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 そして、一〇〇〇日が経った。

 ん? 日記? 記録?

 知らん知らん何それ――ダイジェストでいい?



 ・・・₍ᐢ..ᐢ₎⊹・・・



 ってことで、わたしの百人斬りの、あるいは千日行のダイジェスト。大学にバ先、路上ナンパにSNS、相席屋にマッチングアプリ、夜のお仕事から就活先の卒業生まで、TPOもなんのその、まるっきり来るもの拒まず去るもの追わず、まあでも寝るものくらいは流石に選びつつ(や、最初は選り好みして百は無理やろ〜と思ってたんだけど思ったよりそうでもなかったっていうか普通に無理なく選ぶ余裕が出てきちゃったからね)九十九人を斬って捨てましたとさ、ダイジェストおわり。めでたしめでたし、までは。いけるとは思ってたけど本当に案外いけるもんやな、と流石のわたしも日々ドヤ顔で。丈夫な体に、おもに足腰に産んでくれた両親に今日も感謝、とピンと伸ばした背筋でターンを決めているここは別に華やかな盛り場でもなく、馴染んだ、というか卒業した身にはもはや懐かしの大学食堂で、日替わりA、律儀に税込550円、大盛り100円の二枚の食券と交換したのはお子様ランチのオバケもとい自称トルコライス。それが乗ったトレイのバランスをとりとり、長い長いテーブルのど真ん中の席へ着く。


「いただきます」


 きっちり丁寧に手を合わせて食事の挨拶をしているが、眼の前にはこの、あれよ、やっぱ質より量よ、みたいな見た目の期待通りの大味な大盛り。それをざっくばらんに切り崩しにかかる。どれだけ姫になってもこういうものが嫌いじゃないところは治らなかったが……いやいや、あれよ、体力要るんよ百人斬り。


 これもまた千日行の学び。千日行の味、なんて思うわたしの正面、着席した誰かさんから声がかかる。


「……、ひめ先輩。うわ、なんかすごいの食べてる……」


 口にもの入ってるから返事ができない、しばし待て、のハンドサイン。

 通じたのか無視したのか、後輩はペリペリとサンドイッチの封を切る。


「トルコライス。知ってる? 後輩きつねち

「知ってますけど、知ってるトルコライスじゃないです」

「ああ、そうそう。神戸のとは違うよね。これは長崎っぽいやつ。カツとピラフにナポリタン。むしろ元祖はこっちの方らしい」

「そもそもどこのであろうと何料理かも怪しいんですよ……」

「それはそうね。むしろそっちはそんなのだけで足りるの?」

「足りるんですよ。というか、足るを知らないといけないんです。太るんで」

「ふうん。きつねち、痩せてると思うけどな」

「だからこその現状維持なんです。ひめ先輩こそ、なんでそれで太らないんですか」


 んー? と首の角度と仕草だけで示しつつ、わたしはカツを一切れもぐもぐ。

 おいしく飲み込んでから、続ける。


「姫だからね」もぐもぐ。「や、意味分かんないですけど」ごくん。「ほら、姫だから、『わたしって、食べても全然太らないタイプで〜』って、いつでも言えるようにしてる」もぐもぐ。「それはただの女子に嫌われる女子なんですよ」ごくん。「そうかな。好かれてるけどな――」もぐもぐ。ごくん。「おいおい固まるなよきつねち。滑ったみたいになるじゃん」もぐもぐ。「……いや、ほんと羨ましいなって」ごくん。「そう? きつねちもいつも滑ってて可愛いよ」「そっちじゃないんですよ!」「ふうん――」


 もぐもぐ。

 もぐもぐ。

 もぐもぐ。

 ごっくん。


「じゃあなに、きつねちは好かれたいの? 誰に?」


 返事がないから、わたしはフードファイターよろしく一定のリズムでもぐもぐごくんを続けつつ、黙ってじーっと見つめてあげる。きつねちこと、稲荷紺いなり こん――わたしの百人斬りの千日行の、このヘタレな後輩のことを。





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