜」


 そう言いながら彼女は俺に近づいてくる。


 あっ…そっか、これは清水奏の独り言か…

 ハハ…彼女は独り言が多いな…


 そう言って、清水奏は俺の隣の席へ座った。


 あ…


 そう言えば席、隣だった…

 今まで、気づかなかった…


 思い返してみれば、毎回彼女はおはようと俺に言ってくれていたのだ。

 まあ、大体無視していたが。


「陰田君はいつもこんな早くから学校来てるんだね」


 清水奏は俺に話しかけ続ける。

 俺は今だに言葉を発していない。

 なのになぜだ?

 なぜ、清水奏は無視し続ける俺にずっと話しかけてくれるんだ?


 ど、どうする?

 このまま、無視し続けるのが正解か?

 たが、さすがに可哀想なのでは?


 いや、ここだ…今こそ陰キャを出すべきでは?

 俺の陰キャスキルを発揮する時!


 「うん」


 俺は二文字で、返した。

 

 ところで、なぜあなた様も早い?と聞きたかったが、普通陰キャは聞かない。

 自分から言葉は発さない。

 基本的に質問に応答するだけだ。

 それも、簡単に即決に言葉を終わらせる回答で。


 「私はなんだか、早起きしちゃってね…たがら、いつもより早く来ちゃった」


 彼女は俺の聞きたいことを答えてくれた。

 彼女はテレパシーでも使えるのか?

 っていうか、なにが「来ちゃた」てへぺろだ!?(大分盛っている)

 

 早く起きたなら、その分また寝ろよ!

 俺は心の中で叫んだ。


 「そ…その昨日はありがとう…」


 なんだ?急に清水の声のトーンが下がったような…


 彼女の顔見ると、頬を赤らめて下を見ていた…


 かっ……可愛い!

 

 ん?


 ……………………………………………!?


 あああああ!咄嗟に可愛いと思ってしまった!ノーカン!今のは不意打ちだ!だからノーカウントだぁぁあ!


 べ、べべべ…別に可愛いなんて思ってないし?!そ、そのちょっと、あれだなって思っただけだし?!


 ………俺は一体誰に言い訳しているだ。

 はぁ…急に冷静になれた。


 「その…怪我とかしてない?」


 彼女は続ける。

 清水は心配そうに俺を上目遣いで見ている…

 

 かっ……かわ!!

 ……危ねぇ!また、あの言葉を言ってしまうところだった…


 さて、ここで回答しなければならない形式か…イエス、ノーで答えられない。


 さて…どうするか…無視するか…それとも…


 「大丈夫」


 俺は3文字だけ返した。

 さすがに無視はできない。


 ならば、できるだけ文字数を少なくするまでだ…


 「そっか…よかった」


 彼女は安堵したような表情をして言った。


 コイツ…俺のこと本気で心配していたのか。

 昨日、フル無視で走り去ったやつに…


 「そ…それでさ…もしよかったらでいいんだけど…」


 彼女はもじもじして、言葉を詰まらせていた。

 なんだ?この雰囲気は?


 ん?なんかマズイ気がする…


 「今日の放課後にどこか、お食事にでも行きませんか?」


 !?

 は?

 これは…まさかの…デートのお誘いかぁ?(はやとちり)


 何だよコイツ!


 俺の頭の中にロケット花火が打ち上げられたように軽くパニックになっていた。


 「ほ…ほら、昨日のお礼もしたいし…蒼くんの食べたいものでいいから…ね?」


 まて、動揺するな俺!

 俺は飛び跳ねそうな心臓の鼓動を抑えた。

 何ドキッとしているだ俺!


 しっかりしろ!俺!

 平常心、平常心。

 俺はどんなときも陰キャを貫く!


 俺は深呼吸をして、心を落ち着かせた。


 これは…絶対に断らなければならない。

 俺の陰キャライフにデートイベントは存在してはならない!

 

 しかし、彼女のことも傷つけたくはない。


 ここで、適当に断ると彼女を傷つけてしまうかもしれない…


 俺は、女の子からのデートのお誘いを無下にするほど、クズ男ではないからな。


 嘘ではなく、断る理由…あっ!そういえば!


 「ご…ごめん…今日、俺の好きなラノベ小説の新刊の発売日で…それを買いに行く…から…」


 よし、いかにも陰キャっぽい言い方だ!

 嘘でもなく、今日ラノベを買いに行くのは事実だし。


 「そ、そうなんだ!それは仕方ないね!じゃ、じゃあ、また今度機会があれば!」


 彼女はそう言ってくれた。


 よかった…彼女を無意味に傷つけずにデートのお誘いを断れた。


 彼女とデートなんて陰キャライフに起こってはならない出来事だからな。


 ここで、他の生徒がどんどんと教室へと入ってきた。


 結構、会話していたんだな…(ほぼ無視していた癖に)


 こんなに、女子と会話をしたのは久々だった。

 どこか、悪くないなと思ってる自分を押し殺した。

 

 そのあと清水奏は、楽しそうに彼女の友達と話していた。


 俺にはもう、話しかけはしなかった。


 よし…なんとか切り抜けたぜ!

 さすが俺!


 


 


 

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俺の陰キャライフがアイツらに破壊される話 あんホイップ @anhoippu

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