初めてのダンジョンアタック

 セントラルシティの片隅にある初心者用のダンジョン。

 その入り口付近で、俺とユグノアは手荷物の確認を行なっていた。

 腕利きの冒険者である兄貴から貰った皮の鎧やロングソードにバックラー。

 アイテムを入れるためのバックパックや、各種ポーション。

 何よりも……取得したカードを収納するカードホルダー。

 それらに異常は見られない。

 要するに、準備万端って事だ。


「ユグノア。準備は出来てるか? 忘れ物はないか? 体調は悪くないか?」


「うん。大丈夫だよ、マスター! 心配してくれてありがとうね!」


 自分の荷物の確認を終えた俺が話しかけると、ユグノアは屈託のない笑みを見せた。

 ……可愛い。

 俺の推しカードが可愛すぎる。

 小さい背丈に見合わないサイズの杖を握っている姿すら可愛い。

 如何にもやる気満々って感じで、張り切ってる感じが堪らないけれど。

 正直、ダンジョンに行かせたくない。

 ゴブリンだの、オークだのが蔓延る魔物の巣窟に彼女を送り込みたくない。

 危険な目に遭って欲しくないのだ。

 出来るなら、平和な生活を送って欲しい。

 戦いとは無縁な穏やかな日常を……だがしかし、ユグノアはカード。

 ダンジョンに潜り、魔物と戦うために作られた存在。

 それなのに、俺のエゴで……。


「さっきから何を考え込んでいるの? もうそろそろダンジョンへ向かうわよ」


 後ろを振り向くと、動きやすそうな服装に身を包んだ鹿島さんがこちらを見ていた。

 そんな彼女の後ろには、いつものカーディガンを着ている高橋の姿があって。

 ……今回、俺と鹿島さんは二人きりでダンジョンに潜る。

 何故、このような流れになったのか。

 正直、俺は今でもピンときていない。


「本当に……約束は守ってくれるんでしょうね。高橋さん」


「もちろん、守りますよ。先輩と二人揃って昇格して、私と同じ「銀等級」になれたら、パーティを組みます」


 冒険者には階級が存在する。

 まず、最底辺の銅等級に、最も母数が多いとされる銀等級。

 プロとして扱われる金等級に、国内に数人しかいない規格外の存在である白銀等級。

 と、このようにランク分けされている。

 当然ながら、俺のような冒険者見習いは銅等級であり、昇級するためには冒険者ギルドが指定した試験を受けなければならない。

 ……受けなければならないのだが、どういうわけか、高橋の等級は初めから銀等級。

 銅等級から飛び級しているのである。


 冒険者ギルドの規定には、等級が異なる人間はパーティを組んではならないというモノが存在しており。

 俺と高橋は一緒にダンジョンに潜ることが出来なくて……銅等級である鹿島さんも高橋とダンジョンに潜ることが出来ない。


 ここまでの話を踏まえて、単刀直入に言うと、鹿島さんがURのユニークカード保持者である高橋と関わりたがっていた理由は「共にダンジョン攻略をしたいから」であった。

 しかし、高橋はこの要求を拒否して、その後にとある条件を提示した。

 なんと、高橋は「俺と鹿島さんが二人揃って銀等級に昇格する事が出来たのなら、パーティを組む」と言い出したのだ。


 ……高橋の意図はさっぱり、分からない。

 面白半分かもしれないし、俺が知り得ない思惑があるのかもしれない。

 だが、事実として鹿島さんはその条件を受け入れ……俺と一緒に銀等級へ昇格する事を目指す運びになったのだ。


「頑張ろうな、鹿島さん!」


「……ええ。私も、最善を尽くすわ」


 相変わらず、鹿島さんは無表情であまり乗り気でないように見える。

 何というか、とても不機嫌そうだ。

 もしかして、素人である俺とダンジョンに潜る事に不満を感じているのだろうか。

 だとしたら、少し申し訳ないな。


 ……けど、心配しないで欲しい。

 俺も今日という日のために、体を鍛えに鍛え抜いてきた。

 バイトの合間に筋トレをし、屈強な肉体を作り上げてきたのだ。

 魔物だろうと何だろうと遅れは取らない。

 なんせ、俺の兄貴も筋肉を信じて戦い続け、キャラカードを使わずに己の身一つで「白銀級」の冒険者になったくらいで。

 実の兄弟である俺もそのくらいのポテンシャルは秘めている筈だ。

 そう確信した俺はぐっと腕に力を込める。


「見てくれ、鹿島さん。俺のこの上腕二頭筋を……これで、不安は払拭できただろう?」


「……本当にユニークな人なのね、貴方は」


「マ、マスターも、鹿島さんも。みんなで力を合わせて、仲良くしよう……?」


「ふふふ。頑張って下さいね、二人とも。私は陰ながら応援しているので〜」


 どこかチグハグな俺と鹿島さんを見て、ユグノアはおろおろと慌てふためき、高橋は何やら意味ありげに微笑んでいたのだった。


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