二度目の修学旅行。二日目〜part1

二日目。


朝食を済ませ、久留米と海道たちは旅館のロビーに集まり、これからの予定を確認していた。


「・・とりあえず、午前中は奈良公園として、また京都の名所を回りましょうか。」


「あぁ。」


「うん、いいわね。」


予定を確認し終えた彼女らであったが、彼は白木がZoozleマップで何か探しているのが気になった。


「ん...ここ行きたいのか?」


「あっ...うん、先輩が行ってる大学で、会いたいんだ。」


 彼は白木の後ろから近めに覗き込むようにして、話しかけたため、白木は少し肩をビクッとさせたが、すぐに受け入れていた。


「...恋人か?」


彼は少し目を細めて、白木の穢れの知らない可愛らしい耳に低く囁いた。


「違うよっ!..その、女の先輩だけど..違うよっ!」


 白木は脊髄反射的に、少し強めに否定していた。


「ふっ、冗談だ。」


「もぉ...いじわるぅ..」


 彼は優しい顔で白木の頭を撫でており、白木は彼のからかいにせめてもの反抗として、ぷくぅと頬を膨らませながら目を端に逸らしていた。

 

「「....。」」


 朝から目が眩むようなイチャイチャを見せつけられていた、彼女らは何かを察していた。


「...なんか、近いですよね。」


「「うんうん」」


 久留米の的確な指摘に、青鷺とソフィアらは同じことを思っていた。


「...やっぱり、何かあったんですかね...」


「なっ!..いや、でも...なーち。春ちゃんは男の子だよ?」


 ソフィアはやはり信じられないと言った様子だったが、青鷺は結構そういうのに疎くなかった。


「うーん、男の子はどうかはわかりませんが、女の子同士は結構多いですよ?」


「え?!そうなの...」


「はい、私の場合少し特殊かもしれませんが....」


レディースの暴走族を牽引していた彼女の界隈では、そう珍しいものでもないようだった。


「世界は、広いわね...」


「それ、ソフィアさんがいいますか?」


 実際、小さいが豊かな島国で育った彼女らと、ヨーロッパを転々としていたソフィアとでは、そう言った見識の広さでいえば、後者の方に軍配が上がりそうだったが、これに限っては当てはまらなかった。


「・・何話してんだ?」


そして、彼女たちが遠目で此方を見ているのに気がついたのか、彼から声がかかった。


「うぇぅ...いや、何でもないですよぉ〜..ピュー」


「なーち...」


 青鷺の下手な誤魔化しに、それは無理があるよ。とソフィアに嗜められていた。


「...まぁ、何でも良いけどよ。白木の先輩の大学で展覧会が午後かららしいんだが、行ってもいいか?」


「ほぉ、良いですね。」


 久留米の立てたしおりもあったため別行動も覚悟したが、意外と感触は良かった。


「午後からでしたら、大丈夫そうですね!」


「良いわね!美術作品が展示されているのかしら?」


「うん!彫刻とか、絵とかだね。」


幸い、午後は自由時間が多かったため展覧会の話は流れずに済んだ。





「・・うわぁ....本当に鹿だらけね....」


電車に乗って奈良公園に到着し、ソフィアはリードもつけていない鹿が自由に行動しているのに感嘆していた。


「...ちょっと、怖いですね...」


 無造作に縦横している鹿の波を見て、青鷺は恐怖心を覚えていた。


「まぁ、人慣れしてる鹿ですから大丈夫ですよ。多分。」


「ちょ..怖いこと言わないでくださいよぉ...」


すると、久留米が安心させたかったようだったが、最後の一言で青鷺の恐怖心が少し高まった。


「..青鷺。一応、俺の近くにいろ。」


それを見かねた彼は、青鷺の腕を掴んで体を引き寄せた。


「あっ...は、はい..」


 彼に成すがまま引き寄せられ、少し戸惑ったが、不思議と彼の側にいるだけで先までの恐怖心はかなり薄まっていた。


「...うぅ..僕も少し怖いかも..」ぎゅ


先まで普通に近くの鹿をスケッチしており、そんな素振りが一切なかった白木だったが、つられるようにして彼に身を寄せ、彼の袖をちょこんと掴んだ。


「っ..あ、あぁ、そうか...」


どこか昨日の夜を想起させるような声音に、少し頭がくらっとなりかけた。


「....。」


 いつの間にか両手に堕天使と天使を侍らせていた彼を、久留米はその様子をどこか冷静そうに眺めていた。


「あっ...私も...」ぎゅ


そして、どこか乗り遅れてソフィアは、後ろから彼の服を摘んだ。


「...そうか、じゃあ..ソフィアも来い。」


「う..うん..って、わぁっ?!」


 特に疑うわけもなく、彼はソフィアに手を差し伸べ、彼女は嬉しさを滲ませながら彼の手を握った。


「ふふっ、ソフィアさんは渡しませんよー、久留米さんが鹿さんたちからお守りします!」


久留米はソフィアに抱きつき、変わらず涼しい顔をしている彼を一瞥し、どこか挑戦的にそう言っていた。


「..ちょ、くっつき過ぎよ...」


(...こいつら本当仲良いな。)


初めて彼女らが出会った際は、ソフィアは警戒心高めだったため、まさか今のような感じになるとは思っていなかったが、やはり女子同士は少し異なるのであろう。


結局、そもそもの彼の威圧感に御されていた鹿たちは、一向に彼らに近づくことはなかった。

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