第72話 根回しは必要
「例えばですね・・・いきなりDランクとか登録できますか?」
意を決して尋ねてみる。
「はい。可能ですよ?でも何を売るのでしょうか?」
お姉さんが尋ねる。
「そうですね・・・回復ポーションとか、武器です」
そう言ってスペースから一本の剣を取り出す。
「マジックバッグ持ちでしたか・・・」
取り出された剣を手に取りお姉さんは何やら唱える。これはあれだ鑑定魔法を使ってる。
「なるほど、これを生活用品として売るのは発覚したとき大問題になりますね」
ナイフを鑑定したお姉さんは苦笑いする。そう。見る者が見ればこのナイフが生活用品ではなく武器であることが判る。
なら売り主がEランクで商売していれば商業ギルドへの通報案件である。
「現物は今ありませんが、自分は薬師です。準備が整い次第回復ポーションも売ります」
現物はあるけど出さない。ガラス瓶が予想以上に混乱を招くと判ったからだ。
「薬師ということは技術者ギルドのほうに登録は?」
「あ~登録には行ったのですが、受付の人に絡まれまして、まだなのです」
そう言うとお姉さんは少し首を傾げて考える。
「あ~ギムレさんか!あの人が絡んできた?本当に?何を出したの?」
お姉さんの目がキラリと光る。
「あのギムレさんが職務を放り出して詰め寄るなんてよっぽどよ?何を出したの?」
お姉さんがじと目で睨む。
「あの、その前にですね。登録の方をお願いしたいのですが・・・」
冒険者ギルドのギルドタグと金貨一枚を差し出す。ギルドタグがあれば経歴の一切が記録されているので、こういう所であれこれ書かなくていいというのは便利だ。
「屋号はいかがしますか?」
「あぁQドラ屋でお願いします」
「キュウドラヤ、ですね?承りました」
何やら操作してギルドタグを返して来る。
「ギルドタグを紛失した場合は新しいタグとともに再登録の手続きをしてください。あと、露天を開くときに職員がチェックしますのでお忘れなきようお願いします。ありがとうございます」
お姉さんはぺこりと頭を下げる。
「では先ほどの質問を・・・ギムレさんが目の色を変えたものは何ですか?」
やはり忘れてはいなかった・・・渋々スペースから回復ポーションを取り出す。
「おぉ、マジックバッグ持ちでしたか・・・うん?ううううん?」
出されたポーション瓶を眺めていたお姉さんはゴニョゴニョと呪文を唱える。
「中身は高品質の初級回復ポーションですね。これなら銅板一枚でも行けるでしょう。ですが・・・」
ツンツンと指先でポーション瓶をはじく。
「これほど透明な瓶は私も見たことがないです。銀板1枚と銀貨5枚もっとついても・・・なるほど、ギムレさんが目の色を変えるのも無理はない」
「はぁ・・・」
そう言うしかありません。
「作り方を聞かれたでしょう?」
「ぇぇ・・・」
苦笑いするお姉さん。まぁ、自分の場合はスキルで作るから他の人から作り方を聞かれても答えようがないのですが、それを言うとややこしい事になりそうなので秘密です。
「だいたい、技術者ギルドの職員が目の色を変えるような技術の出所を簡単に漏洩するはずがないじゃないですか・・・」
「まあ・・・競争相手を増やしても益はないわね」
お姉さんは苦笑いを深めます。
「まあ、うちからも技術者ギルドには釘を差しておきます。で、ポーションはこの形で?」
「いえ。入れ物をこちらの基準に合わせます。ガラス瓶はガラス瓶として売るか、小物入れとして売ります」
そう言って、クッキーの入ったポーション瓶をお姉さんに差し出す。
「チョコチップクッキーのサンプル・・・まぁ試供品です。お口に合うかはわかりませんが、お納め下さい」
暗に袖の下ですよと匂わせておく。
お姉さんも理解したようで、実にいい笑顔になっていた。
一一一一一一
カドカワbooksの長編ファンタジー小説にエントリーしました応募よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます