第28話 中への旅路。ひるねの場合。

「スピースピーむにゃむにゃ」

「ねえ」

「zzZ」

「ねえってば!」


 捕まった事にも気付かず眠り続けるひるねに、近くにいた白い虎が話し掛ける。馬車の外の黒ずくめたちに気付かれないように。

 ひるねは起きない。

 ギリギリ届く尻尾でぺしぺし。頭を叩いてみるが起きない所か、逆に尻尾が捕まり枕代わりにされる始末である。


「はあ……母様、猫猫」


 白い虎を心配しているであろう母様と、自分を護る為に大怪我をした猫猫を考える。


 小一時間経つと馬車が止まる。


「お前ら交代で休憩だ」

「へい」

「あともう少しね」

「先お前らでいいぞ」

「リーダーもお先に休憩どうぞ」

「じゃあ、よろしね〜」

「頼むぞ」


 腰の低い男とリーダー、馬車を操縦する女の3人が残りの2人を残し、近くの村まで食料と休憩をしに行く。


「ふぁーん?メア……じゃない?」

「ん?あ、やっと起きたのか」


 ひるねが目を覚ます。


「君は誰?」

「僕は白。誇り高き白虎の息子だよ。貴女は?」

「わたしはひるね。中を目指して旅の途中に、何故か此処に……」

「そっか。ひるねも僕と同じで、外の連中に捕まったの、この檻は入れた者のスキルを発動できなくするの」

「【乱れ引っ掻き】」


【乱れ引っ掻き】を発動するが、スキルエフェクトがパリンと割れ発動しない。


「本当だ」

「でしょ。これから僕たちは、とある国の王女に売り飛ばされるの」

「へえ〜わたしを閉じ込める、わたしの昼寝を邪魔するとは、あは?おもしろい」

「びくっ?!」


 ひるねから黒いモヤの様な物が滲み出し始める。そのモヤは爪や牙に集まり、金色が闇へと染まる。

 その後ろで白は驚愕する。どちらかというと、神獣、聖なる者に属す白は、背筋に冷たいものを感じ取っていた。


「行ける気がするね。【切り裂く】!」


 スキル封印の檻は、スパッと、勢い余って、お隣の白の檻、そして馬車の2台までスパッと、その後ろに居た護衛2人の身体が真っ二つに。白はギリギリで伏せ躱した。


「みゃあ?!」

「あは♡切れた」

「怖ッ」

「それじゃあ出ましょうか白さん」

「あ、うん」


 外に出る2匹。すると其処には上半身と下半身が離れ、臓物が飛び出している顔に傷のある人相が悪い男2人。しぶとく生きていた。


「貴様、何を」

「がはっ」

「五月蝿い【裁定審判ver.N】」

「な、何だこれは」

「やめ」

「……ッ?!」


 魔導書【ニャルデ・ウェルミャス・ミステリニャス・ニャクロミコン】がメアの元から深淵を通り、ひるねの前に転送され【裁定審判ver.N】が発動し、触手が男達を絡め深淵に沈んでいく。


「あ、ニャル様の触手だ。その2人宜しくね〜」


 触手が手を振る様に深淵へと帰っていく。


「え?あ、ひるね……様。これからどうしますか」


 白が怯えながらにひるねに問う。機嫌を損ねた瞬間、白の首が飛ぶと思ったからだ。そんな事とは梅雨知らず、ひるねは白の背中に乗る。


「取り敢えずここを離れましょうか、近くの町か村で白さんの故郷の場所を聞きに行きましょう」

「分かった。ひるね様のお心のままに」


 2匹は歩き出す。だが2匹は知らない。歩いて行く方向には、2匹が運ばれる予定の国しか無い事を。


 戻ってきた闇ギルドの3人組は、悲惨な現場を見て頭に手を置き、天を仰ぐ。


「リーダー」

「なんて事なの」

「最早天災だなこれは、馬は逃げ。同僚2人は、血だけを残し跡形も無し。依頼の白虎と途中で捕まえた猫の馬車は、檻事真っ二つなのに、中に死体らしき物はない」

「どうしやす?」

「良し、俺は今日限りで闇ギルドを辞める!どうせ戻ったところで、姫様の依頼を失敗したんだ殺されるに決まってる」

「あたしもそうするわ。どっか田舎で余生を過ごすは」

「あっしはリーダーと姉御に着いて来やすぜ!!」

「良し決まったな。それじゃあ逃げるぞ!」

「ええ!」

「へい!」


 3人は闇ギルドから足を洗い、遠くへと逃げて行った。その事を知らない悪徳商人マネマニは、金色の風呂で女を侍らせていたのだった。


「マッマッマ!!」

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