第87話 う~ま~い~ぞ!オジサン来る

 鍋パーティーがあった翌日、自分はウジナの街に来ていた。

 ギルドマスターがまだ戻ってきていないのを確認し、屋台を引いて広場に到着。ただ昼も近いので広場は食べ物の屋台でびっしりだ。

 空いている場所は中心からかなり離れた所にある。まぁ仕方ないね。空いている場所まで移動して屋台の設置を始める。

 屋台はなるべく簡単に素早く展開出来るように設計されているので、設営には時間がかからない。

 コンロに寸胴鍋を設置して水を入れ、カニ鍋の素を投入。白菜、人参、椎茸、蟹の身を入れて煮込む。次に電気ジャーで自米を炊く。


「うむ」


 出来上がった蟹汁に味噌を溶きながら準備オーケー。値段は蟹汁が銀貨1枚で茶椀一杯の飯が銅札6札。両方なら銅札1枚安くなる。

 茶椀一杯のご飯の変わりに塩おむすび1個でもいい。

 ワゴン車も引っ張り出し、そこには数打ちのショートソードやナイフあと棍棒とかを置く。棍棒はもち手を滑り止めのテーピングしたものだ。なお、お菓子やポーションは置かない。様子見である。


「開店かい?」


 準備が整ったのを見て、恰幅のいいおじさんが暖簾をくぐり抜ける。

 立派な口髭にウルフカット。和服をイキに着こなしている。


「いらっしゃい」


「新顔だね?」


 恰幅のいいおじさんはじろりと店内を見回す。


「はい」


 愛想笑いでお返事です。


「ご飯というのは?」


「米です。あぁ、調理法は違います。我が故郷での食べ方です」


 そう。この世界、建物は日本風だけど主食は麦によるパン食なんだよね。

 で、米自体はあるけど稗や粟と同じ雑穀。下手すれば家畜の餌扱いなんだよね。


「鳥の餌だぞ?」


「えぇ。こちらの調理法なら鳥の餌ですね」


 そう。こっちは精米の概念がないのだ。玄米は栄養素は豊かだけど糠の匂いがきつく消化不良を起こす人もいるのだ。

 おそらく飢饉で食べる物がないときに余っていたら食べるような物で、いちいち調理法を工夫して食べるようなものではない。


「まぁ、お勧めはしませんよ?主に仲間内で食べるものなんで」


 食べたきゃどうぞ、である。


「それは面白い。ご飯とやらもくれ」


 恰幅のいいおじさんが面白そうな顔をして注文する。


「はいよ」


 茶椀一杯の蟹汁と茶椀一杯の白米をよそおって恰幅のいいおじさんの前に出す。


「汁かけお勧め」


「汁かけ?」


「汁をご飯にかけてかっこむ」


 ジェスチャーでご飯を蟹汁にかけて啜る様子を見せると恰幅のいいおじさんはご飯の茶椀を蟹汁の茶椀に投入する。


 ずそそ・・・


「う~ま~い~ぞ~お~ぉ~」


 恰幅のいいおじさんの目と口から眩い光が発射されている。怖い!


「これはキングクラブの身に野菜・・・そして椎茸の煮汁かぁ!」


 ガツガツと蟹汁猫まんまを口に運びながら吠える恰幅のいいおじさん。


「米が美味いぞぉ~こんなもの初めて食した!」


 まあ、食べたこと無いだろうね。なんか騒ぎに釣られて人が集まってくる。


「おい。嬢ちゃん。こっちにも汁をくれ」


 次々と注文が入る。苦情は無い。ただ、ご飯を注文するもの好きはいなかった。おいしいのに・・・


 結局、蟹汁は好評のうちに完売。ご飯は大量に売れ残った。まぁ仕方ないか・・・


「全部焼きオニギリにしようか・・・」


 残った日米を全部三角オニギリにして、醤油をハケで塗り、こんなこともあろうかと用意していた七輪を取り出し炭火を起こしてオニギリを焼き始める。

 辺りに醤油の焦げるいい匂いが漂う。ただ、既に太陽は西の空に沈み、人もまばらである。


 ぐぅぐぅ


 どこぞから音が鳴り響く。はて?

 音の方を見ると、三毛の子供の猫人がよだれを滝のように流しながらこちらを見ていた。


「お?どうした。食べたいのか?」


 と尋ねると、三毛の子供の猫人がブンブンと首を縦に振る。ただ、格好は大きなリボンをして小綺麗にしているけど、お金は持っていなさそうだ。


「おいで」


 手招きすると、三毛の子供の猫人は恐る恐るやってくる。


「はい。あげる」


 どうせもう売り物じゃないし、いいだろう。


「あ、ありがとう!」


 三毛の子供の猫人はガツガツと焼きオニギリを食べ始めた。

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