意外と素直な楢崎さん。




昨日のお遊び決闘の相手を徹底的に避けるため、海道は裏門から学校に入ったことで、珍しく事なくして席に着けた。



「....ふぅ、平和だ。」


窓際に映る並木道を通って、涼やかなそよ風が朝トレで程よくあったまっている体をクールダウンさせ、一息ついていたが、そう長くは続かなかった。


「おはよっ!海道。昨日の楢崎先輩との決闘すごかったな!」


「はぁ....勘弁してくれ...」


久しく気分のいい朝に、不快な人間の話を振られ海道は不機嫌をあらわにした。


「あぁっ...わりぃ、確かにあの人結構しつこいしな。」


なんとなく海道が渋々付き合っていたのを察していた篠蔵は詫びを入れた。


「お前もか...」


「だってよ...先生とかも一切注意しない服装を一々指摘してくんだぜ?終いには剣道でボコボコにされるしよぉ...」


やはり、彼女を面倒に思っているものは少なからずおり、海道と同じ目にあった奴は一定数いたらしい。


「服装に関する校則ってあったか?」


体育教師ですら、相手が海道でなくとも特に何も言ってこなかったため、校則で服装に関する規定があるようには思えなかった。


「一応あるらしいぜ、だけど校長が変わる前のだから有って無いようなもんだけどな。」


 件の女で話に花を咲かせていると、気の強そうな女性がこっちに向かってきた。



「ー・・ちょっとっ!楢崎先輩の悪口言わないでくれる?」


「あぁー、悪りぃ悪りぃ....」


「もうっ、信じらんない。」


かなり楢崎に入れ込んでいる彼女は篠蔵に文句を言うだけ言って、彼の謝りを聞かずに立ち去ってしまった。



「..同性には人気そうだな」


「そうなんだよ、だから厄介なんだ...」


「聞いていいか?」


彼女を調子に乗らせた元凶は根深そうで、詳細を促した。


「確か初めは...楢崎先輩が一年の頃生徒会に立候補した時だな。次期生徒会長候補で人気のある男がいたんだが、そいつがいかんせん女関係が良くなくてな、被害に遭ってる女子生徒が多かったんだ。そこで、先輩がそいつを決闘でボコボコにして一躍人気になったんだ。」


「今更だが、学校はそんな事許してるのか?」


彼女の経緯はなんとなくわかったが、昨日の決闘の件も然り、いくら自由な学校とはいえ見過ごしているとは思えなかった。


「あれ、知らないのか?うちの学校は”決闘”という制度があって、互いが出した条件に納得した上で、互いに何かしらを賭けて勝負するっていう制度だ。そして、その"決闘"で勝てば、勝者は条件に従って賭けた"報酬"を得る。」


「....あ、そういえばそんなのあったな..」


(確か、オンラインサーバーで使えるコマンドだったはず、色々あってリリースしてすぐに無くなったが..)


一時リリースされた、オンラインマルチプレイ専用のコマンドである”決闘”が、このギャルゲー世界にうまく組み込まれていると見れた。


「それで、決闘に勝った楢崎先輩はそいつに生徒会立候補から降りる事と、高校で女子生徒に手を出さない事を約束させた。」


「そんなの可能なのか?」


大体の概要は理解したが、そいつの後者の縛りは実際できるか甚だ疑問だった。


「あー、そいつは3年で推薦がかかってたからな、もしバレたら...なんて頭に抱えたくないだろ。」


「なるほど。」


(確かにその立場でただでさえ、決闘で負けてそのペナルティすら破ったら流石に学校もカバーしない姿勢か。)


特異な例かもしれないが、学校側も多少のフォローを用意しているようだった。


「それから、なんだよなー....先輩が次々に校則に沿わない男子生徒を決闘でボコボコにし始めたのは....」


篠蔵の頭の中では、先の例程、そこまで悪質ではない罪のない男子生徒たちが次々と竹刀で滅多打ちにさせられている憧憬が浮かぶ。


「そこでっ!海道が一喝したのによぉ....あの有様だ。」


そう言って篠蔵は校門近くで、変わらず登校する生徒たちを見張っている彼女に視線を送った。



「「「キャァぁぁーーー!!」」」


「「楢崎先輩っ!!」」


「こらこら、そろそろチャイムが鳴るよ。」



朝から元気な女子生徒は、昨日の決闘の件が嘘のように楢崎に群がっており、依然として彼女の人気は健在だった。


「...そう言えば、報酬はなんだったんだよ、勝ったんだろ?」


「あー....特にないな。」


「えぇっ?!じゃあ、昨日のは決闘じゃないのか....」


「そうなるな...あいつは俺を懲らしめたかっただけだからな。」


正確には、昨日のは彼女が海道を性根を叩き直したかっただけであり、正式な決闘ではなかった。


「ひでぇ話だな。」


「全くだ。」


心同じにした彼らを傍に、校門からは特に無害と言って良い男子生徒達の叫びが鳴り響いていた。



「おぉぉいっ!!そこの一年っ!!なんだそのふざけた服装はっ?!今すぐ直せっ!!」


「ひぃぃぃ?!...すみませんっ!」



結局、昨日の彼女とのいざこざで男子生徒の被害は収まりそうないように思えた。





キーンコーンカーンコーン



昼休みを知らせるチャイムが鳴り、開放感が冷めぬところ、教室のドアが勢いよく開かれた。


ガラガラっ!!


「たのもうっ!!海道くんはいるか?」



「ふぅ...」ガタッ


またも、逃げ場を塞がれた海道は椅子から立ち上がり、見つけやすくした。


「なっ!....昨日の海道くんの言葉、胸に刺さった。私は剣を蔑ろにし、私的に利用していた。今一度根本からやり直す必要がある。」


「....そうか。頑張れ」


早く昼飯を食いたい海道は、話をさっさと終わらせようとしていたが、彼女は続けて彼を引き留めた。


「海道くんっ!昨日のは正式な決闘ではないが、私は負けた...なんでも言ってくれっ!!」


ざわざわ...


楢崎の誤解されそうな発言に、周囲の男はざわめき始めた。



「....なんでも..じゃあ」


ゴクリっ


なぜか周囲のクラスメイトたちが固唾を飲み込む。


「男子生徒の服装くらい、見逃してやってくれ。」



「....えっ、それだけで良いのか?いやっ、だが校則で..」


これでも色々と覚悟していた彼女は、硬直していた体を緩め、敗北してなおも反論しようとしていた。


「あぁ、わかってる。だが、学校自体が黙認している。見逃してくれ。」


「むっ....わかった。」


 敗者に口無しと渋々納得したと同時に、教室内では男子が歓声をあげた。


「「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」」


「自由だーーっ!」


「これで裏門から登校しなくて済む...」


「夢...じゃ、ない...よな....」


彼らが喰らっていたその問題は、大袈裟ではなかったものだったらしく、彼らは終わりそうにない歓喜の渦に呑まれていた。






「ーー・・この"いいえ"とここの"いいえ"は前者がNoって意味で、後者はお構いなくって意味だ。」


「えぇー?...どういうことなの...あっ、前後の文脈で判断するのね。」


キーンコーンカーンコン


午後もいつものように、要領の良いソフィアの日本語の勉強を手伝っていると、丁度キリが良いところで終業のチャイムがなった。


「..この辺にしてくか、」


「えぇ、今日もありがとね。清澄」ニコッ


初めに会った時とは、別人かのように表情は柔らかで彼には笑顔を見せていた。


「ふっ...あぁ。」


彼は彼女に釣られて、少し笑みがこぼれてしまった。



その後、彼女とは早々に別れ、海道は教室に荷物を取りに向かった。


(....誰かいるな..)


ホームルームも終わっており、教室には、独りポツンと女子生徒が残っていた。



ガラガラっ


「..あっ、海道くん。」


ドアを開ける音と同時に、彼女は海道に振り向いた。


「あー....あぁ。」


一応、同じクラスだろうとは知っていたが、名前が出て来ず相槌だけになってしまった。


そして、教室で二人っきりってのは気まずかったので、足早に荷物を取り教室から出ようとした。


「..あのっ!...ちょっと、いいかな」


ドアの前までいったところで、意を決したように彼女が呼び止めてきた。


「...なんだ?」


大した用事ではないと思い、彼は顔だけ彼女の方を向けた。


「あのぉ...お礼を言いたくて....」


「....お礼?」


見覚えのない言葉に、海道は彼女に向き直り内容を促した。


「うん...覚えてないかな?...夏休みの時に、怖い人に寄られてた所を海道くんが助けてくれて...」


「あー...あの時の。でも、よくわかったな。」


何となく思い出したものの、その時海道は肉体改造を効率化するためにフードを深く被っており、見かけは不審者にしか見えず、顔は下からのぞいでも下顎くらいした見えない筈だった。


「...えっと、初めはわからなかったけど、昨日の決闘の時にたまたま見てて、その時の声を聞いてやっぱりって思ったのっ!」


段々と、声の抑揚が上がっていき海道にジリジリと近づきながらそういった。


「...あぁ、経緯わかったから、離れてくれ」


「あっ...ご、ごごごめんなさいいっ!...つい。」


いつの間にか、拳一個分くらいまでの距離に近づいていた彼女は、顔を紅潮させながら謝り、二、三歩離れていった。


「あと、名前教えてくれないか」


今更ながら、何回かプレイしたことしかないギャルゲーなので、彼はヒロインの名前と顔をうっすらとしか覚えていなかった。


「えぇ?!...もう後学期なのに知らないんですか?!」


「悪い...」


さらに言えば、プレイしてから15年くらい経っており、彼はこの世界のことを断片的にしか覚えていないのである。


また、ヒロインというのは設定されておらず、モブも行こうと思えば行ける仕様のため、プレイヤーによっては先生に行く強者も実際には存在していた。そして、すでに実況動画でエンディングを知ってしまっている人気なヒロインよりも、モブの方が新たな展開が楽しめることから、俺は逆張りでモブ中心に攻略していたため、ヒロインの事もほんのりとしか、分かっていないのである。


「...あ、あのっ...怒ったわけでは....ゴホンッ..久留米 環奈です。改めてよろしくお願いします。海道くんっ」


「あぁ、よろしくな。久留米。」


「...は...はい///」


自然と握手を差し出してしまったが、彼女は抵抗なくそれに応じ彼の手を握った。



「「.....。」」


 妙な空気になり、彼女は彼の大きな手を握りながら、どこか恍惚とした表情をしていた。



「....そろそろいいか?」


「あっ!..すみません///...」


いつ離せばいいかわからなくなった所で、彼はそう促した。


 そして、本題に戻り、彼女はお返しか何かを用意していたわけではなさそうだったので、海道はそういうのはキッパリ無しにしたかった。


「...それで礼の件だが、そういうのは必要ない。」


「えっ..でも...」


それでも、久留米は納得していなさそうだったので、彼は礼として相応なものを提案した。


「..じゃあ、先の久留米の名前を知らなかったという"失礼"をチャラにしてくれ。」


「っ?!....はいっ..分りました。今回はチャラにしておきますっ!」


「あぁ。」


うまく納得してくれたようで、彼女からの礼とやらはチャラになった。






そうして、妙なお礼や返しから一応に解放された海道は気分よく三連休を迎え、いつものように、朝ジムでアクティブレストを軽く終え足早に家に帰った。



「ーー・・ちょっと、清澄。どこ行くの?」


そして、体を休める丁度にカフェで本に耽るため、靴紐を結び玄関をいざ出ようとしたところ、いつもは何をしてても何も言われないが、ちょうどそこに鉢合わせてしまったため、母に呼び止められてしまった。



「....あぁ、ちょっとな。」


さっさとカフェでゆっくりしたかった彼は、適当に答えてしまった。


案の定、そのせいで母は勘繰ってしまった。


「...何?..まさかデート?!」


「あ?ちげぇよ。」


彼には一生縁のない話に思わず反射的に否定してしまった。


「えーえー良いのよ。照れなくたって、とにかくそんな格好じゃあだめよっ!!」


こうなってしまったら、何をいっても話が通じるわけなかった。


「いや、いいって。デートじゃないから...ウォッ?!」


「良いからいいからっ!」グイッ!


「ちょっ...おいっ....やれやれ....」


結構な力で玄関から引き戻され、10分弱ほど服をあてがわれた。



「ーー・・うんっ...さすが私の息子。かっこいいわ...若い頃のオジィちゃんそっくりよっ!」


「はぁ...ワックスまでやらんでも...」


母に好き勝手された結果、髪はオールバックで少し前髪をサイドに残しており、白のワイシャツの上からジィちゃんの黒革ジャンを羽織り、黒のスラックスにアンティーク調の燻んだ茶革靴といった具合のコーディネートとなった。


「....まぁ、悪くはないな。」


実際、鏡越しでもそこそこ形になっており、違和感はなかった。

何より、写真で見た若い頃のジィさんと瓜二つで、それが堪らなく嬉しかった。


「でしょーっ!?....」


玄関の立ち鏡越しに、笑顔の母が自慢げにしていたが、段々と神妙な面持ちになっていった。


「..どうかしたか?」



「....羽美ちゃんの事は残念だったわ、そもそも未成年に許婚とか大人の私が止めるべきだった....」


なかなか先の許嫁寝取られ事件の話をするタイミングがなく、父も母も申し訳なさはあったようだった。


「それ自体は気にしてない、結果的に自分を成長させるきっかけになったから、もう終わったことだ。」


「..あんたは強いね、昔っから....清澄なら大丈夫よ。きっと良い子と結ばれる...いってらっしゃいっ!」


母は彼の達観した考えに感心すると同時にどこか安心して、彼を見送った。


そして、家から送り出され、良さげなカフェを探しながら街を歩いていると、先の母とのやりとりを思い返し、たとえ今、目の前にいても届くことのない言葉をつぶやいた。


「ーー・・いや、だからデートじゃないよ。母さん。」






しばらくして、良い感じの雰囲気を醸しているカフェを見つけたが、丁度進路上に親に手を引かれている男の子がこちらを凝視していた。


「.....」ジィーーー


「ん?....どうかした?大志?」



(...知り合いか?いや、子供となんて関わってきてないしな....他いくか..)


絶妙に入口への進路を塞がれ、海道は他の場所にするか悩んでいると、男の子が何かに気づいたかのように指を指してきた。


「あっ!...シンソウブラックだっ!!」


「こらっ...指差しちゃめでしょ、すみません」ペコペコ


「..ん?」


どうやら、男の子は海道のことを仮面のライダーか何かと勘違いしているようだった。


そして、その子は海道を憧れの眼差しでじっと見つめていた。


「...はぁぁーー!」パァァァっ


「すみませんっ..ほら、行きますよ。」


彼の手を何とか引っ張っても、彼は一向に動きそうになかった。



(...確か、こんな感じだったか...)


何とか場を収めるために、海道はうろ覚えで変身ポーズを取った。


...バッ!


「....変身っ!!」ガチャッ


ビューーー


ベルトを弾くと都合よく、そのタイミングで後ろから風が吹き、それっぽく服がなびいてポーズが決まった。



「.....うぉぉぉぉぉ!!!かっこいいぃ!...シンソウブラックっサインくださいっ!」


「あ...あぁ...勿論だ。少年。」


思いの外かなり好評だったようで、サインをねだられてしまったので、男の子の目線までしゃがんで最後まで出来るだけ夢を壊さないよう仮面のライダーを演じた。



「ーー・・バイバーイっ!....バイバーイっ!...シンソウブラックーー!!」


結構な距離が離れても、男の子は見えなくなるまで名残惜しそうに手を振っていた。


そして、ようやく目当てのカフェに入店した。



「ーー・・おっ。」


カラカラっん...


響きのいい、鐘の音ともにドアを開くと、未定通りに、店内はちょうど良い暖色に照らされ、新鮮で質の良いコーヒー豆が焙煎され、挽かれている音と匂いが鼻腔をくすぐった。


(...当たり、だな..)


彼は心の中で、小さくそう呟き席に座った。


席と席の間いは高い仕切りがあり、プライベートな空間が程よく作り出されていた。


そして、適当にメニューからチャイティーを選び、呼び鈴を鳴らした。



「ーー・・お待たせしました。ご注文をお伺いします...って、海道っ?!」


程なくして、店員が来るとやけに聞き覚えのある声だったが、風体はそうではなかった。


普段のキリッとした楢崎は、さながらサムライのようなポニーテールを引っ提げ竹刀を背負っている姿だったが、目の前の彼女はフリフリとした基調のミルクティー色の制服に白いエプロンを下げており、頭には本場のメイドさながらの精巧に編まれたフリルのついたカチューシャをつけており、全体的に経営者の趣味嗜好が垣間見れた。



「....チャイティーをレギュラーで。以上でお願いします。」


「海道っ...ちょっと、来い!・・ーー」グイッ


知らんぷりをかまして、あくまで他人のふりを通したが効果は見込めず、されるがまま楢崎に店の路地裏まで連れて行かれた。



「ーー・・あのっ、学校には...言わないでくれ...」


何を勘違いしたのか、可愛らしい制服を着ている楢崎はいつもよりも塩らしい態度で口止めをお願いした。


「...あぁ」


以前として、興味がない彼は一応に了承したが、肯定と捉えきれなかった何故か彼女は覚悟を決めて無茶を言っていた。


「ぬっ...なんでも言うことを聞くからっ..頼むっ!!」


「...へぇ...なんでも...」


「あぁ!!...何でも言ってくれっ!!」


年頃の男子高校生に無防備な文言を呟いた彼女は、やはり何もわかっていなかった。


「はぁ...お前意味わかってないだろ...」


「え...だからっ..なんでも言ってくれ!」


(真っ直ぐっていうか、愚直というか...危なっかしいな...警告しとくか)


「ぇ...っ...」


小さな悲鳴と共に彼女は壁に押し倒され、海道の顔が耳元に近づく。


「ぇ...ぁ..の...]


「あんまり、無警戒だと....このまま食っちまうぞ....」


低く重厚で野太い男の声が、彼女の心の臓まで響いた。


「ぇ...わ..私は...それ..位の覚悟なら...」


海道の顔から逃げるように、顔を逸らしていた彼女は覚悟を証明するように、顔を上げ、またもや軽はずみなことを口走った。


(ったく...本当に俺で良かったな。初めにバレたのが)


「ーー・・え...」


突然、離れていった彼に呆けながらも、彼女はどこか寂しそうに左腕を握っていた。


「はぁ...男相手にそういう事言ってると、今みたいに危険な目に遭うから、滅多な事言うな。」


「...で、でもっ!それだと...バイトの事がっ」


「それは問題ない」


海道はそう言って、ある人物に電話をかけた。


「えっ?」


ピピピッ....プーっ...ピッ


休日にも関わらず電話の相手は、ワンコールも立たずに電話に応答した。



「ーー・・あぁ、俺だ。俺の学校の規則に"バイト可"を付け加えておいてくれ...あぁ...頼む。」ぴっ


「あの、今のって..」


「あー...知り合いが学校の理事長と知り合いでな、取り敢えずお前の活動は問題なくなった。」


正確には、父が理事長と知り合いで、正直なところ父のお陰もあって俺は理事長にかなり大目に見てもらっていた。c


「...え?!ほんとなのか?」


信じられない感じの彼女は、嬉しさ反面少々疑っていた。


「あぁ、明日のホームルームでわかるはずだ。」


「....あっ..ありがとうっ!!海道くん!!」


拝むかのように両手を合わせて、近づいてきた彼女は精一杯の感謝の気持ちを表した。


「あ...あぁ...俺はこれで...」


「待ってくれっ、海道くんっ!」


珍しく好意的な態度に当てられ、海道は若干引き気味に相槌をしてとにかくこの場を離れようとしたが、腕を捕まれ呼び止められた。



「...なんだ?」


気を取り直して、ここではない他のカフェで早く本に溺れたい海道は若干めんどさを感じていた。


「何かお礼させてくれっ!海道のおかげでバイトが続けられる...頼む」


頼みを了承しないと、これが終わらなそうだったので、海道は適当に決めた。


「あー...一杯奢ってくれ、それでチャラだ。それ以上は受け取れない。」


 実際、ただ一本電話かけただけのため、それが妥当な対価だった。


「本当に、良いのか?私は...さっきの続きでも...」


何故か乗り気そうな雰囲気で先の脅かしの続きを、頬を赤らめながら提案された。


「..だからいいと言っている。頼むから、俺の意見を尊重してくれ。」


頑なに話を通してくれない、彼女に対し逆に頼んだ。


「はっ!?私としたことが、海道くんの意を無下にしてしまった...わかった!一杯で今回はチャラにしようっ!」


彼の提案は、妙に彼女の中で腑に落ちたようだった。


「あぁ」


(ふぅ....やっと話が閉まった。)


ようやく終わったやり取りに安堵しながら、海道は店に戻った。


そして、彼女が運んできたチャイティーを足早に飲み干し、釣り銭のないレシートを受け取り店を後にし、別のカフェで改めて本に沈む事にした。







久留米 環奈 くるめ かんな 168cm 58kg

博多美人 、黒髪ミディアムロング。茶道部。


1話でヤンキーに絡まれてた人...

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