第9話 ニャル子の観察日誌

 先日ニャルは、とあるプレイヤーに出会ったのにゃ。

 その子は猫又のひるねん。

 黒猫なのだが、サイズはシベリアンハスキーの成犬より一回り小さいくらいの大きさで、尻尾が付け根のあたりで二又に別れている。瞳は金色で、基本眠たそうな垂れ目にゃんだけど、ご飯を食べる時は瞳がキラリと光るのにゃ。最近の好物は、ロックバードの串焼き。

 装備は、灰色のボロマント、首輪は、暗めな赤に何故かケロちゃんと書かれた犬の肉球銀飾りが付いており、爪には銀色の磨がれた刃。尻尾には何故か初期装備を付けているにゃ。何故そこだけ初期装備?

 尻尾も感情豊かにアピールしてるのがキュートにゃ。

 喋り方は凄く辿々しいから、小学生さんかと思うにゃけど、どうも違うにゃ。プレイ時間が深夜10時から、朝の7時までにゃ。こんなに深夜にプレイしてたら学校なんて無理にゃ。

 それにしても本物の猫みたいにゃ。空飛ぶ雲を使って移動する姿は猫じゃにゃいが、一日やる事といったら、お昼寝場所を探してお昼寝する。最近のお気に入りは、町の教会にある時計塔の上にゃ。一番日当たりが良いからだと思うにゃ。

 普通プレイヤーがあそこに登ったらハゲ神父に怒られるにゃ。あのハゲ、マジで容赦ないにゃ。

 一回登った時は、補助魔法で拘束してから、正座で半日は創世教の教典を聞かされるにゃ。そんな神父が、ひるねにペコペコ、それどころか最近では聖水までお皿に入れて与えているにゃ。たまにひるねんを膝に置いて、一緒に祈りを捧げているにゃ。にゃんて羨ましい。


 思い出しただけで少し殺気が漏れでており、【夢遊病】が反応するが、自身に向けられていない事がわかり聖水の入ったお皿を取り出す。


 猫又って妖怪にゃけど、FWO的には聖水でダメージは受けないのか心配にゃ。


【聖水】品質:8

 説明:聖職者の祈りにより清められた水。

 満腹ゲージ:0%回復 HP:1000回復。

 幽霊系・妖怪系モンスターに100%ダメージ

 一本10,000マニー


 時計塔の上で寝転がりながら、ひるね【夢遊病】の飲んでいる姿を見て、安堵するニャル子。

 実は【夢遊病】は、スライムバードの核から得たスキル【腐食耐性】で聖水によるダメージが身体にとって毒だと判定し、半分の確率で無効化し、さらに【死神マント】のスキル【輪廻転生】で死んだ瞬間にその場に蘇生されていたのだ。基礎HPが一瞬で消失する為、【生命の煙】による回復が効かない。

 死ぬのにも関わらず、【夢遊病】は飲むのをやめない。それは聖水がシュワシュワして美味しいからだ。ほのかに柑橘類の味もする。日向ぼっこして熱った身体に染み渡る炭酸。


「んな〜」


 気持ちよさそうに時計塔の上で伸びをする。

(シャッターチャンスにゃ!!)

 ニャル子は、アイテムボックスからカメラを取り出し連写。ひるね【夢遊病】を撮ることに夢中になり、【隠密】ようのMPを回復するを忘れる。


 背後から近づくハゲ神父。


「ニャル子さん。ひるね様を撮るとはどういう事か?」

「にゃ?!【脱兎】逃げるにゃ!!」

「あ!コラ待ちなさい!!」


【脱兎】種目:アクティブMP:100

 効果:逃げるうさぎのように縦横縦横無尽に走り去る。このスキルは使用時から逃げるか捕まるまで発動し続ける。逃げる時しか使用できない。


 ニャル子はスキルを使用して逃げる、それを追いかけ神父は何処かへ走って行った。


「け。にゃにをしてるんだか。さて、今日もロックバード狩にゃ!!そして、あの姉さんに焼いてもらうにゃ!!」


 もはや、一つの個としての人格を形成しつつある【夢遊病】は、ため息をしてから、舌なめずりするのだった。

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