修学旅行1日目。〜天使のせせらぎ。〜

 東京駅の広場の前にて、だんだんと集合時間に近づくにつれて制服を着た生徒たちが集まってきていた。


「ーー・・まさか、二度目の修学旅行とはな。」


 修学旅行。それは人生で一回きりのイベントであり、まさか二回目を経験するとは思いもよらなかった。


 などと呑気に考えていると、全体的にエロい雰囲気の黒のロングニットを着た黒髪の女が話しかけてきた。


「..おにーさん、おにいさん。一人ぃ?...私..ドタキャンされちゃってさ、これからどう?」


「悪いが..」


 谷間の部分に絶妙に切り込みが入っており、否応なしに視線が吸われてしまうが、俺は遊び人ではないので丁重にお断りしようとした。


「ーー・・海道くんっ!待ちましたか?」


「っと、久留米か。」


 その時、いつものようにどこからか久留米が現れ、俺の腕を目の前のエロい女に劣らぬ豊満な胸元に埋めてきた。


「..ほら、みんな来てますよ行きましょ!」ジロっ


「あ、あぁ。」


そして、久留米はジロリと女の方を一瞥して、先よりも深くパイに沈んでいる彼の腕を引っ張りながらこの場から離脱した。


「うー..やっぱ、彼女持ちかぁ...飲み直そー」



そして、彼女に連れてかれるままに連れて行かれていると、待ち合わせ場所が少しずれていたようで、班のメンバーたちは既に集まっていた。


「ーー・・あっ、清澄!おはよ」


「海道くん!おはようございます!」


 ソフィアと青鷺から爽やかな挨拶を受けるが、一つ気がかりなことがあった。


「あぁ...って、ソフィアは別クラスじゃ..」


『えぇ、万が一に通訳が必要だからね。変えてもらったの。』


 そう聞くと彼女はなぜか上機嫌そうにそういった。


『外交特権か。』


 いや、もう必要ないだろ。と思ったが、ここは乗る事にした。


「ふふっ、そんなところよ。」


「...まだ、話せない事にしているんですか?」


 いつものように彼らだけの空間になりつつあった中、久留米がそこに入り込んだ。


「!?...環奈。ロシア語わかるの?」


「えぇ、時々お二人だけの会話を楽しんでらっしゃるので、少し勉強しました。」


 久留米はにこやかに微笑みながらも、目の奥からしたたかさを感じた。


「す、すごいわね...」


 ソフィアは久留米の執念に近い何かに感嘆していた。


「それで、どうなんですか?」

  

 久留米は悪戯に笑顔を浮かべながら、彼女の真意をすでに知っているかのような様子で聞き直した。


「..まぁ、話せない方が話しかけられたりしないし。それに..」


ソフィアは言いずらそうにそう言い、ちょっと心配そうに親身に聞いている彼を見て何を言いかけた。


「?」


「うんうん。変に付き合いができちゃうと、私との時間が少なくなっちゃいますからねー、わがります」


 なんとなくソフィアが言おうとした事を察した久留米は、彼女を抱き寄せ陽の光で天使の輪っかができている頭を撫でた。


「なっ..ちょ...人前で...」


頭を撫でられている心地よさと、それを見られている気恥ずかしさの狭間で葛藤していた。


「ふふっ、では後でゆっくりと...」


「違っ..清澄!違うからねっ!!」


「?...仲良いな。お前ら」


 久留米が意味深なことを言ってソフィアは何か弁明しようとしていたが、彼にとってはいつもの光景だったので特に変わりなかった。


「だから違っ..」


「・・海道くーんっ!」


 そうしていると、白髪の天使がこちらに手を振りながらこちらに向かってきた。


「へへ、おはようっ!」


「...天使。」


走ってきた事で体が若干火照っているのか、頬が赤らんでおり、無防備に晒されている真っ白な首筋から、人を惑わす何かが醸され、まさにこのまま天へと召してくれそうな天使を連想させた。


「うぇ?!ど、どうしたの急に///」


天使は白木にとってポジティブな意味で捉えられたようで、案外満更でもなかったようだった。


「いや、なんでもない...つい神々しくてな。」


「もぅ//...からかわないでよぉ」ポンっ


 そのままゴールインしかけた彼は、またもや天使のせせらぎに耳をすませていた。


(...しら可愛い。)

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