第49話 3億円は死んでいる
カビ臭い、エアコンの
その、すべてがウソくさい。
ふぞろいのヒゲで、スーツをだらしなく着る馬場。鈴木教頭の前に現れた。
「おでんの代わりに来たんだよ。なんでも人探しだって?
こっちはあんたの裏金疑惑の取材で来る予定だったのによ。とんだお子ちゃまの使いだぜ」
窓の手前にゆっくりと立ち、鈴木教頭はぼんやりと外をながめ始めた。
「裏金? たいそうなことは言わないでほしいですね」
「じゃあ、言わなくてもいい。で、今回の件でいくら出す? 警察にも裏金の件でしっぽは捕まえられてないんだろ? まだ、自由なお金もあるんだろ?」
いつにも増して、
それは仕方ない。最近、ついてねぇからな。財布は
それを差し引いてまあ、この教頭も同じくらいふびんだな。校長が
聞くところによると前に一度、山菜特集で依頼した先生の行方も不明だとか。だったら、ちゃんと
あ~~~、そうだそうだ。思い出してきた。
馬場は内心、怒りをおぼえる。
あのとき、こちらの依頼を断わっておいて今度は自分がお願いだぁ? 虫が良すぎるぜ。まあ、ギャラしだいだろうな。
目の前の
「この
すでにヤクザの
それでも鈴木教頭はあえて表情をつくらない。機械的にジュラルミン製トランクを彼の前へ落としてみせた。
「そうですか。それではこれで期待に
ゴトリッ!
うわぁ、べらぼうなお金の重力だった。一瞬、息を飲むのを忘れる馬場である。思わず、乗り出していた。
「………いくら用意したんだよ?」
「はい、手付金で1000万円。お好きにどうぞ」
姿勢がピンと伸びていた。
「まさか、ニセ金じゃねぇよな? 調べさせてもらうぜ」
ぎっしりとつまった
1968枚 12/10
お金は魔物か? むしろ神か?
戦後最大級の未解決事件といえばお決まりだろう。国民総生産が世界第2位になり、いざなぎ景気でわいていたころ。それは東京、
「止まりなさい! 車に爆弾が
そう、呼び止めたのは白いヘルメットをかぶった白バイ隊員だった。
黒
ただ、その見た目やたたずまい。およそ強盗とはほど遠い印象を受けた。
あまりに色白でひ弱な感じ。そして、
そこでドライバーは信じるに足る。それにこちらはドライバーも含め合計4人の銀行員だ。対する相手は1人だけ。言われるままに停止した。
すると、なにやら車の下から
「危険だ! すぐに
あわてる銀行員たちだった。犯人が事前に用意した
そのときの彼らの
とても死んでも死にきれない。正常では生きていけない。
それでも、乗ってきた白バイなど多くの
ここにひそかな桜タブー。
実は犯人が警察
それが
ただ、この説のもっとも恐ろしいところは警察がそのウワサを流していたとしたら?
事件より11日後にあの有名なモンタージュ画像ができた。ようやくカラーテレビが出るようになった時代で捜査にも影響力がすさまじかった。
ただ、もしあれが別人だったら。
それもそのはず。警察ははじめ、自殺した息子があやしいとにらんでいた。そこで1年前、こちらも死んだいた息子と似た写真を犯人として合成。てっとりばやくヘルメットをかぶせた。
いたしかたない。世間はスポーツ選手、芸能人を抜きその年、一番カッコイイランキング1位になるほどの
『昭和のねずみ
だが、犯人が名声とは逆に
0.1秒でも早く捕まえるんだ! そのためにはのんびりしていられない。銀行員4人を集めて、モンタージュを誘導。
例え間違ったとしても身内だし。
さらには死人に口なしだし。それに写真は合成だから問題ないでしょ?
その上で当然、やってしまった日本
結局、保険に入っておりボーナスが全額支払われたことだ。これには自作自演じゃないか?と、疑われても仕方がない。あざやかすぎる犯行もすべてがふに落ちた。
そんな4人の彼らが協力したモンタージュ。そもそも、パニックと後悔でどれほど犯人の顔を覚えているかわかったものじゃないが、
「こんな感じだろ?」
と、警察から問われればうなずくしかなかった。
とはいえ
どちらにしても銀行振込になってしまった。
そうさ、今の3億円もこれからの3億円ももっともっと安くなる。そうなれば、この事件もたいしたことないってさと行き着くよなぁ。しめしめだ。
鼻紙にされて捨てられる日も近いかもしれない。
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