【宗】第7話 黄昏のルフィー
いつまでも直らないテレビに、宮武は暴力をふるう。
「最近、買ったばかりにどうしちゃんだよ! コラッ、コラッ!」
それでも砂嵐のまま直らない。
彼の情けない姿に、思わず馬場が小声をもらす。
「家電は叩けば直るって、そんないつの時代の直し方ですか。電気屋さんでも呼びましょうよ」
だが、ここでニヤリと宮武だ。
「フフンッ! そんな必要ないぜ。なぜならここに優秀な保証がついてんだ。三年間のうちに故障と認められたら、最新のテレビと無償で交換できるっていうな。
おでん、その引き出しの一番下だ」
そう命令されたおでんは引き出しからテレビの保証書を引っ張り出す。しかし、そこで仰天の事実が判明する。
「み、宮武さん! この電気店。先日、倒産しましたよ。確か突然の倒産で、責任者も姿をくらませたとか………」
まるで冷や汗が止まらない宮武だ。
おでんも重力に任せてがく然としている。確かレシートはどこだったか? 貧乏新聞社でもメディアにはお金をかけよう。
だが、馬場はちょっと大げさだと笑っていた。
「それは仕方ないことじゃないですか。また、新しいテレビを買えばいいだけでしょ? ところでこのテレビ、いくらしたんですか?」
虫の息の宮武だ。おでんはようやく見つけたレシートで見せつける。
虫の息の馬場。
「………壱億円だ」
保険とは、投資とは、詐欺とは、まったく同じ原理である。
共通するのはそこに『将来性』があるかどうかだ。過去・現在・未来で、いつでもつきまとうのは不安である。
結構、不満や絶望、希望や夢なんて続かないものだ。それに引き換え、不安は一生、寄りそうもの。
その不確かさに誰もが賭けを打つ。その際、より安全でよりみんなが選び、より誠実であれば、それにこしたことはないだろう。ただ、テレビと同様。その認識こそ穴なのだ。
不死新聞の1948ページ。
めずらしく一面カラーで広告が載っていた。それは東大生が学生帽をかぶり、学ラン姿で
「僕ならお金を倍に増やします!」
と、全体写真。さらに、堂々と両手に札束をにぎっていた。
背景には白黒のマリーゴールド。信頼を示す花言葉である。時代は超低金利と物価高。銀行に預けても、あめ玉一つぐらいの利息しかつかない。だから当然、お金は動かせない。それどころか運用しないと、資産が目減りする時代。
そこへ現れたのは優秀でクリーンな人柄と、大胆な顔バレ広告だ。これがウケて大反響。仲間も有名大学の卒業生でかため、実績や信用を高めていった。
高学歴とは光に見える。そして、その光とは名刺に名前を落とすことによって強力な武器になるのだ。日本初の大々的な闇金グループの実態は、そんな彼らの頭脳集団にあった。
光クラブ。
必ず、もうける方法がある。以下の手順だ。簡単だ。
① それは現在の日本の法律を知ること。
② アメリカなどの先進国で法律の勉強をすること。
③ その知識で日本の法律の抜け穴を探り、商売すること。
④ 税金がかからないこと。
出資法など制限が無かった時代だ。銀行の10倍金利。たちまちに10億円を集め、ブームを呼び、東京の銀座にまで出店する程までになる。
あの看板もこの看板も。広告を見れば、東大の学生帽。謙虚で男前で、聞き上手。ただ、彼は決して本音を言わない。
「頭さえ使えれば、お金もうけの話はゴロゴロしているんだよ。なのに、それができないとグチるやつ。つまりは仕組みを知ろうともしない、アホで低脳で救いがたい連中だということだ」
世の中、だまされた方が悪いとか?
いいや、そんなことはない。あなたが判断して大切なお金を投資した。ただし、少し食い違っていたこと。
この後に来る不安の解消(死んだ後)、「将来にどれだけガマンできたか」じゃないですか? ホラッ、株価は生きものです。経済も、社会も、天変地異の影響を受けますよね。
今、株価は天井知らず、だった。
あなたは銀行から引き出した時点で、覚悟していたんじゃないですか? 首をくくれば、今この時点だってどうぞ不安解消です。
集まったお金を法外な金利で個人から企業まで貸し付ける。まったくおかしな仕組みだが、あずける理由はこの思い込みしかない。
『より安全で、よりみんなが選び、より誠実だ』
と思ったからだ。
ただし、お金は手から手へ渡るとき、左へ右へ動かすとき、必ずしも清潔ではなくなっていく。アカはつき、シミがつき、折れに折れて邪悪になっていくものだ。
そもそもは新聞も紙。お金も紙。トイレットペーパーですら紙である。そう、ただの紙きれ。
もちろん、そうは言ってもだます方は六法全書を熟読し、外国語を必死に覚え、数多の情報の
一方、だまされる方はどれだけ真剣だったというのか? その買い物に。その保険に。その投資話に。説明書も契約書も、最後まで読んだこともない。または読み切れなかっただろうに。
これからは仮想通貨の時代。インターネットの大海の中、アカもつかない、シミもつかない、おまけに非課税なら、お買い得♥
これこそが光。ただし、光クラブの社長・山崎は女秘書に裏切られ、最後は高級ワインに青酸カリを入れて、召し上がったそうです。
宮武は学生二人を見る。
「君たちはウソつかないよね?」
中村は言う。
「俺はバカだからな。こっちが教えてもらいたいぐらいだぜ」
なぜか安心する新聞社のメンバーである。その中村の手には早くも新しいテレビのチラシがにぎられていた。
「ところでさ、ここだけの話なんだけど」
※ 島原の乱のあと。誰もいなくなったその土地を期限付きで無税にしました。すると、移り住む農民で殺到したそうです。
私たちがまず、④を心がけることが近道でしょう。
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