第六部 憂目の夏に 7
「まあ……別に、あいつに義理立てするわけじゃねえけどな。
頼まれたんだよ、お前のこと。
もし会うことがあって、お前と話すことがあったら諭してくれってよ」
「……何があったのか知りたいんですよ。
今日の電話で、奈々さんは理由を一切言ってくれなかったから」
「――そうか、あいつ……連絡してきたのか」
自身の知りたいという欲求のみを伝えるが、奈々さんも答えてくれなかったし、堂島さんも何事もないように躱してしまうから、歯がゆい感情は、内部で風船のように膨れ上がっていくばかりだ。
「……あいつは、知られたくねえんじゃねえか。
いや……違うか。
お前に知られると、無茶をするのがわかっているからだろうな」
『無茶をする』という言葉をとっても、奈々さんが、何かに巻き込まれていることは間違いない。
少しばかり声に怒りを含ませて、堂島さんに言葉を投げた。
「だから、俺は……何があったのか知りたいんですよ……!
無茶をするにしても、それ以前の問題じゃないですか……!」
「お前は……まだガキなんだよ。
ガキには……いや、人には分相応があるだろう。
今――ガキのお前に対処できないことは、世の中にたくさんあるはずだ。
今は、無理なものは無理なんだ。
まあ、少年。
あいつのことは忘れて、これからを生きていけよ」
十五歳という成人ではない状態を理由に、無理だと決めつけて、繰り返し告げられていることに腹が立つ。
「忘れられるわけない……
――奈々さん、電話越しで泣いていた……んですよ」
「ふう……納得できないか。
まあ……お前に会うことがあって、自分を探していたら諭してくれとは言われたが、あいつのことを話すなとは言われてねえ。
――義理を欠いたことにはならねえか」
堂島さんは、二本目の煙草に火をつけた。
煙を吐き出した後で、煙草を指先で回したかとおもえば、崩壊していく先端をゆっくりと見つめていた。
「これから話すことは、俺が奈々の話と情報屋から仕入れた話だ」
ようやく、奈々さんについての情報を手に入れることができる。
高ぶる感情とは逆で、静かさを持ち合わせて「はい」とだけ言った。
「一箇月前くらいか……あいつの親父、組の金とクスリを持ち逃げしやがったんだ。
奈々には、真面目に働いていくことを約束したらしいが、根っこがどうしようもない奴だ。
組の下請けみたいな仕事をして、油断させたところで事務所の金品を狙ったんだろう。
バカだよな。
まあ、地道に働いても、俺んとこ以外の金融屋にも借金があったから、本人は家族で再び一緒に暮らすために、一発逆転のつもりだったのかもな」
借金の金額は不明であるが、暴力団から金品を奪う前に、自己破産や債務整理などの処置をとった方が適切であるし最善だろう。
もちろん、それらの措置をした後で、暴力団やら闇金業者に金を借りていたのかもしれない。
堂島さんは、子供達が遠くで遊んでいる姿を眉間に皺を寄せながら見ていた。
「しばらくガラをかわしていた(逃げること)みたいだが、結局、組の連中に押さえられて、バラされちまったみたいだ。
そこで、ひとまず組の体裁は保てても、堅気に面子を潰されたことへの矛先と親父の借金の返済を合わせて、奈々が肩代わりすることになった」
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