第47話 検索不可、ソドミー

 どこか大統領が言った。

「この世の中に多様性はない。あるのは男と女だけだ」


 全世界に多くの信者をもつキリスト教とイスラム教。彼らの教えは原則、同性愛は禁止である。しかし、この日本は違う。多様性バンバンザイだ。

 両刃使いバイはもちろん、男同士の恋愛も自由。それは外国人から人気のサムライといえど、切っても切れない。むしろ、大好物であった。


 その歴史は古く

弘法こうぼうふでのあやまり」

 このままよむと、本当に筆の使い方をあやまった? 

 男色文化はその語源である空海が広めたという。

 まあ、当初は仏門に入れば異性がいないのは当たり前。それはもんもんとする、かはさておき、仏教での同性行為はむしろ気高いとされた。


だからこそ、和尚おしょうさんは筆のあつかいも知らない小僧さんに

「これはきまりだからね」と

 真面目な顔で言いきった。

 さも、七五三の通過儀礼つうかぎれいというわけさ。ただし、いきなりソドミー(肛門アナルセックス)というわけにはいかない。穴が千切ちぎれてしまうおそれがある。


 そう、何ごとも準備が必要なんだよ。だから小僧さんには和尚さんとの初夜に向けて、木のぼう海藻かいそうをぬり、自分の穴をほぐしてはかき回し、涙ぐましい開発するのであった。


 しかし、それは決して虐待ぎゃくたいや性暴力ではない。すべては高い精神性をえるためだ。

 まあ、彼が成人になるまで和尚さんのえじきになるのは間違いないが。逆に、お酒を飲み、つまをめとった一休さんは破戒僧はかいそうと呼ばれてしまう。

 ええ、ええ、何も間違っていない。なぜなら、それが奥義おうぎだから。秘法ひほうだから。わかってくれるよね?


 そのうちに仏教と貴族社会が深く結びついていくと、ソドミーも上流階級へ浸透しんとうしていく。それがいつしか本当にし合うサムライの時代へ入ってしまう。

 貴族たちの寝技だと? すたれてもおかしくない。

 ところが、逆に世間へ広まるきっかけとなる。親だろうが、子だろうが、いつ何時なんどき、誰からおそわれるかわからない。特に、寝込ねこみだ。妻や愛人をタテにすることは武将の名折なおれ。逆に妻をかばって死ぬのもナンセンス。

 そこで女がダメなら男がタテというわけだ。

 一緒に寝ていた主人が襲われた。そこで従者じゅうしゃが命を落とそうが、どちらも名をけがさない。またたく間に武家社会でもソドミーは花開いていった。

 

 第六天魔王、織田信長には蘭丸。

 騎馬隊最強、武田信玄には高坂。

 名だたる武将はゲイ達者たっしゃ。しかし、それはステイタスでもあった。

 世間は裏切ってもつみにもばつにもならない時代。それが、お金では買えない忠義の従者がいるとしたら、なんと徳の高い武将なんだろう。

 御伽衆おとぎしゅう。まさに体でつなぎ出す奥義だ。

 

 そして、最後の武家社会のトップも例にもれず。徳川3代将軍、家光は生粋きっすいのアナぐるいの1人でもあった。

 女性に見向みむきもしない。むしろ恐怖症きょうふしょう。そのように仕向けられたのかもしれないが、おかげでキリスト教に入り込む余地よちがない。 

 ただ、外国からもたらされた梅毒ばいどく感染爆発パンデミックしてしまう。

 

 体液で感染。異性、同性問わず行為で移る。これもソドミーにとっては致命的だ。

 すたれていくか? ところが、だ。

 この緊急事態を意外な方法で対処たいしょしていく。それはみんなで感染!

少しでも毒を弱くしよう! とスローガン。かくして、日本は空前のセックス天国が誕生たんじょうするのであった。


 ヒマさえあれば、交尾こうび。政府公認の売春地区もつくった。外国とやりとりする出島にも売春街をつくった。そして火事がたえず、そのつど下腹部も熱くなっただろう。

 まさに愛ランド。

 男でも女でも、昼間からあえぎ声が聞こえる。


 ええ、ええ、そんな中で性の売り買いは性別関係なく奥深い農村にいたるまではば広くビジネス化されていった。

 それはそうだ。必ずもうかる。絶対にもうかる。なぜなら人の歴史が始まって以来、一度もすたれたことはないからだ。そもそも神話の世界から同性行為もよくあった。仏教だから、ではない。


 そしてソドミーの根源地、貴族社会が残る京都や大坂ではでっかいひともうけ。

 有名どころでは加賀屋に津賀屋か。

 もともとおさない少年をダシに売春。お寺や貴族へおろしていた。


 そこで未開の都市、江戸へ。

 はあったさ。人口はどんどんふくれ上がるのに当時は観光も遊びもすべてなかった。だから、ほとんど無名の修験山しゅげんざんが富士(不死)山としてこれほどまでに有名になってしまう。

 それまでの1000年以上はナンバーワンスポット、吉野山。それが政治の中心、江戸へ移った。そうはいってももいられない。


 はだかの少年を前に、値踏ねぶみをする商人の目がいやらしい。

「ギャップえってわかるかい?

 普通なら子育てしていると、息子はお父さんを、娘はお母さんを遠ざける。でもね、お父さんだって息子から愛されたいんだよ。無条件で。

 ただな、少年の成長速度はすさまじいのよ。愛される時間も一にぎり。だからこそ、その未熟な1ページをはぎとる背徳感はいとくかんがたまらないのさ。

 もちろん、少年の髪をかき上げるなんて、したことあるかい? やわらかい首にかみついたりさ。非日常があまりに過ぎる。


 あとはやはり、肉棒を入れたときの違いだな。プルプルの肉壁にくかべ、女とそれとは比べものにならない。ギュウンギュウンにしめつけてはなさない。きっと、男ならではの運動量や能力に差が出るのだろう。


 そろそろ江戸では普通の行為にあきた多く野郎たちがいるはずだ。お寺も結構けっこうってきた。絶対にこぞって飛びつくはずよ。


 すでに下地はできていた。それは歌舞伎かぶきさ。

 前の戦国時代。もともとは役者を生で鑑賞かんしょうでき、後で気に入ったら行為もできるっていう興業こうぎょうだった。

 あいつらが各地で転々とするものだから、乱交集団になったよ。だから風俗を混乱させるなと女歌舞伎にNGが入った。

 そして次、若衆(少年)歌舞伎さ。

 女方っているよな? いるだろ? 見ほれるよなぁ?

 妖艶ようえんあやしいほど美しい。あれをもっと小さくしたらヤバいだろ?


 それがおまえだ。

 フィギュアってなんだぁ? 大好きか?

 それを江戸へ投下するんだよ。おまえは良い声で鳴くかわいいインコだ。そうだ、陰子インコ(少年)よ、おまえにはいっぱしに化粧けしょう女装じょそう、かんざしを入れる。べにもつければ上等だ。

 もちろん、四の五の言わせねぇ。

 女郎方だろうが、色物だろうが、おまえは売りもんだ。交われるために努力しろ! せいぜい、はじらい、ときには甘い言葉をかけてやれ!

 そうすればおまえが成人になったとき、少しは身銭みぜにも増えているだろう。

 さあ、おまえはそのヤワな棒との穴でかせぐんや!」


 はたして思惑おもわくはあたり、大ヒット。稚児ちごなんて、そんな呼ばれ方もした。


 しかし、春は一瞬だよね。あけぼのであり、はかないものさ。

 この商売も成人になったらお役御免ごめん。おかげで仕入れ先の京都、上方方面からは売り切れが続出する。すると、現地調達するのだが田舎者臭いなかものくさくて不評ふひょうを買うのだ。

 おかげで数量限定だと。

 待っている間にエロ小説、エロ雑誌は飛ぶように売れ、松尾芭蕉などの偉人でさえ少年をう始末だった。


「奥の細道」

 売っているから買っただけだよと、よくイッたものだよ。彼らの足もとには金銀が飛び交った。そんなカオスな江戸は20~25人のうち1人は売春、3人に1人は梅毒患者かんじゃという有り様だった。


 さて、その後のソドムシティはどうなったか?

 外国より圧力を受けて開国。キリスト教やイスラム教といった原則、男色否定文化の波にのまれる。それでも触手しょくしゅは発展途上国のアジアへ。

 学校をつくるのにお金を出した日本人。学校に通う少年少女にお金を払う日本人。泣きさけぶ色とりどりのインコが好きだと、下腹部が熱くなる。



 ところは戻り、昼下がりの校長室へ。

 鈴木教頭は模型もけいの船をこわす。

「あの松倉め! 自分が22億円の横領おうりょうの罪をかぶるから、埋蔵金の共同調査もお終いにしろだと?

 知っているのか? わしがどれだけおまえに投資とうししたのか! 

 PTAにあの着服疑惑ちゃくふくぎわくをリークしたのもあいつの仕業だろう。クソいまいましい。これでわしはがんじがらめじゃ。だが、こちらも手段がある」

 鈴木教頭はあるジャーナリストへ電話をかけていた。


 








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