第19話 新人戦を見守る人たち 死神認定される猫

「始まったですの」

「ああ、始まったな」

「ひるね嬢寝たのだが」

「ワン!」


 1番乱戦があるであろう、草原が映像に映し出されており、其処では試合が始まったのに寝始めた姿を見て呆れている。


「おっ!遂にプレイヤーを見つけたみたいだぞ!」

「あの珍獣はどうやって戦うのかしら?」


 やっとかと食べ物を食べていたプレイヤーたちも、映像に集中する。目を向けた瞬間男女の首が吹っ飛んでいた。


「うわ」

「容赦ないわ」

「普通躊躇するよな」

「流石にゃん!」


 プレイヤーがメアの容赦の無さを見て、引いている中、ニャル子だけは胸を張って笑顔だった。


「おっ?!1匹相手に他党を組んで挑むみたいだな」

「ええ、私もそうするわ」


 うんうんと頷くプレイヤーたち。魔法使いたちが放った攻撃魔法によるダメージが無く。疑問符を浮かべるプレイヤーたち。


「何で効かないのかしら?」

「まだ無効化系のスキル見つかってないよな?」

「ああ。軽減スキルは初期の頃からあるが、無効化は見つかってないな」


 そんな疑問符を浮かべる中でも、戦闘は続く。

 大剣の剣士の【ソードストライク】が発動される。


「何で避けないんだ」

「うわ!まじか!頭パリィとかよくやるよ」

「装備なしで、頭パリィ何てできるのね」


 額パリィを決め、真っ二つにされるのを見届けると、次は取り囲むように攻めて来たプレイヤーの背後に現れるメアを見て忍者夫婦プレイヤーが反応する。


「あれは!?【忍法・影移動】!珍しいスキルを持っているでござる」

「ええ、私たちもまだ覚えさせて貰えない【忍法・影移動】を使用するとは」


 忍者夫婦、見た目は赤と青の全く忍ばない忍びプレイヤー。赤がちよめ。青がはんぞう。普段は何処にいるかすら目撃情報が出ない2人も、件の珍獣メアとひるねを見に来ていた。


「ほう、ほう、あれが【忍法・影移動】というのか。ふむ、その名の通り、影を移動出来るスキルだろうか、その前のスキルは恐らく、ロックバードの核から入手出来る【岩質下】だろう。最近の行動はニャル子くんから、聞いておるからな」


 スキルについて考察プレイヤーが1人。分厚い本に書き込む少女、喋り方はおっさんくさい少女は、【スキルコレクター】クレラーミューラ。情報屋ギルド伝書鳩のギルドマスターである。基本鳩教授と呼ばれる為、名前をよく忘れられる。ちょっと残念な鳩教授である。


 メアは【加速】する。そして1人の心臓を貫く。

 ヒュッと見ていたプレイヤーも血の気が引く。


「マジか」

「確かに首が飛んだり、頭が吹っ飛んだり、心臓が無くなれば、例えHPが残っていたとしても死ぬとはいえ、な」

「メア嬢は恐ろしい奴だな」

「だな」

「私も出来ればやり合いたくは無いわ」

「あううう……」


 最前線を旅するアーサーですら、顔が強張っていた。


「おお!あの新人やる気だ!あれを見せられて、怖気付いてないぞ!」

「フレー!フレー!タンクの人!その珍獣をぶった斬れ!!」

「ウホ!ウホ!」


 メアがあまりにも一方的な試合をするものだから、一矢報いそうなタンクくんに応援が集まる。ゴリラもドラミングで応援する。


「タイミングバッチリだ!!」

「決めろーーー!!!!!」


 死に戻ってきた参加者たちもタンクくんを応援する。その声を背にメアをぶった斬る。


「決まった!!!!!」

「やったーーー!!!」

「しゃ!!」


 歓声が上がる。武器を投げ出す者、泣き出す者、ハグをする者。メアのリタイアを喜んでいたプレイヤーたち。数秒後、彼らの顔が固まり青ざめる。

 死んで尚蘇る猫、頭に金の猫(本体)を起き背には灰色のボロマントを着る黒猫。


「は?」

「何で死んだのに!」

「タンクの人!後ろ!後ろ!」

「やめ」

「うわ、心臓抜き取ったな」

「え?心臓それ食べるにゃ?メアにゃん、流石にそれはヤベェにゃん」


 メアの行動に好適なニャル子だが流石に顔を青ざめていた。


「死んでも蘇る。それは死を司る神様だからなのか、猫が魂を何個も持つとは聞くが、あの口振りまだ魂が残っているというのか」


 鳩教授が考察する。その後ろの方で今しがた倒されたタンクくんがリスポーンして来た。


「死神……アイツはプレイヤーじゃ勝てないんだ!何度だって蘇ってくる」


 鳩教授の考察が聞こえたのか、ガクブルと震えながら死神、死神と連呼する。その様子を見た後、もう一度メアの姿を見る。爪は死神の鎌のように銀色に輝きを放ち、羽織るマントは燻んだ灰色でありながら、ボロ過ぎず、風に靡く姿は正しく死神その者だった。後は、カンテラを持ってれば正しくと思っていた。


 タンクくんは誰かが話し掛ける前に、強制ログアウトして行く。それが、人の魂を刈り取る死神と類似し、その場にいたプレイヤー全員の心が1つとなった。


「……」


 静まり返る広場にモニターから、高笑いが聞こえる。下を向いていたプレイヤーが上を向くとモニターは、阿鼻叫喚の状態異常地獄と化していた。


「もう辞めてやれ」

「何だこの新人戦は、死神は居るわ。マッド‐サイエンティストは居るわ」

「俺この新人戦に居なくて良かったよ」

「ああ」

「マッド‐サイエンティストでもいいから、どうにか死神を!あの死神を倒してくれ!!状態異常なら効くだろ流石に」


 少なく無いプレイヤーが状態異常に希望を持つ。しかし、その希望は一瞬で塵とかした。


「上の猫には【睡眠】が効いたのに、なんで死神は効いてないんだ!」

「逆に反応が良くなってるぞ!」

「うわ液体にもなれんのかあの死神」


 もう完全に死神呼びが定着している。


「あれは【液状化】か、スライムの固有スキルだと思っていたが……」

「うわ、マッド‐サイエンティストでもダメなのか」

「くは?!は?!此処は我は敗れたのか」

「仕方ない、相手は死神だったのだから」

「そうよ。君の状態異常は凄かったわ」


 リスポーンして来た31を近くに居たプレイヤーが慰める。


「我の状態異常は最強なのだ。もっと凄い素材を探さねば、そして次あった時は我が勝つ」

「そうよ。その意気よ!」


 ふと、何で自分を殺したプレイヤーを慰めているのだろうと思うお姉さん。励ましが通じたのか、急に元気になりモニターを見つめる。


「あれ?こんだけの事が起きたのにプレイヤー残ってるんだな」

「そうね。残り3人なのね」


 若干慣れて来たプレイヤーたちが後2人は何処だと他のモニターを見たりする。


「あ!もしかしてあの鶏みたいのとスライムじゃないか?」

「あの方は!ドラゴンに乗っていた鶏嬢ではないか!?」

「あっちのスライムは、壁に張り付いていた緑色のスライムちゃんだな」

「どうしてあんな端の方にいるんだ?」

「何か言ってるな……「此処はどこ?」は、まさかあのプレイヤーたち、揃って迷子になっていたのか」

「そんな、あんな分かりやすいマップを迷子になるなんて」

「音がする方向に向かってる筈なのに、2人して途中から逆方向に歩いて行くぞ」

「マジで迷ってるみたいだな」


 何とも言えない空気が流れるのだった。

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