第二部 邂逅の夏に 4
前回の日から、一週間経過した。
約束の金曜日である。
時刻の指定が無かったものだから、何時に着けば良いのか思案したが、結局は、前回と同じ時刻に向かうことにした。
部室の更衣室で、早々に着替えを済ませると、友人達に別れを告げて、駐輪場へと向かう。
駐輪場には、幾人かの生徒が点在している様子が、各所に設置された灯りで確認できた。
自転車を駐輪場から、手速く用意して跨ると、背後から「おら! 風間! 乗るな!」と、教職員の怒鳴り声がした。
校内は、自転車での走行が禁止されている。
つまり、乗り出していいのは、校門を過ぎてからである。
もちろん、校則は知っていた。
察するに、駐輪場というものを、多くの人物が利用する時に、交通事故を未然に防ぐため生まれた校則だろう。
つまりは、混雑状況に起因すること。今は、人も疎らである。
疎らにいる生徒も、駐輪場内で談話している者しかいない。
駐輪場は、拓けていて見通しも良いし、他にも、歩行者が無いことを確認した。
もしも、多くの生徒がいて、交通事故の危険性があれば、自転車に跨がらず、校門まで自転車を共にして、歩いていくことを選んだ。
僕は、教職員の声を無視して、夏の闇夜へ走り出した。
「おらあ! 風間! 止まれ、こらあ!」
暗闇に、夏虫の鳴き声と怒鳴り声が響いていた。
規則は、大事だ。
世の中には、たった一人が守らないことで、多勢が苦しむことも多々ある。
一人が守らないことを赦すと、他人も守らなくなる可能性がある。
このようなことを、言い出したら切りが無いのだが、自転車を乗る人がいる駐輪場より、道路を走る方が、圧倒的に危険要素も不安要素もある。
重傷になるのも、死亡する確率が高いのも後者の方が多いだろう。
規則を破ることが悪いなど百も承知である。
僕は、規則ではなく、彼等の心持ちに反発しているのだ。
『校内で、人が交通事故に巻き込まれることは、学校側の責任問題になって困るが、校外で事故に巻き込まれることは、別に構わない』という言葉を孕んでいる気がしていた。
この駐輪場の校則自体は、校内においての交通事故を未然に防ぐために、大事である。
しかし、反発心から行動に主張を乗せてしまうことがあるのだ。
僕の通う学校には、変な校則も多くあって、例えば夏季に焦点を当てると
『上体は、半袖のシャツのみ着用』
『女子生徒のキャミソール類の着用禁止』
『日焼け止めの使用禁止』
『校内、校外、着帽禁止』
それらは、全て学校側に都合の良いように作られて、生徒を指導の下、簡単に操るものに感じた。
全ての校則に対してでは無いが、そのような根拠の無い、論理的思考から生み出されたとは思えない、校則が嫌である。
普段から、指導する教職員というのは、校則を守らせることが、将来に向けての準備であって、将来の社会における規則、秩序を守るというものが、延長線上にあるという建前を見せる。
本質は、理不尽な校則の名の下に、はみ出す生徒があれば、徹底的に弾劾して、指導しやすいからだろう。
そうであるから、大人達の
『貴方の身を案じているからだ』という素振りを見せる芝居が、堪らなく嫌であった。
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