#11『流眼』

と、誰かが呟いた。


後につけられた名なので、名づけエピソードをお楽しみに。


さて。


そんな赤い目をした悪い子は、はたとケルベロスを見据えていた。


「――――」


息継ぎ。


見えたのは、流れだった。


血の流れ。


動きの流れ。


未来の、流れ。


瞬間。


私の脳内に取り込まれる情報量は、最大となった。


「――やるわ」


ぬらりと呟くと。


モーゼを差し置いて、何も持たずに、ゆらりとざわめいて、突進した。


「――はぁッ!」


何も持っていない。


ただ『流れ』は見えている。


なので。


「ぎゃうむっ⁉」


弱点くらい、分かってるのさ。


瞬間私は、真っ赤な世界に映し出された『結果』を、指で突いた。


***

私の能力は、どうやら『流れ』を読むものらしい。


血の流れ。人の流れ。物事の流れ。戦闘の流れ。未来への流れ。


こと、私が生きるという結果のみにおいては、この眼は信用におけるだろう。


なぜなら。


現時点で、私が死ぬ『流れ』は見えない――!


***

そしてケルベロスは、私の突いた点から大量に出血し始めた。


白状すると、私には二つの『流れ』が見えたのだ。


ケルベロスの攻撃に関しての『流れ』と、ヤツの体を巡る血の『流れ』である。


攻撃が来ると分かっているなら、素人であれ避けることは簡単だろう。


次に、血の流れから弱点を読み解き、それを突くのみだ。


これなら初心者でもできる。


そもそも、何をやるかが分かっているのだから。それをすればよいのだ。


「リナ……その眼は、一体……」


「わっかんない! でも使えるなら、使ってあいつ殺す! ――ちょっと待ってて!」


便利な能力だが、デメリットはある。


――さっきから、異様に頭が痛いのだ。


このままでは脳がカチ割れて死んでしまうだろう。


それは。


まずい。


「ぎゃるめめめっ!」


弱ったケルベロスは、なんとも虚ろに叫び声をあげる。


だが、そんなことはどうでも良い。


今はこの頭痛を振り切る為。


より正確な『流れ』を読み解く――


「……ッ、どれだ!」


『流れ』は一筋ではない。


少しでも流れを逸れれば、新たな流れが生み出される。


無数の流れが脳髄に流れ込んでくる。


頭がパンクしそうだ。


だが、脳が逝かれる前に勝つ流れは、どこかにきっとあるはず――


「……ッ、がああああ!」


渾身の威嚇。


流れが、少し乱れた。


「くそッ……ちょっとビビっちまったじゃねーか」


瞬間。


「がうぼっ!」


ケルベロスが、目の前にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る