第18話 我はDr.31 貴様何故動けるのじゃ?!

「勝ったぞ!!みんなやったぞ!!!」


 嬉しさのあまり拳を突き上げ、気が緩む。


「お前強かったにゃん」

「がは?」


 腕力の数値が戻り、【尾突】がタンクの鎧を貫き、心臓を取り出す。


「な、何故だ!貴様は、今死んだ筈!」

「猫の魂が1つだけだと思うにゃん?」

「やめ、」

「バイバイにゃ」

「がはっ」


 メアが抜き出した心臓を噛みちぎる。

 そしてタンクは死んだ。タンクは良くやったと思う、だがメアには【輪廻転生】で魂のストックがある。蘇生に対してのルールが定められていないこの新人戦において、メアはやはり最狂の珍獣なのだ。


「人の心臓、美味しくにゃい」

「いや、メア。今度倫理観を学ぼうね」

「??」


 タンクの心臓をもぐもぐしているメアに呆れつつ、ひるねはメアの頭を撫でる。

 心臓を引き抜き食う姿を見て、周りの残っていたプレイヤーが一斉に動きを止めた。


「死神だ」


 1人のプレイヤーがメアをそう呼ぶ。


 そこに不穏な笑いが響く。


「クックック。小童共が良く集まっておるわ。この戦場を恐怖のどん底へと落としてやるのじゃ!!【ベノムカプセルⅠ】【散布】」


 空で浮遊する白衣の少女は、赤い瞳を輝かせ白衣を広げ、試験管を取り出し、毒々しい紫色の球体に注ぎ込む。そしてそれは散布され始める。


「これは?なっ?!身体が」

「HPが!」

「ヤバいよこの雨。【毒Ⅱ】【出血Ⅱ】【麻痺Ⅱ】」

「待って!まだ追加されるよ!」

「てかⅡってなんだよ!」

「誰でもいzZ」

「クックック。これで最後。眠りながら死ぬが良い」


【ベノムカプセルⅠ】により強化された状態異常【毒Ⅱ】【出血Ⅱ】【麻痺Ⅱ】【石化Ⅱ】【空腹Ⅱ】そして【睡眠Ⅱ】この6つの状態異常が【散布】で地上を飲み込む。次々に毒と出血のダメージで死んでいくプレイヤーたち。Dr.31はその姿を見て、満足そうに笑う。


【ベノムカプセルⅠ】種目:アクティブ MP:200

 効果 薬剤系ポーションの効果が全て2倍になる。


【散布】種目:アクティブ MP:50

 効果 自分の持つ液体を自分の視野一杯まで散布する。


 ※【毒Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、1分毎にHPの2%のダメージを与える。

 ※【出血Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、切り傷1つにつき1分毎に10のダメージを与える。

 状態異常出血。切り傷を一度のポーションで回復せず、切り傷1つにつき5のダメージを与える。

 ※【麻痺Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、持続時間が倍の30分に伸びている。

 状態異常麻痺。15分間手と口以外が動かなくなる。

 ※【石化Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、ランダムな身体の部位2箇所を石化する。

 状態異常石化。ランダムな身体の部位1箇所を石化する。

 ※【空腹Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、満腹ゲージが30分回復しなくなり、減る速度が2倍になる。

 状態異常空腹。15分間満腹ゲージが回復しなくなる。減る速度は通常と変わらない。

 ※【睡眠Ⅱ】

【ベノムカプセルⅠ】により強化され、30分眠りにつく。睡眠中ダメージが4倍になり、状態異常のダメージでは起きない。攻撃を受けると起きる。

 状態異常睡眠。15分間眠りにつく。睡眠中ダメージが2倍になり、状態異常のダメージでは起きない。攻撃を受けると起きる。


「あっけないものだったな」

「何があっけないのにゃ?」

「すぴー」


 背後から聞こえる声に驚き振り返ると其処には【觔斗雲】に座るメアと、その横で眠るひるね。31《サイ》は動揺する。


「な、何故。貴様、起きている?!」

「寝てるにゃよ」

「はあ?」


 31は疑問符を浮かべる。

 確かに眠っているのだ、そう本体のひるねが。

 知らない人が見れば、本体は身体の大きな黒猫の方、メアだと思うだろうが、彼女自身は【夢遊病:悪夢《ナイトメア》】である。


「寝ているだと貴様。我を謀りおって(敏捷で【ベノムカプセルI】【散布】の範囲から運良く逃げたのだろう)しからば!これでも喰らうがいい!パニックポーション【投爆】」

「にゃ?!気持ち悪いにゃ」


 液体が掛けられ、せっかく整えた毛並みが濡れる。

 不機嫌になるメア。

【夢遊病:悪夢《ナイトメア》】が【混乱】を無効化しました。


 ※【混乱】

 15分間ランダムにスキルが発動される。フレンドリーファイアが機能しなくなり、自分自身を攻撃する事もある。水をかけると治る。


「クックック。これで貴様は、訳もわからず自分を、うお?!」

「ちっ」


 混乱にならずに、メアが31を攻撃して来た事に驚く。31はギリギリで躱したが、内心焦っていた。


(は?何故我の薬が効かんのだ)


「もう気がたつにゃ。【加速】!【液状化】」

「クウ!息が……」

「死ねにゃ」


 毛並みが乱れて気が立ったメアが【液状化】し、身体で31の口元に張り付き窒息死させにかかる。どうにかメアを剥がそうとするが、液状なので掴めず、白目を向き、スキル【浮遊】が切れ、地上に落下死した。もう周りにプレイヤーは居ない。でも新人戦は終わらない。つまりプレイヤーが残っているのだ、残っている人数が上空に映し出される。

 そこには3と表記されているのだった。


「あれ?他の人は?」


 アウローラはまた迷っていた。新人戦中、誰とも会わずに此処まで生き残っていたのだ。

 そんなアウローラの前を通り過ぎるは、盾を背負ったスライムさん。彼女も森を彷徨っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る