◇Phase 6◇

【戦場】


響く雷鳴と剣戟の音。

ドライアンとカルミアが戦いながら話している。


ドライアン:せやぁぁぁぁ!

カルミア:良い太刀筋だな、だが狙いが見え見えだ!

ドライアン:っくぁ! おおおぉぉ! まだまだぁっ! ふんッ!

カルミア:何?!

ドライアン:もらったぁっ! な、手応えが――!?

カルミア:千変万花ヴァリアブル・ダンス。貴様が今斬ったのは私の残像だ。

ドライアン:はぁ? そんなことまでできんのかよお前?

カルミア:当然だ。貴様、私を誰だと思っておる。天使カルミア・ラティフォリアを侮ると――死ぬぞ!

ドライアン:俺だって伊達にお前と剣を重ねちゃいねぇよ。見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新を――なぁっ!!

ドライアン:陽炎舞踏術ヒート・ステップ・ヘイズ

カルミア:消えた?

ドライアン:ははは! どうだ、熱で光を屈折させて姿を隠す技だ!

カルミア:……私と同系統の技を使うな!

ドライアン:たまたま練習してたんだから仕方ねぇだろ!

カルミア:ネーミングも若干似ておるし。

ドライアン:俺も思ったけど言うなよ。

カルミア:きょうがれたわ。ここまでにしよう、今日は。

ドライアン:きょうだけに?

カルミア:違うわ馬鹿者!

ドライアン:冗談だよ。


二人、剣を収める。


ドライアン:……はっ。

カルミア:……ふっ。

ドライアン:また、決着がつかなかったな。

カルミア:お望みならば今度こそつけても良いのだぞ?

ドライアン:いや、やめとこう。戦いは一日一回だ。

カルミア:それだと毎日戦うことになるが。

ドライアン:俺は毎日だって構わないぜ? お前となら。

カルミア:私は勘弁願いたいところだ。

ドライアン:あぁ? どうしてだ?

カルミア:貴様の相手は疲れるからな。

ドライアン:同感だ。

カルミア:程よく手加減することに、な?

ドライアン:っは。言ってくれるぜ。俺だってお前の綺麗な顔を傷つけないよう戦うのは気を遣うんだがな?

カルミア:んな!? き、綺麗……!? き、貴様それは……!

ドライアン:しかし腕を上げたな、カルミア。

カルミア:……ふんっ。貴様こそ成長したのではないか? ドライアン。

ドライアン:珍しく素直に褒めるじゃねぇか。

カルミア:まぁ、私にはまだ遠く及ばぬが。

ドライアン:っへ! まだ俺は本気を見せちゃいないけどな!

カルミア:貴様さっき「見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新をなぁ!」とか言っておったではないか。

ドライアン:いや、あれはブラフだ。それにあくまで最新であって最強じゃねぇから。本気の俺はもっと強ぇ。

カルミア:怪しいものだが、そういうことにしておいてやる。

ドライアン:――なぁ、カルミア。

カルミア:なんだ、ドライアン。

ドライアン:俺達、強くなったんだよな。

カルミア:どうした、突然?

ドライアン:俺もお前も強くなった。それは剣技を見ても、身のこなしを見ても、魔術や戦闘技能を見ても分かるんだ。

カルミア:そうだな。

ドライアン:お前の動きは、これまで出会ったどんな敵より鋭く、冷ややかに俺の命を掠めていく。

ドライアン:俺はそれをギリギリのところでかわして、受けて、さばいて、時に切り返す。俺もまた、お前の命を奪う必殺を繰り出す。

ドライアン:けれど、どれもが互いに一歩届かない。寄せては返す波のように拮抗した剣技。その応酬おうしゅう。果てない殺し合い。それが延々と続く。天使と悪魔の殺し合い。いつかお前が言ったように、俺達はそういう宿命さだめなんだろうか。

カルミア:それは違う、ドライアン。

ドライアン:え?

カルミア:それを言ったのは貴様だろう?

ドライアン:そう、だったか?

カルミア:ああ。貴様は私に言ったのだ。我々は生きている限り殺し合う。しかし――私達はきっと、また出会うために殺し合うのだ。とな。

ドライアン:カルミア……。

カルミア:しかし、今日の貴様は既に負けておるな。

ドライアン:あ? どういうことだ? 引き分けだろ?

カルミア:何があったか知らんが、貴様は今何かに縛られておる。ドライアン・ダラス。自由と勝利を愛する悪魔よ。貴様の剣に纏わり付くものが、その動きを鈍らせておるのは明白ぞ。

ドライアン:……気のせいだろ。

カルミア:ならば私の勝ちだ。自由に生きている限り勝ち、なのだろう?

ドライアン:変わったな、カルミア。

カルミア:かも知れぬな。……さて、近頃のドライアンはピロートークとやらに気乗りでは無いらしいな。

ドライアン:んなっ?! 変なこと言うんじゃねぇよ!

カルミア:なんだ、照れておるのか?

ドライアン:んな訳ねぇだろ!

カルミア:ふふ、冗談だよ。

ドライアン:ったくよぉ!

カルミア:――今日も寄っていくか?

ドライアン:……ああ。

カルミア:そうか、ウルが喜ぶ。

ドライアン:つっても、最近は俺が来てもあいつ気にしなくなったよな。

カルミア:慣れたのであろう? 私にもすっかり懐いてしまって、やんちゃな頃が少し懐かしいくらいだ。

ドライアン:山一つ消し飛ばせるおっかねぇ魔法陣とやらを台無しにされたりとかな?

カルミア:懐かしいな。ちなみにアレはもう完成したぞ?

ドライアン:なに!? どんな魔法だ?!

カルミア:ふふ、それは秘密だ。

ドライアン:っち! んだよ……。

カルミア:そうだ、また今度貴様の家にも行ってみたい。

ドライアン:は? なんでだよ?

カルミア:時々話題に出てくる犬の『ベル』というのが気になってな。

ドライアン:ああ、そうだな! 今度連れてってやるよ。

カルミア:やったー!

ドライアン:……何、無邪気に喜んでんだよ……。てきに遊びに行くのによ?

カルミア:こ、これは、地獄で一番可愛いと言っていたベルに会えることに対してであって決して――

ドライアン:……ところでよ。

カルミア:なんだ?

ドライアン:この出会いが何度目になるのか分かるか? カルミア。

カルミア:八十九回目だな。

ドライアン:お前、数えてたのか?

カルミア:貴様の数えたところから、ではあるがな。

ドライアン:そうか。……なぁ、カルミア……。


足を止めて問いかけるドライアン。

先を行くカルミアは少し離れたところにいる。


カルミア:おい、ドライアン! 置いて行くぞ、ウルが腹を空かせて待っておる。


カルミア、去る。


ドライアン:――俺達は、あと何度出会えるんだろう。

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