#09『再戦へ』

『回復』を終えた私たちは、二人して廊下を歩いていたのだ。


なんかカッコつけて、喋ってみたり。


きらーん。


「ねぇリナ。血は、もう大丈夫なのかい?」


「多分ね。あそこまでやってくれたんだから、私も恩返ししたいよ」


「それは僥倖。だが、無茶はするな。生き延びるのも、仕事の内だ」


「あぁ、そうだろうな。まずは――生きなきゃ。でなきゃ一歩も進めない」


そして私たちは、再びケルベロスと対峙した。


***

「■■■………ッ!」


番犬は泣かない。ただ純粋に、殺意のみがそこに在る。


「怪我は……おおっと、回復してしまっているようだ。どうするリナ。お前なら」


彼女からの問いに、思いっきりカッコつけてやった。


「――全力で叩きのめす」


「正解ッ!」


そして彼女は、疾風となった。


――今の自分にできること。


それは、彼女の戦いを生きて見守ることだった。


全力の解答なので、許してほしい。


っと、そんな余計なことを考えていると、モーゼがケルベロスに接近している。


ひゅらり、と剣戟の音は聞こえて来た。


「……ッ!」


ぎらりと見据えて、しゅばっと斬る。


切り捨て御免。


……いや、侍じゃないんだけど。


「獲ったッ!」


自分の攻撃で隙を作り、自分の攻撃でそのスキを突く。


まさに完っ璧な攻勢を見た瞬間。


嫌な予感がした。


そして当たった。


「――キョウコ、危ないッ!」


思わず。


他人のなまえで、呼んでしまった。


「え」


ばじゅるり、と。



――この瞬間ときまで、誰もが忘れていた。


というか、私が忘れていた。


今戦っているのは『ケルベロス』――三つ又の犬であることに。


そういえば。


初戦の時、アレは


恐らく。


初戦でモーゼが追いつめたかのように見えたのは、ヤツの罠。


この瞬間まで一対の頭でのみ攻撃していたケルベロスは、使わぬと油断したもう二つで、攻撃しようというのだ。


「悪鬼……羅刹ッ!」


ぼん、とモーゼが跳ねる。


形容ではなく、本心で。


彼女を語ると、そういうことになっていた。


「なるほど無礼だ。騎士の戦いに、多勢を無勢で攻め入るとは」


「モーゼ!」


「大丈夫だリナ! ちょっと卑怯な手を使われただけだ」


それだけにしては。


ずいぶんと、深手を負っていた。


「――あ」


瞬間。


やはり、吐き気が襲ってきた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る