あまりにも不運すぎる オッサン
むかしむかし、はるかむかし。
この世界を見守る神様によって、「ガチャ」は作り出された。
何らかの対価を支払う事で回す事ができる「ガチャ」からは、特殊な技術で作られた武具……果てには、魔物や空想の人物を具現化する不思議な「カード」が排出されて。
人々は「カード」を狂ったように求めた。
「ガチャ」を回すのではなく、「カード」を人から奪い、やがて戦争にまで発展した。
だからこそ、神はこう言った。
「私が作り出した迷宮に赴く者にガチャを回す権利を与える……人の子よ、自らの命を賭して、迷宮に挑め。さすれば、望みは叶う」
カードの奪い合いを防いだり、カードを用いた争いを防ぐためのルールを定めた神様は何処かへと消え去ってしまう。
欲深い人間に、夢や希望を与えた後に。
こうして、ガチャを回し、モンスターや架空の人物をカードで使役して、神が作り出したダンジョンへと挑む……冒険者という存在が生まれたのである。
「これが、冒険者の成り立ちと言われている昔話だ。よく分かったか、髙橋」
「確かによく分かりました〜。トオル先輩の熱量が凄まじいという事が」
「ふふふ、そうかそうか。それなら良かった……そうだ。もっとタメになる話をしてやろうじゃないか」
「先輩。もう少しで、順番が来ますよ。残念だな〜。もっと話を聞きたかったのに」
勘違いだろうか、何となく髙橋は呆れているような気が……。
まぁ、それはともかく。
確かに間も無く、俺達の番が回ってくる。
数あるガチャの中でも、最高額のガチャ。
モンスターや架空の人物などが排出される……1回150万円の「キャラカード」ガチャを回す順番が。
「頼む……頼むから、出てくれっ。
目の前のオッサンは祈るような仕草をしながら、ガチャのレバーに手をかける。
……最低でもSRなんて言っているが、排出率的に、そう簡単には出ない。
俺の記憶が正しければ、Nが75%、Rが19%、SRが5%、URが1%。
と言った感じの確率だった筈だが、人によってはどんなにガチャを回しても、Rすら出ない人もいるらしく。
厳密な確率は誰にも分からないので、高レアリティのカードが出る事を期待し過ぎない方が精神衛生上、宜しいのだ。
もちろん、俺は期待するけども。
なんて言ったって、良い結果になる事を望みながら回すガチャほど、楽しい娯楽はこの世界に存在しないからな。
その分、期待が外れた時のダメージは大きいが、それもご愛嬌だ。
「あ、あああ……100回回して、全財産を注ぎ込んだのに出たカードは全部ノーマル……俺は、俺はもうおしまいだあああ!!!」
大爆死したオッサンは周囲の目を気にせずにジタバタと暴れ出した。
運が悪過ぎて、流石の俺も同情する。
全財産が一瞬で溶けたのだ、幼児退行しても仕方がないだろう。
だがしかし、それがガチャというモノ。
どんなに課金した人間でも運が無ければ、とことん搾取され、さほど課金をしない人間でも運さえあれば望んだ物が手に入る。
あまりにも無情で、残酷な存在なのだ。
それにしても、100回も回して全部ノーマルカードだなんて……逆に運が良いのでは?
「もう何もかも嫌だ……金返せ、クソガチャがああああ!!!」
オッサン……。
分かってあげられるぞ、その気持ち。
とあるソシャゲに嵌っていた俺も、何年もかけて貯めていた無料石が全て無に帰した時は周囲を顧みずに大泣きしたものだ。
ピックアップされていた目当てのキャラのみならず、すり抜けすらなくて。
……なんとなく、そのソシャゲに費やしてきた時間が意味のないように思えて、本当に本当に苦しかった記憶がある。
「お客様、失礼します」
「は、離せっ、こんなガチャ結果は何かの間違いなんだ。運営の陰謀だあああ!!」
どこからか現れた黒服の男達によって、オッサンは摘み出される。
観客席に目をやると、その様子を見て笑みを浮かべる人達の姿が見えた。
当然ながら、全員が全員では無いが。
そんな彼らを見て、俺の心が燃え上がるのを確かに感じる。
「……オッサン。仇はガチャ廃人仲間である俺が取ってやるぜ。あんたの代わりに良いカードを引き当ててやる」
「たった一回しかガチャを回さないトオル先輩が良いカード引いたら、100回回したおじさんにとって、嫌味な気がしますけどね〜」
ちゃんと性格が悪くて悪趣味な一部の観衆に、純粋にガチャの結果を楽しむ観衆。
様々な感情を抱きながらガチャを回す冒険者の先輩方や、真っ当な意見を口にする髙橋。
……ここにいる全員に、見ていてほしい。
ガチャ中毒者である俺が、人生を賭けてガチャを回す勇姿を……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます