第54話 とうかさんダンジョン

 夏休みが終わり2学期最初のテスト期間も終わった。


「お彼岸はどうする?」


 茶髪ポニーテールのギャル風少女の冬山心ふゆやまこころちゃんが尋ねる。


「いきなりなに?」


「あぁ、美里は知らないのか」


 納得したように心ちゃんは頷く。


「お彼岸は寺院系ダンジョンが活性化するんだよ。何でも彼岸と此岸が最接近するからだって」


「しがん?」


「此岸。言い換えるとこの世」


 恐らく寺院系ダンジョンが活性化することを教えてくれた人の受け売りだろう。


「活性化ってことは、ダンジョン内のモンスターが強化しているんでしょ?」


「8月6日の原爆ドームダンジョンほどじゃないけどね」


 まぁ、お彼岸は1週間あるからね。


「で、どうする?交通の便的に行けるのは本照寺、圓隆寺か広島本願寺かな?」


「本照寺?」


「なんか三次の妖怪物語を編纂した人の墓がある関係でダンジョンがあるらしいよ」


 ほーん。特殊ダンジョンか。


「まぁ、彼岸は19日から一週間あるから、市内の回れるところ全部回ればいいんじゃない?」


「あぁ、確かにそうだね・・・って全部回る?」


 心ちゃんの顔がきょとんとなる。


「寺院系ダンジョンならうちの子は得意だからね」


 5人までが魔法をそれも中級魔法まで使えるのだ。寺院系ダンジョンに多発するゴースト系でも余裕である。


「心ちゃんも自分も苦手じゃないし少し強化されても中級ダンジョンなら問題ないでしょ?」


「まぁそうだね」


 心ちゃんは笑う。寺院系ダンジョンはスケルトンやゾンビといった不死系がメインだから、お札や聖水もたっぷり持って行こうと、心のメモ帳に書き記しておく。



 圓隆寺。正式名称を福昌山慈善院圓隆寺という浄土真宗が幅を利かせている広島では珍しい日蓮宗系の寺で、建立と同時に勧請した日蓮宗を守護する稲荷大明神の稲荷を音読みしたこの寺の夏祭りである「とうか」さんという呼び名のが有名な寺院である。

 ダンジョンの規模は中級の30階層で、メインのモンスターはスケルトン系。普段から格闘系僧侶モンクの修行の場となっているらしい。


「よいしょ」


 心ちゃんが日の化身にコスチューム・・・もとい装備にチェンジする。

 前衛は紅桃、チビ、心ちゃん。中衛は疾風。自分とペンタントちゃんは後衛だ。


 カカカカ・・・


 歯を鳴らしながらスケルトンゴブリンがお出ましである。


「おりゃあ!」


 紅桃がメリケンサックを握り込んだ拳でスケルトンゴブリンの頭蓋骨を一撃で粉砕する。

 まぁゴブリン・ホブゴブリン・オーガとランクが三つ(厳密にいうと拡張職をあわせ6ランク)も違うとね・・・


「歯ごたえねぇな!」


「まぁそうだね・・・」


 紅桃の言葉に乗っかる。

 この階層は紅桃に任せてもいいだろう。



「せい!」


 震脚からの突きで第一階層のボスであるスケルトンが吹っ飛ぶ。またも一撃。ドロップする宝箱も最低保証の木箱だ。

 罠は毒針で中味はMPポーションが2本。即座にスペース送り。

 職業部屋に入り転職可能な職業を軽くリサーチ。

 今回自分はメインを薬師サブを盗賊にして、チビを聖戦士から聖騎士にジョブアップさせる。

 第二階層からしばらくチビをメインに育てることにする。

 聖戦士と聖騎士の違いは主に防御スキルの充実にある。

 既にシールド強化なるスキルが付いている。これは盾による防御力を1.2倍に上げるものだ。


「紅桃は防御に徹して。第二階層からはチビをメインに」


「判った」


「にゃあ!」


 紅桃が半歩下がり、チビが半歩前に出る。


 第二階層からはスケルトンやゴブリンスケルトンとコボルトスケルトンのパーティーが敵の主体となる。

 ただランクの違いはここでも出る。なので、チビのジョブレベルのアップが捗る捗る。


「にゃあおん!」


 チビが叫ぶと、モンスターたちがぞろぞろと集まって来る。

 タウント。敵の注意を引き攻撃を引き受けるスキルだ。

 攻撃を盾で受けて、時に弾き、よろめいた敵に剣を叩き込む。はぐれた敵は疾風と紅桃。心ちゃんが倒している。あっという間に第20階層まで降りて行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る