◇Phase 5◇
【カルミアの家の前】
扉の前で買い物袋を提げたドライアンがうろうろしている。
ドライアン:……ドアノブに袋提げて帰ろうかとも思ったけど、まさかの引き戸。
ドライアン:東洋建築。インターホンも存在しないなんて予想外だったわ。
ドライアン:俺、マジであいつのこと何も知らねーのな。
ドライアン:つーか勢いで来てしまったが、……これひょっとしてマズい、か?
ドライアン:……だよな。たぶん。だって俺達冷静に考えりゃ敵同士なんだぜ? カルミアの言う通りだわ……。ま、でも、来てしまったからには仕方ない。ここは潔く――行くか。
ドライアン、扉に手をかけようとする。
と、目の前で扉が開く。
ドライアン:あ。
カルミア:あ。
部屋着のカルミアが、ウルを抱えて現れる。
ドライアン:カルミア……。
カルミア:ドライアン……。
ウル:みゃあ。
カルミア:と、扉の前に影が見えたから。それに気配も。
ドライアン:あ、ああそうか。そうだよな。
カルミア:う、うむ。
ドライアン:……えっと、ウルの餌、持ってきた。
カルミア:あ、ああ。
ドライアン:元気そうだな、ウル。
ウル:みゃあ。
カルミア:ああ、元気だぞ。少しわんぱく過ぎるが。
ドライアン:そうなのか?
カルミア:私のお気に入りのハープは傷だらけ、
ドライアン:すまねぇ……。
カルミア:雲のベッドに
ドライアン:マジかよ。
カルミア:貴様を倒すために研究してた魔方陣はバラバ――
ドライアン:おい、何作ってんだ天使。
カルミア:むぅ、良いでは無いか。どうせバラバラになったのだし。
ドライアン:いや、そういう問題じゃ――。
ウル:みゃあ。
カルミア:完成したら最低でも山一つ消し飛ばせる魔法ができる予定だったのに。
ドライアン:おっかねぇ……それだけはほんとよくやったぜ、ウル。褒めてやる。よーしよし。
ウル:みゃあ。
カルミア:褒めるな。まぁ、仕方ない。また一から組み直すわ。
ドライアン:組み直すな。そしたらまた壊してくれるよな、ウル?
ウル:みゃあ。
カルミア:裏切者め。
ウル:みゃあ。
二人、顔を見合わせて微笑む。
ドライアン:……あんまり長居すると悪いだろうから、そろそろ失礼するわ。
カルミア:え?
ドライアン:それじゃあな。
カルミア:――あ、待って!
ドライアン:……何だ?
カルミア:いや、……上がって、いかぬのか?
ドライアン:……遠慮しておく。
カルミア:……何故だ?
間。
ドライアン:俺は、よ。悪魔、だからな。
カルミア:…………そう、だな。
ドライアン:お前は天使。俺達は住む世界が違うんだ。何十回出会ってもそれは変わらないだろう?
カルミア:そうだな。
ドライアン:だから、俺に出来るのはここまでだ。この敷居は、きっと俺には跨げない。お前もそれを許さないだろう。
カルミア:そうだな。
ドライアン:今はたまたま、剣じゃなくて、お互いキャットフードか猫を持っているだけ。
カルミア:ああ、そうだな。こんな
ドライアン:猫とキャットフードを剣に持ち替えて、いつ終わるとも知れない殺し合いを演じることになる。……んだろうな。
カルミア:私達はそういうものだったな。
ドライアン:ああ。だから、これでお別れだ。
カルミア:引き留めて、悪かったな。また――戦場で。
ドライアン:ああ。また戦場で。
ウル:みゃあ!
カルミア:あ、ウル!
ウル、カルミアの腕から飛び出す。
慌てたカルミア、倒れそうになる。
ドライアン:カルミア!
ドライアン、カルミアを支える。
カルミア:ドライアン……。
ドライアン:カルミア……。
カルミア:…………。
ドライアン:…………。
ウル:みゃあ。
ドライアン:あっ、えっと、その、……大丈夫か?
カルミア:あ、ああ! 驚いた、だけだ……。
ドライアン:そうか、……おい、腕!
カルミアの腕から血が出ている。
カルミア:え? ああ、ウルに引っ掻かれたのだな。
ドライアン:痛くないか?
カルミア:ふふ、ふふふふふふ。
ドライアン:な、なんで笑う?
カルミア:いや、何を今更と思ってな。貴様につけられた傷の方が何倍も痛いわ。
ドライアン:それは……そうだよな。は、はははは。
二人、笑い合う。
カルミア:あれはもう、すごく痛かったぞ。
ドライアン:そうなのか?
カルミア:そうだたわけ。特にあの剣に炎を纏うやつに脇腹を切られたとき。なんだあれは焼き
ドライアン:ああ
カルミア:え、ダサ。
ドライアン:なに!?
カルミア:そんな貧相な名前の技に苦しめられたかと思うと、傷が
ドライアン:うるせぇ、ほっとけ! それを言ったらお前、あのバーって広がる殺人ビームみたいなやつ。
カルミア:広がる殺人ビーム? ああ
ドライアン:なんだそれ?
カルミア:ああ、正式名称は
ドライアン:略称まであるのかよ。かっこいいじゃねぇか、マジふざけんな。
カルミア:私は真剣だが?
ドライアン:いや名前はともかく、でもあれ、本当にヤバかったからな。やたら避けづれーし、
カルミア:それは――ウケるな。
ドライアン:ウケんな。もう塞がったけどよ。……お前はもう治ったのか?
カルミア:ああ。すっかりな。うっすら傷跡はあるが、見てみるか?
ドライアン:い、いやいやいや、勘弁してくれ!
カルミア:そうか? ……あ。
ドライアン:どした?
軽みいや、越えてしまった、と思ってな。
ドライアン:うん?
カルミア:
ドライアン:あ。
ドライアンの足が敷居を跨いでいる。
カルミア:ドライアン。
ドライアン:……何だ。
カルミア:……上がって、いかぬか?
ドライアン:……ああ。遠慮しておく。
カルミア:……そうか。
間。
ドライアン:今日のところは。
カルミア:…………!
ドライアン:また来るよ、ウルに会いに。
カルミア:ああ。きっと喜ぶ。ウルも。
ドライアン:じゃあ――
カルミア:ああ――
二人声を揃えて
カルミア:また会おう。
ドライアン:また会おう。
扉の閉まる音。
カルミア:……また、か。私達は何のために生き、そして殺すのか。生きるために殺し、殺すために生きる。そういう
カルミア:今はただ、この胸に渦巻く疑問を飲み下すのが精一杯だ。果たして、今日の七十六回目の出会いは私達にとってどのような意味があるのだろうな。芳しい問いだ。
カルミア:それは、或いは生きる意味より。
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