第四部 喜色の夏に 2
麻野麻衣は、ウェーブのかかったセミロングの髪をブラウンに染めている。
化粧の仕方によるもなのか、やや鋭い目元が印象的だ。
髪の染色も化粧も校則違反であるし、彼女も例に漏れず指導常連の人物だ。
気の強い性格が、言動や態度に表れていて、彼女の人格やらを良く思わない生徒からは、姓名の頭文字を二文字繋げて【ママ】と、皮肉を込めて呼ばれている。
石川萌音は、小柄な体躯に黒髪のショートカットで、目が丸っとしている。
こちらは、麻衣と違って素行も悪くなく、勉学にも秀でた優等生である。
おしとやかで優しい彼女は、男子生徒から人気があるようだ。
麻衣と萌音は、よく二人で行動をしている仲の良い友達である。
以前は、種の違う二人が仲良しというのが疑問だった。
聞いたところによると、どうやら幼稚園の頃からの付き合いらしい。
僕と萌音は、同じクラスである。
何かと批判を受ける立場の僕を、彼女は度々に庇ってくれて、素直に言葉にできないけれど感謝の気持ちを抱いていた。
一方で麻衣は、萌音と共に帰宅する為に、よく僕達のクラスに現れるのだが、僕に敵意を向けてくるから相容れない関係と認識している。
先程、僕を呼び止めたのは萌音だった。
「おー。何?」
萌音は、ちらりと麻衣を横目で見てから返答をしてくれた。
「あの……来週、お祭りあるでしょ?
よかったら――私達と一緒に行かないかなって……
予定あるかな?」
来週の金曜日は、夏祭りだ。
僕は、来週に夏祭りがあるというのを失念していた。
というよりも、奈々さんとの出会いで浮かれていたのか、あまり他に意識が向かなかった。
萌音の発言で、この誘いの返事というより、奈々さんを誘ってみようという意識が働いた。
つまり、一瞬の間が空いたわけで、それを逃さないのが麻衣という人物である。
「え? 何行けないの?
せっかく私達が、誘ってやってるのに」
「ちょっと、麻衣ちゃん……」
萌音に対しては申し訳無さを感じてしまうが、麻衣には、まったく反対の感情であるから語気を強めてしまう。
「は? 誰も頼んでねーだろ?」
ブレーキレバーを握る力が強くなる。
「そんなこと、聞いてないし。
行くの? 行けないの? どっち?」
「行かねーよ。
大体、誘っているにしては、態度が悪すぎだろ」
麻衣は、眉間に皺を寄せて、
「はあ? 態度って何?
誘ってあげてるのに?」
強めの口調に、僕は、さらに苛立ちを覚える。
「何でキレてんだよ。
普段からそうだけど、いちいち突っかかってくんなよ」
「突っかかってくるのは、そっちじゃん!
大体、いつも悪ぶっているけど、自分は強いんですよーとか見せているだけ!
格好良いと思っているの?」
この言葉は、深く心に突き刺さる。
自分でも理解しているからだ。
「お前には、言われたくないな。
茶髪に化粧して、良く見せようとしているのと、どう違うんだよ?」
「一緒にしないでよ! 私のは身嗜みだから。
風間のは、不良が格好良いと思っている勘違い!」
不安そうな顔を浮かべて、僕達のやりとりを聞いていた萌音が、何とか会話に入り込む。
「ちょ、ちょっと……! 二人共、落ち着いてよ……!
ごめんね……風間君。
麻衣ちゃん、悪気があって言っているわけじゃなくて……」
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