初めてのダンジョンアタック③
「ごめんなさい。私、怖くて……動いたり、指示とか出せそうにないわ……」
鹿島さんは、俺の服の袖を力強く握る。
怖い、か。
そりゃ、そうだよな。
魔物が跋扈するダンジョンにおいて、カードがあるとは言えど、人間は貧弱だ。
ゴブリンに棍棒でぶん殴られただけでも、命の危機に瀕するくらいには。
そんな環境に身を置いているんだ。
どんなに気丈に振る舞っていても、怖いもんは怖い。
本音を言うと、俺だって怖いしな。
ユグノアが死ぬ可能性がある事が。
……キャラカードにも命がある。
モンスターに心臓をぶち抜かれたら、カードが割れて、存在が消失してしまう。
だからこそ、臆する訳にはいかない。
怯えて動けない鹿島さんの代わりに、俺が戦わなければならないのだ。
「大丈夫だ、鹿島さん。ここは俺に任せてくれ……ユグノア、ファイアボールだ!」
「いくよっ、ファイアボール!」
俺の指示に呼応したユグノアが魔法の詠唱を行う。
すると、彼女が手に持つ杖の先から炎の球が出現し、ゴブリンへと向かっていく……事はなく、明後日の方向へと飛んでいった。
要するに、ファイアボールは外れたのだ。
「ご、ごめんね……マスター」
「いや、気にするな。ミスなんてあって当然だ。後は俺がゴブリンを断ち切って……!」
意気揚々と剣を引き抜いた刹那、得物を振り下ろしたリザードマンによって、ゴブリンは真っ二つになり、ドサリと崩れ落ちた。
「……セントウ、シュウリョウ」
こちらを振り向いたリザードマンが、無機質な声でそう呟く。
チンと音を立てて、鞘に剣を納める様は中々サマになっていて、カッコいい。
……それにしても喋れたのか、コイツ。
◇
ドロップアイテムの有無を確認した俺は、地面にへたり込む鹿島さんと向かい合う。
戦闘が終わった今でも、彼女は気弱そうな表情であり……もしかして、こっちが素なのだろうか。
「粗方、察してると思うけれど……私、鹿島コトコはエリートでもなんでも無い。親が有名な冒険者なだけのヘボ冒険者なのよ……」
「そこまで、言わなくても……鹿島さんは冒険者になったばかりでしょ?」
「違うわ。中学一年生の頃に冒険者を始めたから、今年で5年目よ」
「そっかぁ……つまり、鹿島さんは」
「マスター。それ以上はダメ!」
咄嗟に嫌な予感を察知したらしい、ユグノアに口を塞がれる。
何故、そんなことをするんだ。
俺はただ、鹿島さんは俺と同じくらいの実力なんだねー、と言いたかっただけなのに。
別に悪口では無いだろ、これは!
「URのユニークカードを持つ高橋さんにパーティを組んで欲しい、と頼んだのも全ては自分のため。私は彼女にキャリーしてもらいたかったのよ……ふふふ、本当に浅ましいでしょう? 笑ったって、いいのよ……」
「笑ったりしないよ、鹿島さん」
「え……?」
「誰だって、死ぬのは恐ろしい。魔物に怯えるのなんて、当たり前のことだよ。だから、そんなに自分を卑下しないで……怖くても、ダンジョンに潜れる鹿島さんは偉い子だよ」
ユグノアは、鹿島さんの頭を撫でる。
とても優しく、慈悲深く、ゆっくりと。
「ま、ママ……?」
断じて、ママではない。
ユグノアは、鹿島さんの。
溢れんばかりの母性を前にして、勘違いする気持ちはわかるが、誤解しないで欲しい。
ユグノアは俺の推しカード。
みんなのアイドルであるのだ。
ガチャ中毒者は低レアリティの推しキャラを最強にしたい〜現代ダンジョンで推し活をしていたら、いつの間にか成り上がってました〜 門崎タッタ @kadosakitta
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