成人免許
「成人済みの大人の方が、社会には多いよな……」
「そりゃ、だって少子高齢化だし」
「国が定めた基準に従い、この年齢より上は無条件で大人とする……成人と決めているから時間が経つだけで通ることができる門だけどさ……、この制度もどうかと思うんだよなあ……」
まーたなにか言い出したよコイツ……と、薄目になりながらも同僚の話をきちんと聞こうと耳を傾ける男。……きちんとスーツを纏っているので、ふたりともれっきとした社会人だ。
成人済みである……一応は。
飲み切った缶コーヒーを、近くのゴミ箱に捨てる前に、なんとなく投げ入れたらあの小さな穴にすぽっと入るのではないか? なんて、元バスケットボールプレイヤーの血が騒ぐが、当然ながら入るわけもないので片目を瞑って狙いを定めるまでに留めた。
さすがに投げはしない……女性社員に見られたら笑われる以前に呆れられる。
ない中身を確認するために軽く振りながら、
「じゃあ、どういう制度が理想なんだよ」
「成人済みの大人でも、まるでこっちが手を引いて目的地まで導いてあげなければいけない大人が多いこと多いこと……。さらにはこっちが動くことを前提として突き進む大人もいる。周りを見てなさ過ぎるし、他力本願が当たり前……本当に成人済みなのか?
ある一定の年齢以上になれば無条件で与えられる大人という権利は、講習も実技試験も受けていない人が運転免許を与えられるようなものじゃないか? 大人になるのに、どうして講習がない。実技試験も、面接もない……たとえ学生でも成人になることはできるし……ゆるゆる過ぎるんだよ。大人って、もっときちんとした人がなるものだろ? 成人しただけの子供が社会には溢れてる気がする……、どうにかしてくれよ」
二十歳を過ぎても子供レベルの大人がいれば、まだ十六歳そこらなのに大人よりも大人の子供だっている……もちろん、年齢制限による規制は適応されるべきだが、講習を受け、面接、実技試験を合格した子供は大人の肩書きを受け取ってもいいのではないかと思う……。
その成人免許がなにかの役に立つわけではないが、持っていて当たり前の免許を持っていない「低レベルの社会人」を一発で把握できるのであれば便利なのではないか。
堅苦しく試験とは言ったが、そもそも答えられて当然で、まともな人であれば問題なく合格できる試験となる。言ってしまえば片手間で受けても合格できてしまう低レベルの試験だ。
……それさえもできない、年齢だけ重ねた子供を選り分けるための制度……。病名はないが、できて当然の普通のことができない四分の一障がい者が分かる。
試験は何度でも受けられるので、成人になれる権利が奪われるわけではない――予定だ。
「……と、そんな制度があれば、きちんとした大人だけが社会に出てくることになって毎日がハッピーに、日本も平和になりそうだけど……うーん、でもやっぱり、成人免許を持った中での最低が際立つだけなのかなあ」
「そっちか? 免許を持たない大人になれなかった子供が悪目立ちするだけなんじゃないか?」
「免許不携帯の子供は論外だし。
そもそも大人の輪には入れないよ……入っても子供扱いされるだけだろうな」
大人の飲み会に混ざる、参加者の子供が退屈そうにしている光景が思い出される。
スマホをいじるかゲームをしているか……子供は、大人の会話には混ざれない。
「……きちんとした大人ばかりでも息苦しい気もするけど……」
「エリートの中に混ざる努力家の凡人みたいな?」
そんな感じだ、と頷きながら……スマホで時間を確認すれば、そろそろ休憩を切り上げた方が良さそうだ。今は正式な休憩時間ではなく、一息ついただけの小休憩である。
あまり長く立ち話をしているとサボっているように思われる……、通り過ぎる上司の目が厳しくなってきたので、ここはさっさと仕事に戻った方が良さそうだ。
「ところで、お前は試験を一発で合格できるのか?」
「できるわけないじゃん。俺は一生、子供のままだよ」
童心を忘れない、と彼は言った……。
良い風に言っているけど、言い方で誤魔化しているだけだ。
――大人になれないだけだった。
…了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます