第53話 夢より
日向ぼっこによさそうな神社や草原や花畑。又は、雨の音だけが響く図書館。子供が元気に駆け回ってる音がする教室。1人だけ授業をサボって保健室で休む優越感。浜辺のビーチでパラソルの下や、雪を見ながら浸かる温泉。そんな世界が時間経過と共に場面が切り替わりながら、人を眠らせる場所。これがひるねの夢の国。
どれだけ寝ようと寝足りないひるねの辛さを体験する世界。
アランガント王は最初こそ、気持ちよさそうに寝ていたが、時が経つに連れ窶れて行く。恐怖へと変わって行く。
「なぜじゃ、我はこんなにも寝たというのに、何故寝足りないのじゃ」
どれだけ寝ても睡眠が足りない。それは心が身体が休まっていないという事。
そして場面は切り替わり、さっきとは打って変わって質素な病院の一室。薄っすらと香る消毒液の匂い。
いつの間にか病室のベットに寝かされていたアランガント王は、人の姿へと化けされていた。その姿は、痩せ細り目にはパンダみたいな隈が出来ていた。まさにこのゲームに出会う前のひるねの姿と瓜二つである。
「はーい注射うちますね〜ちょっと、ちくっとしますよ」
病室に入ってきた猫の看護師がアランガント王に何かを注射した。それは強力な睡眠薬。ものの数秒で眠る。そして薬がキレたら起きる。だが眠い。
「はーい注射うちますね〜ちょっと、ちくっとしますよ」
また猫の看護師がやって来て注射と、今度は点滴を打って行った。強制的に眠らされる。そして起きる。
(眠い)
また猫の看護師がやって来て注射を打ち、強制的に眠らされる。そして起きる。
(眠い)
また猫の看護師がやって来て注射を打ち、強制的に眠らされる。そして起きる。
(眠い)
また猫の看護師がやって来て注射を打ち、強制的に眠らされる。そして起きる。
(眠い)
また猫の看護師がやって来て注射を打ち、強制的に眠らされる。そして起きる。
(もう嫌だ寝たくないのじゃ。でも眠い、身体に力が入らないのじゃ)
また猫の看護師がやって来て抵抗も出来ずに注射。また強制的に眠らされる。そして起きる。
(もう嫌じゃ)
それからも強制睡眠は繰り返され、途中から嫌だと云う感情すら欠落して行った。眠り続けても、どれだけ眠ろうと終わらない睡眠。何度も見せられるアランガント王が殺した者たちの悪霊。最早生き地獄。
ひるねはアウローラや両親がそばに居てくれたから、この生き地獄を耐える事が出来た。
だが、アランガント王にそばに居てくれる者は、誰1人として居なかった。何故なら彼は自分が愛した妻すら自ら手にかけた男なのだ。マネマニでさえ、お金という繋ぎが無ければ関わりすらしない。
「死にたい」
悠久を生きる【エルダーワイトキング】がそう思った瞬間だった。がらりと代わり其処は何処かのビルの屋上。彼は無意識に一歩前へと足を踏み出し、迫る地面。そこで彼は死んだ。
「は?」と思った。
彼はこれでこの睡眠地獄から解放されると思った。だが違っていた目の前に現れる数字990,110,359。そんな数字はどうでも良くて、早く死にたかった。解放されたかった。彼は飛び降りた。そして死んだ。何度も死んだ。でも死ねない。死んだのに死ねない。彼はふと死んだ後に現れるこの数字が減っている事に気づいた。そして最初の数字を思い出した。
「ひゃひゃ……これは我が殺した数か、つまりこの回数死ななければこの地獄からは解放されんのか……」
990,110,360は【エルダーワイトキング】の召喚できるワイトの数と同じだったのだ。
「あは。気づいちゃった?そうだよ、その回数死ねば世界から解放されるんだよ」
「因果応報か」
一瞬現れたひるねの姿が彼には死という救済を齎す天使にも、悪戯に笑う悪魔にも、死を運ぶ死神にも見えたという。彼は死んだ。あの回数をやり遂げたのだ。
「安らかに」
ひるねは祈りを捧げる。アランガント王のせいで現世に囚われていた990,110,360この魂は冥府へと送られていった。その中にマリーのお母様だと思われる魂もあった。
「娘を宜しくお願い致します」
「うん。ゆっくり眠ってね」
「はい」
マリーのお母様が天に昇って行ったと同時にクエストアナウンスが表示された。
『パッパカパ〜ン!!『国落クエスト:マリーの思い。人類国家アランガントの滅亡』をクリアされました』
『タイトル:マリーの思い。人類国家アランガントの滅亡
難易度:SSランク
対象異界人死亡者:0
対象NPC死亡者:0
対象解放魂数:990,110,360
クリアランク:SSS
クリア称号:死神の代行者。獣人の英雄を授与』
『追伸:アランガント王の魂は貰ったにゃ』
アランガント王の地獄を続くのだろう。
「あは。ご愁傷様」
少し可哀想かとも思ったが、やった事は消えないと思うひるね。
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