第31話 人形供養 子どもの七つのお祝いに・・・
大量の花粉とともに、馬場が事務所へ飛び込んできた。
「宮武さん! うちの販売部数が大幅に伸びたって本当ですか!」
「おうよ。きっと、俺が天皇を
あの
その大事な場面をこれ以上、センセーショナルに
「どうですかね。効いたのはこっちですよ。おかげでどれだけ
あわてる宮武。請求額にゲロも出た。
「うるさいわ! 過激なことをしないと売れない時代になったんだよ!」
ふぅ~~、情けない。ため息をつくおでんである。
「そういう固定した考え方。才能のない人の、ただの言い訳ですよ。そもそも4月は新聞の部数が自然と上がりますから」
冷静な
「やはりですよね! 俺の『 春だ一番!G-スポット特集 』が効いたんですよ!」
新聞にはエロ教材も大切だ。ただ、おでんは白ける。
「おそらくそれも違います。うちの新聞が売れているのは最近、この地元で行方不明者が続いているからでしょう。
………きっと、みんな、心配なんです」
馬場は余計なほどに相づちする。
「神隠しねぇ~。その先には神か、仏か? ホットケか?」
聞こえるようにつぶやいた。だが、おでんも宮武も花粉症なのか、クシャミの
その夜は事務所でプチ
「付き合いの悪いやつらめ!」
一人で
ポタッ!? 上から何だろう?
ただ、痛みはないぞ。見上げると、天井の通気口からポタポタと血が
どうやら原因は上の階だ。限りなく人の血のようにも見える。
もしかして
『 1709号室 大奥 』
ちょうど引っ越してきたばかりなのか、真新しい
「すいません! 下の者だけどさ。なんか上から
さらにドンドンとトビラをたたく。すると、中から品のいい
「………どちら様で?」
彼女の異様な出で立ちに、宮武はギョッとする。真っ赤な和服に、三つ
「………ああ。俺は下の階の宮武ってものだけどさ。今、血が垂れてきてこのザマなんだ。なんかあったのかな~~~って、思ってね」
こんなとぼけた口調で聞いてみる。
ギリギリギリギリ。老婆は歯ぎしりを重ねた後、おもむろに手を差し
「
そう言って、老婆は宮武をむかい入れるのであった。
また、やけに多くの目線を感じる。それはゾワゾワと背中をさすり、後ろ
いったい誰だ? だんだん、目がなれてくる。
「う、うえっ!」
思わず
目線の主たちは異様な置物。廊下のはじに、土でできた
また、大きなたぬきの焼き物だった。首をかしげ、やや口は半開き。意識を失っているフリをしていた。
足もとにはダンゴ虫やムカデがうごめく。アリがクワガタの
「足もとにお気をつけくだされ」
老婆は後ろで
心でさけぶ宮武は自然と顔を上げていた。
まあ、案の定だな。どこかのガラクタ屋にそっくりだ。天井には
加えて忠告する老婆である。
「どうか息を止めてくださいまし。この御鈴廊下では男子禁制。気づかれると、
「早く言えよ、クソばばあ!」
もう、宮武は口に出していた。どうなってんだよ、この部屋は!
しかしふと、何をやってるのか白けてしまう。お金にも仕事にもならないわけだ。適当なことを言って、引き返そう。だが、おでんや馬場が聞いたら、どうする? 必ず逃げ出したって笑い合うだろう。
気づけば、目の前に現れるボロボロのふすまだ。いつの間にか老婆が手を引いて、うながしていた。
「ささ、どうぞ! お入りくださいまし」
どうせ、この先もガラクタ市だろう。宮武は
すると開けた瞬間、目を
まるで大きな武道場か? 25
そして、
宮武は理解する。もしや上から垂れてきたのはこの血の涙?
だとしたら、俺はたっぷりと
老婆は後ろで物語る。
「このお人形たちは私が集めました。ご
「い、生きながらえるって?」
「はい。いつの世も子どもは
そのために大人は人形遊びと
だからこそ彼らはきれいな
取りついた
そう、古くから人
子どもが成長していく過程。
七五三で着飾るのは、もう病魔から人形に身代わりになってもらわなくても大丈夫という儀式でもある。
だからこそ、身代わりになった彼らは病魔をまとうのだ。ときには焼かれ、ときには川へ流され、子どものために喜んで死んでいったのだ。だからこそ、大きくなっても手もとに人形を置き続けるのは危険。服の下に、たらふく病魔をためこんでいるのだから。
宮武は生つばを飲む。
「ゴクリッ。………じゃあ、生きているってことは?」
この人形の
悲しい目の老婆だろう。
「はい。このものたちは子どもに死なれております」
宮武は
おそらく身代わりにもなれず、逆に子どもの方が身代わりになってしまったと。
『なぜ、おまえの方が残ったんだ! おまえが病魔だ!』と。
それからというもの人形たちの服は汚れた。まばたきもするようになった。歩くようにもなった。髪も伸ばす。
ああ、それは
「だからね、苦楽を共にした人形は絶対に焼き殺してくださいな。さもないと、あなたより生きてしまうことになるでしょう」
突然、何百体も倒れ出す。カツラが取れる人形も。その下からはい出した
しなやかに立ち上がった白い
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