久留米 環奈(くるめ かんな)
そして、週始めの登校中、今ではすっかり聞き馴染みを覚えてしまった声に掛けられた。
「ーー・・はようっ!海道。」
「..あぁ。」
「何だよ朝からテンションひきぃな。」
「....悪いか?」
いや、週始めの朝から元気なお前の方がおかしい、とか言うでもなく低燃費で対応した。
「いや、そう言うわけじゃねぇけどよ。てかっ、三連休何してた?」
「....溜まってた本を読んで、ジムに行くとかだな。」
「おいおい、人生上がってる奴かよ....全く女っ気がねぇな....」
「...お前はどうなんだ、篠蔵。」
「ゼロだ!!...」
見た目はスポーツマンっぽく、爽やかで活気のある彼は異性からの人気もあるらしいが、それとは裏腹に三連休は男とつるんでいたらしかった。
「...まー...マジで、芝春たちと遊ぶくらいだったわー。」
そして、随分と懐かしい名前を聞いた。
「...そうか・・ーー」
あの日から、ジムなどで外出することが多かったので、家では寝る位にしか帰っていなかった。
そのため、思えばここ数ヶ月、芝春とはまともに会うことはなかった。
また、芝春に関しては、元気そうなら良かった程度には思っていた反面。顔を合わせなくても、気まずさというか、何より、ついでに付いて来る奴に鉢合いたくなかったため、基本的に避けていた。
が、それはそろそろ限界を迎えつつあった。
時は遡ること、三連休二日目、昼頃。
いつもより早めにジムから帰り、昼飯にありつこうとキッチンに行こうとした時、リビングの方から芝春と女の声が聞こえてきた。
「ーー・・しーくん。」
「うみちゃん...」
「「んぅ...ちゅ...はぁ...レロ...」」ぶちゅうーー!!
(.....Oh。きまず)
ドア越しでもわかる程、かなりディープなキスを交わし合っており、手にかけたドアノブをそっと離した。
(そうだった...今日母さんたちがいないのか、)
自由奔放な様子から、そう言えばと聞き流していたことを思い出したと同時に、前々から考えていた事を決断した。
(ーー・・仕方ない...家買うか...)
説明しよう!
彼は夏の間に、数量分析分野の勉強の一環として、株式投資を始めた。
そして、案の定、チートすぎる脳みそのお陰でボロ儲けし、現時点でも軽はずみに言えない位の額と配当を手にしていた。
そうして、思い立ったが吉日と、部屋から身分証と通帳を持ち出し静かに家の裏口から出た。
早速、歩きながら知人に電話をかけ、駅で合流した。
「ーー・・お疲れさんです。鮎川さん。」
「おう、今日はどうしたんだ?清澄。」
鮎川さんは父の昔からの友人で、昔なんかのアスリートだったらしく、今は現役の時に稼いだ莫大な年棒を運用して儲け、今では毎日ゴルフ三昧らしい。
また、子供の時から、よく頻繁にスポーツ観戦の際によく良い席に招待してくれていたり、 夏の間でも、肉体改造のトレーニングのみならず、お金に関する勉強にも無償で付き合ってくれた。
海道が無敵の人になりかねなかったのは、両親から十二分に愛されたのは勿論として、ジィちゃんや周囲の大人に恵まれた事が大きく起因していたのであろう。
それは、さておき本題へと向かった。
「ーー・・家を購入したいので、良い物件紹介してください。」
「?!...急だな、なんだ?女の子でも連れ込みたいのかぁ?」
先の事をフラッシュバックしながらも、正直に答えることにした。
「あー、色々あって家に居づらいので、独り立ちしようかと。」
「ガハハハっ!!だからって買うこたねぇだろっ、まぁ、まだ未成年だからな...了解した。」
極端な方法に笑いながらも、冷静に彼の状況を理解し鮎川さんは納得してくれた。
「ありがたい限りです。じゃあ、キャッシュは鮎川さんの口座に入金しとくので、名義は頼んます。」
確か、未成年が不動産を買うのは厳しいらしいから、今日彼を呼び出したのは名義を借りるためだった。
「いや!俺が買ってやる。清澄にはそのうち俺の投資会社を継いでもらう。これは先行投資だ。」
ピコンっ
「あ、もう入金した。」
彼が何やら熱弁している中、海道は携帯から彼の口座に相応のキャッシュを振り込んだ。
「おいっ!そこは年上を立てるもんだろ?!」
「...いや、名義を借りさせて貰えるだけでも十分過ぎるのに、買ってもらうとか本当に勘弁して欲しい。あと、会社を継ぐ気もない。」
どうも、俺に過保護すぎる鮎川さんはまぁまぁ無茶苦茶言っていた。
「おいおいー、最後のは結構本気なんだぜ。娘は金融に興味ないしよぉ....清澄しかいないんよ...」
冗談くらいにしか聞こえなかったが、結構本気だったらしい。
兎角して、一旦はその話を流し、いつの間にか連絡していた鮎川さんの知り合いの不動産屋と合流した。
結局、条件に合った物件はすぐに見つかり、即日で購入した。また、荷物も少なかったので、適当な服とかだけ持って、ほぼ身一つで新居に無事越せることができ、その日は新居の地べたで寝た。
そして、三連休最終日に家から持って来れなかった家具や電化製品とモニター、筋トレ器具、机、椅子などを全部買い替え、その日の内に業者と協力して、昼頃には組み立てと配置を完了させた。
その後、基本放任主義の両親にメッセージで”そういえば、俺一人暮らしするわ”と一言だけ送ると、一言だけ"好きにせいー"と案外すぐに了承を得た。
結果、セキュリティーが無駄に高く、自宅ジムとサウナが併設された一軒家を手にいれ、前の世界での時間も換算するなら、37年かけてようやく俺は独り立ちすることができた。
「ーー・・おいっ、大丈夫か?」
何かまずいことでも言ったかと思い、篠蔵は黙ってこくっている彼を心配した。
「....ん、あぁ。」
一方、彼は鮎川さんの手助けもあり、あっという間に物件購入から引越しまでスムーズに行き、ようやく独り立ちが出来た事をしみじみ振り返っていただけだった。
「....そういや一人暮らし始めた。」
「ぬぇっ?!そうなのかっ?!...てか、なんでそれを先に言わねぇんだよ。」
彼のそれは、明らかに質問への答えとしての優先度が逆だった。
「まぁ、大した話じゃないしな。」
「いやっ大した話だろっ!...てか、遊び行っていいか?!」
同級生が一人暮らしをしていたら、考えることは一つだった。
「断る。」
「えー良いじゃんかよぉ...減るもんじゃねぇしー。」
即答で、断られても彼は引きそうになかった。
(ウゼェな...)
今更ながら、彼は言った事を後悔したが、事実を混ぜた適当な出まかせで牽制した。
「....てか、セキュリティーが厳しいから俺以外は入れない。」
「なっ、嘘だろ?!金塊でも隠してんのかよ....」
「あぁ、システムを改修すれば入れるが、それには数千万はかかる。」
「うげっ..マジかよ。そりゃーしかたねぇか...」
篠蔵はまんまと彼の嘘に騙されてくれた。
「そして、お前は信用できない。」
「ぐぇ?!最後のが一番ひでぇ....」
その後も、他愛もない話をしながら登校し校門近くに差し迫ってくると、いつのも彼女が立っており篠蔵は思わず身構えた。
「ーー・・げっ...楢崎先輩だ。なぁ、本当に大丈夫だろうな?」
「俺に聞くなよ。」
篠蔵はほぼ言いがかりに近い、私人による服装検査の是正が反映されているかを確認した。
「ーー・・おはようっ!篠蔵くん。」
「お、お、お、おはようございますっ!!」
変に身構えていた篠蔵は、動揺しながら挨拶を返したが、結局、彼女に何か言われるでもなく済んだ。
「おはようっ!海道。」
「あぁ。」
「なっ!あぁ。とはなんだ、ちゃんと挨拶せんか!!」
他方で、海道は適当に相槌をすると普通に注意され、素直に挨拶し直した。
「...はようさん。楢崎。」
「?!...やけに素直だな//...私は、お前のそう言うとこ...」
彼の素直な一面に楢崎は少し感心し、勇気を出して彼を褒めようとしたが、すでに彼の姿はなく、頬を染めた女子生徒と目があった。
「....///」
「なっ!....くっ...海道め。」
小さな呟きは彼に届くことはなかった。
(ーー・・すくな強っ...誰が倒せんだよ。)
そして、そんな彼女の事もつゆ知らずに、海道は教室で偶然にも前世と内容が変わらない、週刊漫画を読み耽っていた。
「ーー・・ふぅ...」
心地よい満足感と共に漫画を読み終え、一息ついていると程なくしてチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン
「ふぅ...相坂!食堂行こーぜ。」
「おう。」
「あー、お腹すいたぁ...」
「あんた、ホームルーム前に菓子パン3個も食ってたじゃない」
皆、弁当を持って中庭やら、購買、食堂やらに向かっていった。
「....」ジィーーー
その中で、やけにチラチラと俺の方を見ている者がいたが、特に気にせず教室を出ようとすると視線の主に呼び止められた。
「あの....海道くん。お昼一緒に食べない?」
その正体は、校内でも屈指の人気を誇り、ヒロインの中でも王道的な人気を有していた久留米 環奈。その人であった。
(接点あったっけ...)
ところが、思い返しても、彼女との接点は見当たらず突然の誘いに少し引っかかっていた。
「あー...わかった。」
「ほんとっ?!...やった..」グッ
しかし、特に断る理由もなく、丁度良い機会とも思っていたので普通に了承すると、彼女は小さくガッツポーズをしていた。
キィィィ
屋上の扉を開けると、暖かい日差しに温められた心地の良い風が迎えてくれた。
「わっ...良い天気だねー。」
「あぁ。」
本当になぜ屋上に人が集まらないのか疑問なくらい、昼休みには最適な場所だった。
そして、彼女らの登場に驚きながらも、いつものベンチで凝視していた人がいた。
「っ...?!」ジィーーー
「よっ、いっつも先にいるな。ソフィア」
「悪いかしら?....それより、彼女は?」
女を連れている海道を見て、若干不機嫌そうな顔をしているソフィアは、彼の後ろに隠れている久留米への言及を求めた。
「昼一緒に、って誘われてな。」
「へぇ...そう。」
ここだけ、体感温度がぐっと下がったように感じるほど、ここ周囲の空気は凍てついていた。
「ひっ...」
ソフィアの警戒度にやられた彼女は、完全に海道の体で隠れてしまった。
(これは、まずったか...)
この状況は予想できていたものの、そろそろソフィアにも俺以外の友達が必要だと思い、無害そうな彼女の誘いを了承したのだが、幸先には暗雲が漂っていた。
というのも、最初の数分だけだった。
「ーー・・ソフィアさんって、プリンセスみたいね。」
「え...そ、そうかしら...」
「ソフィアさん、肌も透明感すごいし、目鼻立ちも綺麗でスタイルも良いし、すっごく可愛いっ!」
「か、可愛い?...」ジィぃーー
褒め慣れていないソフィアは、彼女の言葉を確かめるかのように彼をしばらく見つめた。
「...あぁ、良いんじゃないか」
今の所、彼女らは問題なさそうだったので、邪魔しないよう少し離れて飯を食っていたが、 いきなり話を振られ適当な返しになってしまった。
「ちょっ、海道くん。そこは可愛いっていう所ですよ。」
少し遠慮がちだった久留米は、いつの間にか海道とも距離が近くなっていた。
「ん...あぁ、可愛いと思う。」
「あー、私が言わせたみたいじゃないですかっ」
いや、お前が言えって言っただろと思ったが、お茶で流し込んだ。
「...そ...そう。」
特に気にしていない様に見えるソフィアは顔には出てなくとも、赤く染まった耳が白髪のショートボブから僅かに覗いていた。
「ふっ....」
「なっ...何笑ってるのよっ」ポンっ
どこか心の中を見透かれているような感じを察知したソフィアは、平手を彼の肩に食らわせた。
「悪い悪い。」
「ほんとっ...もう。」
顔色ひとつ変えない彼をみかねて、ソフィアの溜飲は下がった。
一方で、久留米は彼らの様子を見て、しまったと口を押さえていた。
「..ぁ..」ジィーーー
「?...どうしたの、久留米さん」
「...やっぱり、付き合ってるんですね。」
彼女らの様子を眺めていた久留米は、爆弾発言を放ち、一拍の沈黙が流れるがすぐに決壊した。
「「.....」」
「....違っ?!...その、まだ..私たちはそういうんじゃなくて....そうっ!まだ友達よ、友達っ、ね?!清澄っ」
「ん...あ、あぁ。そうだな。」
そんなに取り乱すことか?と思いながらも、彼女に同調した。
「ほう、まだですか。」
「いやっ...違っ...わなくも...ゴニョゴニョ...」
痛いところをつかれたソフィアは、否定しつつもなんとか誤魔化していた。
「?」
「...じゃあ、ライバルですね。」
最後の方まで聞こえなかった彼とは異なり、久留米は"まだ"という文言を否定しなかったソフィアを聴き逃す事なく、彼女の耳元で小さく囁いた。
彼女の艶やかで艶かしさを帯びた黒い髪が、天使の羽を紡いだようなソフィアの白髪が重ね合い、彼女の小さなお口がソフィアの綺麗なお耳に触れそうになる。
「...っ?!」
(なっ...どうしてそれを...)
突然の耳元で囁かれ驚愕しつつも、ソフィアは彼女の言った事の意味を瞬時に理解した。
「ふふ...やっぱり可愛いですね。ソフィアさんは」
「...っ?!」
そして、いうだけ言った久留米は少し離れてソフィアに向き合い、イタズラな笑顔でそう言った。
「それに...私はソフィアさんとなら、良いですよ。私も彼を逃したくないですし。」
「なっ...に言って...」
再び、彼女はソフィアの耳元で冗談に思われないよう、小さくも心強くそう囁いた。
「ふふふ...」
「..?」
そして、実は大人しそうに見えて、したたかな久留米は、ただの女子同士の戯れ合いとしか思ってない彼を一瞥した。
そう何を隠そう。このギャルゲー世界は一夫多妻が認められているハーレム系ギャルゲーなのである。
後書き
久留米 環奈 くるめ かんな 168cm 50kg cv.こがさん
博多美人 、黒髪ミディアムロング。
明るい性格。コミュ力お化け。
鮎川 謙信 あゆかわ けんしん
198cm 111kg 元NFLプレイヤー。
日本人初のアメリカンフットボーラー。
今は投資会社を複数経営。
海道の父とは大学時代からの友人。
こう見えて43歳。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます