小悪魔系女子高校生 髙橋リン

 ウェーブのかかったベージュ色の髪と、一際整っている目鼻立ちが印象的な髙橋はどこからどう見ても、美少女であり。

 本人もそれを自覚している。

 それ故なのか、普段から彼女はあざとい所作や言葉遣い、服装で。

 今現在も、ダボっとしたクリーム色のカーディガンを着ており、制服を着崩している。


「なんでここにいるんだ? 冒険者なんて柄じゃないだろ、髙橋は」


「えへへ。先輩がガチャ引くところを見たかったので、来ちゃいました」


 確かに、今日のバイト終わりにガチャセンターを訪れる事を話してはいたが。

 わざわざ、ここに来るとは思わなかった。


「……見るだけなら、観客席でも良くね?」


「それはそうですけど〜。折角の機会なので、ガチャを回してみようと思って」


 一応言っておくと、今から俺が回そうとしているガチャは1回150万円もする超高額のガチャであり。

 一般人、それも平凡な女子高校生がおいそれと回せるようなガチャではない。

 それならば……ごく普通の家庭で生まれ育った高橋は何故。

 150万円もの大金を軽々と浪費することが出来るのだろうか。


「髙橋、もしかしてお前……」


「……なんですか〜、トオル先輩」










  


「高校生活をバイトに捧げて、資金を集めるほどのガチャ愛好家だったのか!? 俺と同じなのに何で隠してたんだよ!」


 俺は勢いのまま、高橋の手を握る。

 水臭いにも、程があるだろう。

 俺のようにガチャを愛していた事を今の今まで、隠していたなんて。

 髙橋はゆるふわっとした雰囲気で、男慣れしてそうだけれども……援助交際に手を出す奴じゃない事はよく知っている。

 恐らく、彼女も俺と同じようにコツコツとバイトをして、地道に資金を稼いだのだ。

 全てはこの日のために。

 ……高橋は、俺の同志だったのだ。


「今日までよく頑張ったな、髙橋。俺と共にガチャを引いて、冒険者になろう!」


「何か、勘違いしてますよトオル先輩。冒険者になる本当の理由は……私を色眼鏡で見ない先輩ともっと一緒にいたいから、ですよ」


 そう言って、高橋は悪戯っぽく微笑む。

 台詞も仕草も、相変わらずあざとい。

 本当に、とてもあざといが……俺はそう易々と引っかかったりはしない。

 これは恐らく、照れ隠し。

 俺と同じガチャ中毒者である事を、あざとい言動で誤魔化そうとしているのだ。


「あまり舐めて貰っちゃ困るな、髙橋。同じガチャ中毒者である俺には分かる。お前もガチャに囚われた同志であることが……」


「……はぁ。もうめんどくさいので、それで良いですよ〜。先輩のばーか」


 今も尚、照れ隠しを続ける高橋と共に券売機でチケットを購入する。

 セントラルシティの市民である事を示すカードは電子マネー代わりにもなるため、タッチするだけで決算が終了する。

 この一瞬で、150万が一枚のガチャチケットと化したのだから末恐ろしい。


 そして、高橋と二人揃って、ガチャマシンの列に並ぶと、改めて実感する。

 この紙切れ一枚には、俺の高校生活の大半が詰まっていると。

 およそ1年と半年の全てをバイトに費やして生み出したお金、そのものであるのだと。


 ……だが、それで良い。

 ガチャとは元来、こうあるべきだ。

 金をかければかけるほど、執着心が増す。

 ガチャを回す際の緊張感が高まる。

 更に言うと、当たりのキャラを引いた時の感動が何倍にもなるものなのだ。


「引いてやるぜ。最高レアリティ、URのカードを……!」

 

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