第132話 クエストの依頼。え?王様を探すの?

 異世界モノあるあるのお約束として、マカハドマにも冒険者ギルドは存在する。

 もっともここでは商業ギルドと技術者ギルドと併設する形でだが・・・


「この辺は地域性かな?」


 ペンタントちゃんは掲示板に掲げてある依頼書を手にとってこちらに手渡す。


「森での木材の切り出しをするのでその護衛か」


 常冬のマカハドマでどうやって植物が育つのか疑問だけど、それなりの森があるのは遠目に見えていた。


「こっちはイッカクウサギの肉とシルバーウルフの毛皮だね。常設の依頼のようだ」


 紅桃が掲示板の一角を指差す。そこには羊皮紙の四隅がピンで止められた依頼書らしきものが貼り出されいる。

 常設なので破れ難いモノに書かれているのだろうと推測出来る。


「常冬って聞いてだけど、生態系が維持出来るぐらいの季節の変化はありそうね」


「あっちこっちに魔素溜まりがあってバランスよくリポップしているだけだと思う・・・」


 ペンタントちゃんがボソッとつぶやく。


「何それ?ダンジョンにもあるの?」


 思わず聞き返す。


「ダジョンにも必ず敵と遭遇する場所って言うものがあるでしょ?あれ、近くに魔素溜まりがある場合が多いの。まぁ、魔素溜まりで湧いたばかりのモンスターにはほとんど自我が芽生えてないからテイムし辛いし能力も持ってないの」


 ほヘ~・・・ちょっと待って・・・それ、テイマーにとって重要情報じゃない?まぁいいか。


「取りあえず冒険者ギルドに移動報告をしようか」


 そういって受付に向かう。というのも、冒険者ギルド的に冒険者の居場所はなるべく把握しておきたいというのがあるらしい。

 これは、冒険者が音信不通になったときに位置情報として把握しておきたいということ。消息不明に為った冒険者の数が多いということは未知の脅威が潜んでいるという事になるからだ。

 まぁ、把握したからといって調査する訳じゃないから問題を先送りしているでしかないんだけどね。


「アキツ連合皇国のひとつアキ国のウジナの冒険者ギルドに所属しているキュウドラヤのクリュウとそのパーティーメンバーだ」


 ギルドの受付に冒険者ギルドのギルドカードと商業ギルドのギルドカードを提出する。

 このギルドカードには冒険者と商人としてのランクから活動記録。あとギルドに預けたお金の残高が記録されているのだから驚きのテクノロジーである。

 え?スマホと同じだって同じことが出来るって?異世界にはスマホが無いでしょ?


「承ります。ここにはどれくらい滞在予定ですか?」


 真っ黒な毛並みのケット・シーの兄さんが尋ねる。


「一応、一週間は滞在してこの国の商材を吟味します」


 そういってカバンから胡椒50gの入った瓶と塩1㎏の入った袋を取り出す。


「ここは商業ギルドも兼ねているとか・・・胡椒と塩をこの国のお金で買ってください」


「か、確認しても?」


 黒いケット・シーさんはゴクリと喉を鳴らすので黙って差し出す。


「鑑定団!」


 黒いケット・シーさんは両手を胡椒瓶にかざして呪文を唱える。何だ?鑑定“団”って?


「百・千・万・・・金貨にして60枚ってところでしょうか?塩は・・・金貨1枚・・・金貨61枚で買い取らせていただきます」


 黒ケット・シーはさらさらと紙に胡椒と塩の買い値を書く。

 鑑定スキルにも種類がある。どうやら彼の鑑定スキルは「団」が付くように鑑定した物の真偽とは別に価格も解るらしい。

 買い取りか売り値かは解らないけど、恐らく誤差は少ないだろう。


「現金は金貨4枚と銀札と銀貨で、残りは口座に入金してください」


 取りあえず受け取る金種を伝える。流石に金貨61枚を持って歩くような真似はしないよ。

 ウジナの商業ギルドでの失敗は繰り返さない・・・まぁウジナのときは自分に信頼がなくてギルドに口座が作れなかったんだけどね。

 ただ、今考えれば信用がなくてもギルドは口座は作らせるべきだよね?あんまり治安が良くないんだからさ。


「承りました」


 黒ケット・シーさんは何もない空間恐らくアイテムボックスから預かり証と金貨4枚と銀札と銀貨を取り出し、預かり証に預かった金額を書き込みこちらに渡す。


「そうそう。これはギルドからのクエストの依頼というかお願いなのですが・・・」


 黒ケット・シーさんがアイテムボックスから一通の巻物を取り出す。


「行方不明のオベロン王の探索とこの手紙の配達をお願いします」


 取り出した巻物だが、冒険者ギルドのシンボルが押された蜜蝋で封印がされている。


「封印の施された手紙の配達とか、外部の新参者に依頼するもんです?」


 不安になったので聞いてみる。


「手紙の内容は王城に顔を出せですから構いません。封印はお約束なので」


 黒ケット・シーさんは苦笑いをしていくつかの巻物を取り出して見せる。


「なんでそんな人を王に?」


「この国は、王が統治することを期待していません。内政も外交も専門の人間がやります」


 おぅ。象徴王制というか議会君主制というか、立憲君主制なのね。ファンタジ一じゃ珍しいんじゃないの?

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