【姦】第12話 母は遊女 私は先生にレイプ その子も夫の遺骨の前でレイプされ

 ケシ畑を見下ろす小高いおか。その上にある鉄筋2階建ての隔離施設。

 外見は横長で5部屋ぐらいはあるだろう。外へきにひびが入り、日に焼けたコンクリート。看板もかざりもなく、まるで生気が感じられない。

 

 その周囲には2メートル以上の深いみぞ。下をのぞけば有刺ゆうし鉄線。無数のガラス片も散らばっている。

 施設の窓にはトゲのついた鉄格子ごうし。外までただよう血の臭い。重苦しい威圧感しかなかった。


 近づくにつれ、足がすくむ一行。宮武が馬場にささやく。

「どう見ても処刑場だな」

 その馬場は無言でカメラを回す。ただ一人、走り出したのはおでんであった。

 引き止めようとする牟田口。とっさに彼女のかたをつかんだ。

「勝手な行動は止めるんだ!」

 彼女は牟田口の制止を振りほどき、施設の入り口へ突進。

「まだ、この中で夫は生きているんでしょ!」

 迷惑にも鉄のトビラをガンガンとたたき出したのだ。

 見知らぬ土地で気の知れない案内人。そこへこの無作法だ。絶対、おとがめがあるに違いない。

 頭をかかえる宮武たちも続く。まいったな。これには牟田口もカギを取り出し、トビラを開けた。

 すると、そこには思いがけず。


「なんだ? 意外と内は明るいぞ。それに………結構、きれいだな」

 見回す宮武たち。せまい通路だが、下はタイル張り。左右の壁には厚塗あつぬりの絵画。そして、ずっと妙なアナウンスが流れていた。

 よく聞くと、小さく一定した機械の音声。それは牟田口として、どうあるべきか、どう考えるべきか、どう行動すべきか、こんこんと説話しているようだった。


 軍刀をドスン! ここで牟田口がおでんを一喝いっかつする。

「いいか! ここから先、決して私より先に出てるんじゃない!

 このとなり、そこが整形部屋である。それ以外、歩き回ることは許さん。もっとも、おまえさんの夫はいない。とっとと、連れて行くんだな」

 それでも彼女は止まらない。誰よりも早くとなりの部屋へ。早く開けろと、ドアノブを回し始めた。

 ん~~~、マズいよな。宮武が頭をかきながら牟田口にお願いする。

「すいませんね。うちのスタッフが迷惑をかける。

 でも、このままカメラを回し続けてもいい絵がとれないんだよ。

 ホラッ、あとあと彼女がうちのスタッフだとわかったら、ヤラセとか言われかねないでしょ?

 だから、この先は後ろの楠本君に任せたいと思っている。そこで悪いんだが、それまでじゃじゃ馬の彼女を押さえてつけてほしいんですよ」

 まことにあつかましいお願いだ。

 しかし、宮武も打算する。スクープと言っても使える場面は限られるだろう。ケシ栽培、同じ顔の住民。一般公開にはまあ、無理だ。

 逆にこの場面なら使える。失踪しっそうした学生仲間との再会。なかなか感動の場面じゃないか。しかも、何が出てくるかわからない緊張感。それは決して、おでんの役どころではない。


 宮武は振り返り、今度は楠本にお願いした。

「さあ、君がこの部屋を開けるんだ。大丈夫。何かあったら、俺たちがいるから」

 そして、おもむろにふところから拳銃を取り出す宮武。牟田口も軍刀を使って、おでんを羽交はがめにした。


 楠本もうなずき、深呼吸。馬場の手にも汗。つばを飲む。


 重いトビラ。…冷たいノブ。…ゆっくりと開けるぞ。


 ぎぃぃぃ~~~、きしむ断末魔。

 

 そっと開けた先。部屋は仄暗ほのぐらい。窓もなし。電気もない。小便の臭いとぬるっとした湿気で充満していた。そして小さな虫も飛んでいる。ガランとした8畳ぐらいか?

 瞬時、人らしき動きを見る。久しぶりのあかりだったのか、三つの影がそれぞれ部屋のすみへと逃げ込んだのだ。

 楠本は部屋の中央へ歩み出す。首を回した。それに合わせて、ライトを回す宮武。すると、手術は完了していたのか? 彼女の悲鳴と共に、闇が少しずつとけてきた。


「全員、牟田口の顔!」

 牟田口以外の絶叫。もともとここは整形部屋だ。彼らの顔はしわだらけの老人の顔へ整形されていたのだ。首元の辺りまで皮膚ひふがたるむ。

 そして隅に逃げ込んだ誰一人、生気を感じない。目尻めじりは下がり、鼻水はそのまま。やや笑みを浮かべているようにあらい呼吸だ。

 とても、まともとは言い難い。宮武もため息を押さえながら、再びライトを回し始めた。

「同じ顔ね。………これじゃあ、確認のしようがないな」

 馬場もそれに合わせて逃げ込んだ1人ずつをフォーカス。最後に、長身の学ランの生徒をズームした。壁を背に座る姿。指にはいかつい指輪が光る。



 その彼へおそるおそる近寄る楠本だ。

 顔をのぞきこみ、身元を確認。そこから、なんと両手を広げて馬鹿笑い。青い目の楠本くすもとイネは爆発した。

「そこにいるの、石井先輩でしょ! ハハッ、い~い気味! このくそ野郎!

 何、そのしわしわの顔。男前になった? 

 あ~~ああああああっああああああ?P+*P*P*?+LJK

 私がハーフでいじめられていたことをいいことに、優し声で近寄ったな!

 それで、何? 『おまえの母親は娼婦しょうふだってな? その子もどうせ、スキなんだろ?』 だと?

 無理矢理、私を押し倒しこんな感じでったよな」

 ドグウッ! 彼女はつま先で力いっぱい、石井の腹を蹴り上げた。

「もっと、強かった? それも呼吸のできない私の鼻をつまんで無理矢理、フェラさせたよね? にやにやと笑っているおまえの顔。ぜってぇ、忘れるもんか! 

 そして、服を破いた。楽しんだか? ビリビリに。

 泣きじゃくる私を往復ビンタしたっっけ。私、よく覚えているでしょ! こんな感じでな!」

 坊主頭をつかんで平手打ち。鼻から血が飛び散った。

「アアッ? 確かにあんとき、言ったよな!

『中出ししてください』って言えだと!!! そんで拒否ると私の小指、折ったよなぁ! ああ、聞いてんのかよ!!!」

 そのまま壁に頭をたたきつける。たまらず、石井の悲鳴。しかし、誰も動けない。おぞましい彼女の告白にではない。豹変ひょうへんした彼女にではない。今、止めたら自分の方が殺される。


「そのあと、おどしたよな? 映像をばらまくだと? 性奴隷? セックス大好き?

 んなわけあるか! 

 おまえは外道以下だ。このプチ旅行でも、みんなの前で青姦するとニヤけてた。けれど、それがどうしだ?

 今はイモ虫みたいにいまわる。バッタみたいな面になったじゃないか。ええ?」

 瞳孔どうこうの開いた彼女が牟田口へうったえる。 

「ねぇ、ここにハサミぐらいあるでしょ! 最後に私がズボンを脱がしてやるから、1センチずつおまえの亀頭、切ってやるよ!」

 浮き上がるひたいの血管。釣り上がる大きな目。逆立ちする髪。馬場すら、カメラを背けてしまった。


 静かに、牟田口。

「残念だが、彼らは記憶障害を起こしとるかもしれん。君た2人にどういう経緯いきさつがあったか知らんが、まともに謝罪もできんはずだ」

 それでも、止まらない楠本。石井の顔につばをく。

「あっそう! でも、知ってる? こいつはね。私だけじゃなく、私のお母さんも侮辱ぶじょくしたの。

 セックス大好き親子だって! じゃあ、なんだ? おまえは木のまたから生まれてきたか? おまえがよぉ、何を知ってんだよ!」

 そして、楠本は石井の小指をためらうことなく握り上げる。

 次には思い切りにグギッ! 180度曲げた後、一気に紫へ変色。

「よかっったわね、気持ちいいっっ? 

 何とか言えよ、コラッあああ!

 でもね、感じてないならそれでもいいのよ。ハサミ持ってくる間、あと19本もあるし♡ 歯も1本ずつ折ってやるから、まだまだ楽しめるよ。

 おまえら、いいから早く持ってこい!!!」

 こおりつく部屋。今、男性たちは固唾かたずをのむことしかできない。いつの間にか、おとなしくなっていたおでんがスッと歩み出る。



「あなたがこのくそ野郎のために、犯罪を犯すことはない」

 血走った楠本の目。

「そう? でも、ここは禁足地でしょ? ここに法はない。それに私は正義を執行してるだけ」

 おでんは石井の前でしゃがみ込んだ。

「ええ。でも、あなたがこんな男のために汚れることはない。人殺しは一生残る」

 それでも、楠本は笑っていた。

「はあ? 私の一生なんて、とっくに終了。復讐、ただそれだけのために私はこのためにここまで来た。そもそも、あなたに何がわかるというの?」

 じっとして、動かない高橋おでんだ。

「そうね。でも、知らないわけじゃない。私は夫の治療費のため、体を売った。

 そんなとき、マスコミは私を不倫を楽しむ『毒婦』と面白おかしく騒ぎ立てたの。

 だから、痛みは、あなたの痛みは、ほんの少しだけでも理解できる方。

 勝手にもてあそばれて。でも、誰にも言えない……。呼吸さえつらかった。

 そう、そうね。私にも彼の亀頭を切る権利はあるんじゃない?」

 彼女はカッターを持ち歩いていた。いつでも自殺できるように。今度、笑うやつがいたら、一緒に地獄へ付き合ってもらうため。


 キチチチチチッ。刃のミリ単位で飛び出す音。完全に刃物の直線。そして、それを振り上げた。

「あなたのやみは私も背負う!!!」

 狂気のおでん! まばたきを忘れる。石井の股間こかんへ一気に振り下ろすっの、手前!

「やめて!」

 楠本はおでんの手をつかんだ。

「うるさい! うるさい! うるさい!」

 8畳の部屋では楠本の涙でつつまれた。


 その昔、日本は世界有数の売春大国で有名であった。

 そう、『女性のあてがい外交』だ。その出入り口である長崎の出島。当然、外国人に接待としてあてがわれるのが娼婦である。

 もちろん避妊はない。だから彼女たちに私生児が生まれるのだが、その子共々厳しい差別の対象になる。おかげで、娼婦の子は娼婦へ直行。けがれは穢れの連鎖れんさを生んだ。

 そのみ嫌われ方は尋常じんじょうではない。ふれるだけでわざわいがうつる、病がうつる。あいつらは死骸しがいを食べて生きているなど、根も葉もないウワサで差別するのだ。

 そして梅毒ばいどくなどの病にもかかりやすい。これにかかると顔がとろけて、とけた先からぶちぶちとうみき出てしまう。


 そんな危険な感染症にも生活のため。できる仕事を続けるしかない。しかし、一回のセックスではかけそばの料金(16文=500円ほど)まで落ち込んだ。


 だから、ほんの少しの対処法。娼婦は和紙にツバを含ませてから丸め込み、○○へ入れておくのだ。子供ができても商売の邪魔。祝福されない子供はいらない。

 尚、客を取るときにはお歯黒をする。

 そのお歯黒とは、一般常識として既婚きこん者だと示すためだ。つまり、どこまでいってもあなたと遊びというアピールするため。


 生きる権利とか、人権とか。この世にあるとしたら、別世界。レイプされ、性奴隷にされ、売り物にされ、さらに病にまでかかり墓もなし。


 おめでとう。教科書に加えてください。それがうるわしき日本の窓口であり、世界から愛される日本外交の姿でしたと。

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