初めてのダンジョンアタック②

 想定していたよりも、ダンジョンの内部は整備されていた。

 道は舗装されており、壁などの作りが現代の建物っぽいのは、ここが初心者用のダンジョンだからなのだろうか?


「ワクワクしますね、マスター!」


「ああ。初めてダンジョンに潜った今日という日を、俺は一生忘れないだろうな」


 いずれにせよ、胸が躍る。

 ガチャで引き当てた推しと共にダンジョンに潜る幸せは計り知れない。

 バイト尽くしの日々は本当に大変だったけれども、ようやく報われたような気がする。


 だがしかし、油断はしない。

 初心者用とは言えども、魔物が出現する危険地帯である事には変わりない。

 何が起こるか予想できない以上、常に周囲を警戒しなければならないのだ。

 そう考えた俺はくるりと振り向き、後方にいる鹿島さんの様子を確認する。


「な、ななな、何よ?」


 すると、鹿島さんは全身を小刻みに震わせていた。

 よく見ると、足が小鹿のようにプルプルしており、顔の色は真っ青で。

 ……もしかして、緊張しているのか?


「か、勘違いしないで。私の体が震えているのは……武者震いよ。まだ見ぬ強敵との戦いを想像して、興奮が止まらないの」


 武者震いなのか。

 それにしては、震えが激しい気がするが、鹿島さんはエリートの中のエリート。

 ダンジョン攻略に臆しているなんて、あり得ないだろう。

 怯えていると思ったのは、俺の勘違いであるとよく分かった。


「でも、鹿島さん、顔色が真っ青だよ? 気分が悪いの?」


「これが、私の平常時の顔色なの。今までの顔色が異常だったのよ」


 鹿島さんはユグノアの問いに即答する。

 真っ青な顔色が、平常時の顔色なのか。

 それにしては、様子が少し変に見えるが、鹿島さんはエリートの中のエリート。

 ダンジョン攻略の際に、体調管理を怠るなんてあり得ないだろう。

 体調が悪そうなのは、ユグノアの勘違いであると、よく分かった。

 しかし……。


「鹿島さん。召喚はしないの? もしかして、己の身一つで戦うスタイル?」


「あっ……い、今、召喚しようとしていたのよ……出てきて、リザードマン!」


 どこか焦ったような感じで宣言すると、彼女が手にしているカードが輝き始める。

 次いで、俺たちの目の前に大柄な体格のトカゲ戦士が出現した。

 緑色の鱗に覆われている彼はブロードソードと大盾を装備しており、強そうだ。

 確か、リザードマンのレアリティはRであり、肝心のステータスは……。


⭐︎


リザードマン


ATK 600

DEF 1000


ユニークスキル


蜥蜴戦士の闘争心

武具を扱う人型の相手と対峙した際に、ステータスが上昇する。

ステータスの上昇値は相手の力量によって、変動する。


パッシブスキル 


炎耐性

炎攻撃に対する耐性。


騎士道の心得

盾の扱いが上手くなり、「庇う」スキルを発動した場合、瞬時に敵と味方の間に割り込むようになる。

ただし、自らが視認できない範囲の味方は庇えない。


バトルスキル


パリィ

武器や盾によって、敵の攻撃を弾く。

魔術系統の攻撃は弾けない。


庇う

敵の攻撃から、味方を庇う。


⭐︎


 こんな感じだった筈。

 攻撃力はユグノアと遜色なく、防御力は非常に高い。

 その上、ユニークスキルやバトルスキルも優秀であり、冒険者の中でも人気が高いカードなだけはある。

 因みにモブカードでも、パッシブスキルには個体差があり、どんなパッシブスキルを待っているのかは完全にランダムであるため、「庇う」と相性が良い「騎士道の心得」があるのは幸運としか言いようがない。

 キャラカードもエリートの中のエリートだなんて……流石は、鹿島さんだな。

 そんな事を考えていると。


「ゲキャギャギャ!」


 死角から、緑色の肌をした小人のような魔物が襲いかかってくる。

 そいつが振り下ろした棍棒が、俺に当たることはなく。

 庇うスキルを発動した鹿島さんのリザードマンが、大盾を用いて防いでくれた。

  

「ありがとな。リザードマン」


「…………」


 礼を伝えるも、返事はない。

 ……そりゃそうか。

 鹿島さんのリザードマンはモブカード。

 ユグノアのように自我を持たないため、喋る事はないのだ。

 それをすっかり失念していた。


「鹿島さんにユグノア。ダンジョンに潜る前に建てた作戦通りに動こう」


 事前に建てた作戦と言っても、その内容は至極簡単。

 リザードマンが前線で戦い、後方でユグノアが魔法による攻撃を行う。

 そして、俺と鹿島さんは指示を出しながら、臨機応変に動くだけ。


「うん。任せて、マスター!」


 俺の声かけに対し、ユグノアはやる気満々と言った様子で返答し。


「……無理」


 鹿島さんは、否定の言葉を呟く。

 次いで、彼女はこちらに近寄り、俺の背中の裏に隠れてしまい。


「やっぱり、ダンジョン攻略なんて、私には無理よぉ……魔物、怖いわぁ……!」


 涙目になりながら、そう告げる。

 今の彼女の姿には、常日頃からクールに振る舞っている氷層の令嬢や、エリートの中のエリート冒険者としての威厳は欠片も無く。

 ……俺の目には、魔物に怯える普通の少女にしか、映らなかった。

 

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