第125話 宮島ダンジョンは平和なダンジョン
成人の日。今日は広島はおろか西日本でも有数の上級ダンジョンである宮島ダンジョンに来ている。もっとも宮島ダンジョンは上級とはいえ、あまり人気のあるダンジョンではない。それは、ダンジョンに出沒するモンスターが植物とそれを食べる草食系のモンスターしか出ないためドロップ品では余り儲け出ないからだ。
まぁメインが薬師(自称)である自分にはポーションの材料集めが捗る美味しい狩場なんですけどね?
で、今回の目的は中層にいるベルベルという動物型のもっと言うなら牛型モンスターのテイムだ。
テイマー職の人ならテイムモンスターの枠に余裕が出ると牛とニワトリのモンスターをテイムするのがデフォだったりする。テイム出来ると、乳と卵を得る事が出来るからだ。
異世界ならテイムを解除しても飼育して酪農っぽい事が出来るんじゃないかと思ったんだ。
日本というか地球だと近隣住民の猛烈な反対運動で実現していない案件なんだけどね。
「じゃあ、さっさと済ませましょう」
黒いお団子頭に細い眼鏡の開拓者ギルド異世界支部の受付嬢、徳川康子さんが声をかけて来る。
実は今回の計画の立案者でもある。
まぁ現在30人しか居ないからヒマなんだよね。開拓者ギルドの異世界支部。
で、考えたのが大人しい草食性モンスターの飼育と異世界で行うと言うことらしい。
なお徳川さんもテイマーで、相棒は2人の狼人である。
「走る草、走る草・・・おぉあれはトレント!」
トレントは木のモンスターで別名を迷宮をさ迷う木という。
まぁ実際にはトレントが持つ縄張りをゆっくりゆっくりと巡回しているだけでさ迷っている訳じゃないのよね。
ま、トレントの目の前でトレントの縄張りに侵入でもしない限り襲われることはないし、長距離から火や火属性武器を使えば倒すのにも苦労しないモンスターなので脅威度は低い。
ちなみにトレントの増え方だけど、トレントの縄張り内にある日突然生えてくるパターンとトレントの技を他の樹木に挿し木するパターンだ。
前者はトレントの根が地面に残ってそこから成長すると考えられている。
後者はその樹木に寄生すると考えられている。
で、前者は親トレントの縄張りから出て行くが後者の場合はその場から動かない。動かないトレントは栄養が不足するのかやがて枯れる。
そういうことを理解するのか、不足する栄養を与えてくれる他者とは共生関係になるという。
栄養というのはモンスターの肉だったり魔石だったりするのだが、栄養をくれればトレントは相応の甘い樹液を提供してくれるようになるのだ。
この方法を発見した開拓者は凄いと思う。
「お?あのトレント、砂糖楓種だ!」
トレントの上部に昆虫型モンスターのスタッグビートル・・・まあクワガタなんだけど・・・が樹液を啜っているのが見える。スダックビートルは好んで砂糖楓種のトレントに集るのだ。
「よし。枝を採取しよう」
トレントの後ろから近づき、一気に枝を落とす。
ぶわっとトレントが振り返って襲いかかってくるけど、動きが緩慢なので簡単に避けられる。
急いでトレントの縄張りから出ると、もうそれ以上トレントが追いかけ来ることはない。
走る草を狩りつつ中層まで降りて行く。
「ブモー」
中層に降りてきてすぐにホルスタイン柄のベルベルと遭遇する。
ベルベルが普通の牛と違うのは耳の横から生えた角。牛というよりは山羊だ。
「どっせい!」
紅桃がいきなりベルベルの角に掴みかかる。
「手加減よろ~」
疾風とチビが襲いかかる。立派な角も掴まれて抑え込まれては意味がない。あっという間にベルベルはテイムされる。
草食系モンスターは弱いのでテイムされるのも早い。
「べぇべぇ」
可愛いねぇ~。かいぐりかいぐり。
スペースからカウベルを取り出し装着する。
ガラン。ガラン。
軽快な鈴の音がなり響く。
「こけっ!」
鳥型モンスターのクックドゥドルが音に反応して襲ってくる。
「ふん」
紅桃がぶん殴ると、クックドゥドルはボテンと地面に落ちる。
「テイム!」
すかさずテイムを発動し、テイムする。テイムレベルが上がったので今や20個体をテイム出来る。まあ戦闘に出せるのは5体までで、戦闘に参加させないのなら15体までは出せるようになったんだよね。
「よし。クックドゥドルも予定数を捕まえた。ダンジョンを出ようか」
異世界駐屯地農地計画の始まりである。
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