未知の力を人は恐れる

煤元良蔵

未知の力を人は恐れる

 魔法と呼ばれる不可思議な力が人々の生活を陰ながら支えていた。しかし、大陸の人々は、自分の理解できない力を恐れ、魔法を使用する人間を化け物や魔族と呼び、排除しようとしていた。自分たちの生活を支えてくれているにも関わらず……だ。魔法使いを排除する動きは俺の住む小さな村でもあった。

 俺の幼馴染で初恋の女性が……魔法使いだったのだ……。

 俺以外の村人全員が彼女の処刑に賛同した……彼女の家族も。


「こいつは悪魔なんだ。人間じゃない。化け物なんだ。俺たちを騙してたんだよ。いい加減目を覚ませ!」


 父親が唾を吐き出しながら、叫ぶ。

 俺はその言葉を無視して走った。村人を掻き分け、村の中心に向かおうとしたが、複数人の村人に抑え込まれ、動くことができなくなってしまう。


「ああ。洗脳されてしまったんだわ。あんなに優しい子だったのに……でも、あいつを殺せば、きっと正気に戻るわ」


 母親が胸の前で手を合わせて懇願するように言ってきた。

 俺は正気だよ。ふざけんなよ。

 村人を振り解こうと藻掻き、俺は顔を上げた。視線の先には手を後ろ手で拘束され、跪かされ、頭を地面に押し付けられた……俺の初恋の女性を村の長老が見下していた。


「ムカゲ・シャー……いや、人の皮を被った悪魔よ。言い残すことはあるか」


 長老はムカゲに尋ねた。

 ムカゲの横にいた男が彼の髪を掴み、無理やり顔を上げる。髪を掴まれた痛みでムカゲの表情が歪むが、それを気にする者などこの村にはいなかった。


「ふざけんな!ムカゲが何をしたんだ!処刑なんて、ふざけんなよ!」


 俺は叫んだ。しかし、俺の言葉は村人には届かなかった。

 超人的な……人の理を超えた力を使用する事が出来るムカゲが俺を洗脳していると……本気で思っているのだ。


「何もありません。ただ、何度でも言います。私はあなたたちと同じ人間です」


 ムカゲはそう言って笑った。次の瞬間、横に待機していた男が……ムカゲの首を落とした……。


「あ、ああ。ああああ」


 俺は泣く事しか出来なかった……。ただ、泣く事しか出来なかった。

 

 数年後。

 魔法という力が解明され……魔法使いを排除しようとする動きがなくなった。それどころか、先天的、後天的問わず魔法を使える者は人々から羨望の眼差しを向けられる存在となっていた。

 あの日から、無気力にただ生きていた俺には魔法の才能があったらしい。

 25歳の誕生日を迎えた日、俺は魔法を使用する事が出来るようになっていた。彼女が得意だった、何もない所に花を咲かす事が出来る魔法だ。

 魔法を使用できる俺を村人たちは絶賛した。


「すごい!なんて綺麗な花なんだ」

『花を使って俺たちを惑わそうとしているんだ』

「すごいぞ。お前は自慢の息子だ」

『こいつは悪魔なんだ。人間じゃない。化け物なんだ。俺たちを騙してたんだよ。いい加減目を覚ませ!』

「魔法が使えるってことは、首都に行っていい仕事に就けるんじゃない」

『ああ。洗脳されてしまったんだわ。あんなに優しい子だったのに……でも、あいつを殺せば、きっと正気に戻るわ』

「この村も有名になるぞ」

『ムカゲ・シャー……いや、人の皮を被った悪魔よ。言い残すことはあるか』


 俺は無表情で喜ぶ人々を眺めた。

 ああ、気持ち悪い……ああ……気持ち悪い。

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