二度目の修学旅行。二日目〜part2
その後、奈良の名所も周った後、白木の先輩の大学でやってる展覧会へと向かった。
「・・わぁーっ!春ちゃんひっさしぶりー!!」
そうして、校門のあたりに差し掛かると白衣を着たなんとも目に悪い女性がこちらを振り向き、真っ先に白木へ抱きついていた。
「うぷっ...う、うん。お久しぶりです。先輩。」
すごい質量を持った柔い果実に埋もれている白木は、後輩という体裁を守りつつ挨拶をしていた。
「うんうん、背伸びたねー、あれ、ちょっと胸大きくなった?」
先輩さんは軽く相槌をして、白木の体を好き放題にまさぐっていた。
「ちょっ、違いますよっ先輩!!僕は男の子ですから...うぷっ..」
「良いのよ、私は何があっても春ちゃんの味方だから...」
一向に先輩さんには話は通じる気配が無く、白木が反論しようとした途端に否応なしに柔い果実に再び沈められていた。
「「「.....。」」」
白木の先輩ワールドが展開され、海道らは芸術大学の洗礼を受けていた。
そして、存分に後輩を愛でた先輩さんは、キャラの濃さに唖然としていた彼女らが目に入った。
「...あ、彼女らは学友かい?」
「うぅ...はい....」
すでにライフを使い果たしていそうな白木は、絞り出すように肯定していた。
「....。」ぐいっ
そして、ちょうど隙ができていたため、彼は見計らったように白木を連れ戻した。
「っ...ぁ...うぅ、助かったよ。海道くん。」
「あぁ。」
白木はもう慣れてしまったかのように、自然に彼の体に寄っかかりながら感謝していた。
「あらっ..ふふーん、そういうことね..」
引き離された先輩さんは目を見開いた様子で、意外にも取り返しには来ず、どこか納得していた。
「...あの、展覧会そろそろ始まるのでは...」
話を切り込むタイミングを失っていた久留米であったが、さすがにそろそろ時間が時間だったので、サラッと話を切り込んだ。
「あっ!そうだった...とりあえず行きましょっ!・・ーー」
彼女の一言でハッとなった先輩さんは、小走りで会場へと案内してくれた。
会場につき、何やら偉い人とも話さないといけない先輩さんは、またどこかへ走って行ってしまった。
「・・とりあえず、回りましょうか。」
「えぇ。」
「うん。」
台風のような先輩さんは、会って数十分であったがかなり強烈なインパクトを残していたが、嵐が過ぎ去った空気は静かに澄んでおり、図らずとも展覧会に集中するのに貢献していた。
それぞれ興味の方向性が異なるのか、久留米とソフィアたちは先鋭芸術的なモニュメントを閲覧しており、白木と街道は学生たちが描いた絵画を見ていた。
「・・...ぁ」
しばらく、彼は流れゆく美しい絵画を眺めていると、とある絵画の前で足が止まった。
彼が止まったのは、男性かも女性かも分からない人型の何かが、大きな人の手と握手している絵の前だった。
それは、真っ白な空間の中に、概念的な存在が物質的な生き物と交流しているように思え、何故か彼の意識を取り留めた。
「..あ、これ先輩の絵だね。」
「そうなのか..」
正直、先輩さんのように芸術家というのはぶっ飛んでおり、その止めようのない創造者の個性が作品に反映させるものだと思っていたが、これは少し異なっていた。
先輩さんは破天荒で、自由人で、人の話が耳に入ってこないような典型的な天才タイプで、自分中心に物事を考えていそうな印象だったが、この絵は全く違っていた。
この絵からは、分かり合えぬ、さらには住む世界も、価値観もおそらく違うであろう存在が、手をというか片方は手で、片方は指先でだが、手を取り合い通じ合っているように見え、ああいう人でも自らの道の先に、一人でも他者とわかり合い、手を取り合える世界を望んでいるのだと、心底感心した。
というのは、一旦置いておいて、朝から考えていたことを実行に移した。
「..なぁ、俺の事、先輩って呼んでみてくれるか?」
「え?...あ、うん...えっとぉ...先輩?」
白木は彼の突然の頼みに、戸惑いつつも顎に手を当てながらそう呟いた。
「...くっ...良いな。良い響きだ。」
あまりの素晴らしさに眉間を抑え、ありえたかもしれない世界線への芳しさを堪能していた。
「ふふっ、変なのー」
白木は調子のおかしい彼に頭を撫でられながらも、微笑ましく彼に笑いかけた。
「「...尊い。」」
遠目でその様子を見ていた、とある女子大生達はガッツポーズをしながら、ため息混じりにそう呟いていた。
白木の先輩が開催した展覧会を見終えた、別れ惜しそうに一向に白木を離そうとしなかった先輩と揉めながらも何とか別れ、小腹の空いた彼女らは観光名所を巡りながら食べ歩きツアーを開催していた。
「ーー・・うぅーん。京都の抹茶アイスは本当に美味しいわねっ!」
「やばいですね、抹茶と名の付く物全部が美味しそうに見えてしまいます...」
彼女らは神社の麓で、そこそこ歩いて火照った体をアイスで冷やしていた。
「ふふっ、すっかり術中にハマってますね。」
「何っ?!いつもまに抹茶プロパガンダに洗脳されていたのね...恐ろしいわ...」
「ソフィアさん、かわいいね。」
本当か冗談か分からないソフィアの反応に、白木は純粋な笑顔を振りまいていた。
「「「.....。」」」
「...?」
「..か....かわいいっー!よしよしよし、春ちゃんは本当に可愛いですねー!」
白木は突然黙りこくってしまった彼女らを不思議そうに見ていると、久留米は瓶の蓋が弾けるように愛で愛でモードを全開にして、白木を抱きしめていた。
「うわっ...へへ、くすぐったいよぉ..」
こういった絡みにはもう慣れてしまっているのか、白木はただ純粋に心地良さそうに彼女に愛でられていた。
「...こういう可愛さが必要なのかしら..」
「春ちゃんさん、本当に男の子なのですか...もう、どっちか分からないです。」
そして、ソフィアは女の子としての可愛さを、彼から参考にしようとしており、一方で、青鷺は今まで見たことのない奇跡的な存在を前にして、頭を悩ませていた。
「...あれ、そういえば海道くん。どこ行きました?」
そして、大体こういう状況になったら海道が白木を救出するのだが、一向に白木を救出しようとしない海道を不思議に思った久留米は、彼の姿を探した。
「え、いや、後ろにって...ん」
いつもなら、彼は変な奴が来ないように周囲を見渡しているはずが、そんな彼の姿はどこにもなかった。
「トイレじゃないですか?」
「うーん、それだったら、清澄は誰かに伝えるはずだよ?」
「「「.....。」」」
トイレとかなら誰かしらに行ってくると言い残すはずのため、その線は消え、だんだんと状況が掴めてきて、空気が嫌に静かになってきていた。
「....神隠しかしら..」
「えっ?!っちょ..怖いこと言わないでくださいぃぃ...」
そして、ふとソフィアが考えうる事態をぼそっと言うと、青鷺は妙に信憑性のある怖さに駆られ、ソフィアにしがみ付いていた。
「..まぁ、あくまで推測だから。多分大丈夫よ、なーち。」
「うぅ...」
思ったより怖がっていた青鷺にしがみ掴まれながら、ソフィアは彼女の頭を優しく撫でて慰めていた。
「...うーん、確かに..ここの神社は山を神様として祀っているので、もしかしたら..山の神様かもしれないですね。」
一方で、それを聞いた久留米は神妙な面持ちで顎に手を当てて、他の可能性を挙げていた。
「...海道くん。何かしたんですか....」
ソフィアの説がよりブラッシュアップされ、さらに真実味が帯びてきており、青鷺は仮にそうだとしたら海道は相応のことをしたのかと勘繰っていた。
「うーん、確かに優秀な芸術家やアーティストは、あまりに素晴らしい輝きを放っているから、神様が早くに持っていってしまうって話もあるからね....」
そして、白木はそトドメを刺すかのようにそのような話していた。
「え...じゃあ、海道くんは...本当に....」
青鷺は言ってしまえば、本当にそうなってしまうように思えてしまい、途中で言うのを憚り、今できるのは下山してきたお山を見つめる事だけだった。
しかし一方で、神隠しとか山の神様に連れて行かれたとか、そんな事は全くなく、彼はいつの間にか辿り着いていた、観光地でもなんでもない住宅地を目の前にしていた。
「...あれ、どこいったんだ...あいつら。」
小山の途中にある神社から下山する際に、風に揺られる竹藪の音と新鮮で綺麗な空気に耽っていた彼は、まんまと彼女らと逸れてしまい、いつの間にかここに辿り着いていた。
「....って、充電切れか...」
とりあえず連絡を取ろうとしたが、こういう時に限って携帯の充電がきれており、万事休すとなった。
仮に、山に遭難していれば一大事ではあるが、運がいい事に、ここは只の住宅地であったのでどうとでもなった。
(...まぁ、ここが杜王町の、いわくつきの所じゃなければだが...)
嫌な想定が頭をよぎったが、その時はその時で後ろを振り返らなければ良いだけであったため、兎角、その変な想像は片隅に追いやり、まずは連絡方法を考えた。
「..まぁ、同校の奴に借りるか」
観光地の方に行けば、久留米の無限の友人ネットワークからアクセスできると踏んで、散歩がてら京都の街並みに酔うことにした。
「・・...。」
京都の街並みというのは、築百年は裕に超えていそうな歴史ある建物ばかりで、まるでその時代にタイムスリップしたかのように錯覚してしまう。
そう、まるで誰も俺のことを知らない世界で、足を歩ませるたびに時間がゆっくりと暖色の灯籠に溶け込む。
まぁ、今も似たようなもんか。
そんななんでもない事を考えていると、ずいぶん前から聞き慣れていた声が聞こえ、酔いが覚めてしまった。
「ーー・・なぁ、そんなヒョロい奴より俺らの方が絶対良いって。」
「あんた、バカぁ?!」
丁度、路地の向こうにいる桜楼が不良?に絡まれていた。
「あ"?」
「ちょ..うみちゃん...」
そして、よく見るとチラリと芝春がなんとか穏便にやり過ごそうとしていた。
「あんたみたいに口臭い奴なんかと、比べないでくれる?」
「このアマ...ちょっと面が良いからって言い気になりやがってっ...」
金髪のいかにもな不良くんは、右腕を振りかぶって桜楼に平手打ちをしようとしたが、一寸で路地裏まで吹き飛ばされていた。
ドゴっ!
「け、けんちゃんっ!このぉっ!..ぐふ..」
「うーん、あんま手荒にしたくなかったんだけど....」
吹き飛ばした張本人の芝春は軽く手首をほぐしながら、どこか仕方なしに不良らの相手をする事にしていた。
「お、おい、フクロだっ!!」
「「おうっ!」」
他の者たちが一気にかかるが、案の定数秒足らずで
「グアっ..」
「おふぅぅ...」
「キャァーっ!かっこいいっ!さっすが、私のしーくんっ!!」
発起人である彼女は、金持ちの遊び的なポジションで芝春のパフォーマンスを称えていた。
「ははっ、絶対わざとだよね...うーちゃん。」
こういった事態は前にもあったそうで、芝春のかっこいい姿をみたいがままに、挑発的な態度をしていたと見れた。
(..まぁ、俺の出番はないか...)
一応、いつでも出れるような体制をとっていたが、案の定の結果に一息ついいていた。
そして、結局、主人公な芝春くんは、引き立て役を叩き潰して、好感度爆上がりのヒロインに抱きつかれ勝利?の美酒を浴びていた。
(....ん?)
「....ぐ...て、メェ...」
ビリビリッ!
そう、なるはずだった。
「っ!..うぅ...み...ちゃ」バタンっ
「っ!?...しーくんっ?!」
まだダウンしていなかった者が、桜楼に抱きつかれ身動きが取りにくかった芝春を後ろからスタンガンで倒していた。
「しーくんっ!起きてっ!!」
ダウンしてしまった芝春に必死に声をかけるが、完全に気絶していた。
「...ゴホッ..くそっ、ヒョロガリのくせに調子乗りやがって...」
芝春が加減しすぎたせいで、回復し始めたそいつは桜楼に近づき腕を掴んだ。
「いやっ!なにっ!?」
芝春が心配でそっちに気が取られている中、そいつに腕を掴まれ怯えていた。
「そいつは、後でフクロにするとして...先にオメェを教育しないとだなぁっ!!」
先の口くさい発言がクリティカルだったのか、根に持っていた彼は改めて平手打ちを喰らわそうとしていた。
「いやっ...」
今まで彼に守られていた中、経験ことのない恐怖に駆られ、彼女は目を瞑るしかなかった。
ドゴォォンっ!!
「ぶごっ?!....ぐぅ...ぅ」
先まで目の前にいたそいつは壁に打ち付けられており、コンクリの壁にちょっとしたクレーターが出来ていた。
「っ?!....ん?」
突然の大きな音に驚いた彼女は、瞑っていた目を恐る恐る開けた。
「ぇ...」
先の不良は壁にめり込んでいたが、芝春は気絶していたままだった。
そして、生まれてからずっと知っている、優しい声が彼女の耳に透き通った。
「...立てるか?」
「あ...う、うん。」
自然に出された彼の手を取り立ち上がると、いつの間にか遠くなってしまった彼の綺麗な横顔から覗く、キリッとした綺麗な瞳に射抜かれる。
「...しょ..っと...少し、重くなったな。」
彼は気絶している芝春をお姫様抱っこして、ぼそっと何処か弟の成長を嬉しそうにしていた。
「ぁ...」
彼女は手早く事を進めている彼に呆けていたが、彼の胸に響く重低な声が彼女を気付かせる。
「とりあえず、旅館に帰るぞ。タクシー呼べるか?」
「あっ..うん・・ーー」
その後、近くのコンビニに来たタクシーに乗って旅館へと向かった。
そして、タクシー内では、ダウンしている芝春を挟んで桜楼と彼が後ろの席に座っていた。
「ーー・・.....。」
一人気絶しているとはいえ、かなり気まずいメンバーであったため会話らしい会話はなかった。
「....。」
それはいつもおちゃらけている彼女でも同様で、先の事案は彼女のせいでもあったため罪悪感のためか、いつもより塩らしかった。
「...あ、」
一方、彼はぼんやりと窓から見える景色を眺めていると、ふと思い出したかのように済まさねばならない用事を思い出した。
「桜楼。久留米にメッセージで、色々あって先に旅館に帰るって言っといてくれ。」
「え?!あ、う、うん。わかった。」
突然、彼の低い声に気起こされた彼女は、あわあわとしつつも彼の頼みを遂行した。
ぶーぶーぶー
メッセージが送信されると、間髪入れずに彼女の電話がなった。
ピッ
「はい。もしもし、えっ...いや、それは...あー、変わるね。」
電話に応答した彼女は、何処か電話の主からの投げかけに言いずらそうにしており、電話の主は俺にも用があるようだった。
「?...もしもし、海道だ。」
とりあえず受け取り、電話をかわるとその主は久留米だった。
『何してるんですかっ?!なんで、元許嫁さんといるんですかっ?!』
『え、まぁ....携帯の電源が切れてな、丁度、桜楼たちと会って携帯でメッセージを送ってもらった。』
ちらっと、元許嫁さんを見ると借りてきた猫みたいに塩らしくしており、先の事案を詳細に説明するのは控えた。
「....ほっ。」
先まで、うるうるとした目を浮かべながら、こちらをチラチラと見ていた彼女は、彼がそういうとわかりやすく胸を撫で下ろしていた。
「....。」
いい意味で裏表がない彼女のそういった様子は、どこか懐かしく、芝春が気絶してなければ昔を想起させた。
『それは、わかりましたが....なんで、旅館に帰っているんですか?』
海道くんは勝手に逸れた挙げ句、久留米が考えたスケジュールを無視して旅館に帰っているため、久留米さんは電話越しでもかなりご立腹のようだった。
『あー...それは、芝春がちょっと体調がすぐれなくてな。桜楼だけじゃ、ちょっとな。』
経験したことのないはずの、浮気の尋問に近いものを感じ、おそらくそう言った時にしか働かない脳の回路のお陰で、彼女は納得してくれた。
『そ、そうでしたか...すみません。不躾でした。お大事にしてください。』
事情を素早く理解してくれた彼女は手短に済ませてくれ、彼は彼女のことを本当によくできた人だと感心していた。
『あぁ。』
ピッ
「・・・....。」
「うん。」
必要な連絡は終わったため、彼女に携帯を返した。
そして、待っていたかのように沈黙が流れる。
「「.....。」」
「...あ、あのさ。さっきはありがとう。」
「....。」
珍しく彼女は感謝を口にしたが、彼からの反応はなかった。
「?....っ!」
不思議に思い、彼の方を向くと、眉間に皺が寄り、咬筋がピクピクと筋張っており、煮えたぎる怒りを沈めようとしつつも、確かに怒っていた。
「...芝春を...困らせるな。」
初めて見た彼の怒った姿は、無条件に彼女の考えを改めさせた。
「....わかった。」
怖さもあったが、それ以上に彼女は今更ながら、自分のせいで芝春が危ない目に遭ってしまった、後悔と懺悔に打ちひしがれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます