#04『赤の他人』

はい、タイトル通りです。


「……? 私はモーゼ・アプリコット。この辺り出身の、王立騎士団所属の中等騎士だ」


結果として。彼女は、キョウコではないらしい。


よく似た赤の他人。


よくある話だけど、よくない話。


「というかお前、なんでこんな廃墟にいるんだ」


「――え、何言ってんすか? ここって学校じゃ――」


気が付くと。


そこは廃墟と化した洋館だった。


「まったく、この辺りは崩落も激しいし、危険だぞ。私がいたから良かったものの、最悪死んでても可笑しくないからな……とにかく、ここは危ない。早く安全な所へ行こうか」


凛々しい声は見知っていたようで、私の知らない何かだった。


そうして声を聞くうちに、モーゼ・アプリコットとキョウコが別人であることが、身に染みてくる。


「あぁ、そうですね」


他人事のように、私はそう口にできた。


いつも通り、他人に過ぎないのだから。


そして、私たちは洋館の玄関があるところまで、歩き始めたのだ。

***

「君、名前は?」


「はぇ?」


「だから、名前だよ。どんな人間にだって、名前ぐらいはあるだろう?」


「……鏡宮裏奈、デス」


「わお、変わった名前だね。東の国からやってきたのかい?」


「いや、出身も育ちもこの国――のはずなんですけど」


「なるほど。それは難儀だな」


モーゼは何とも興味なさげにそう語る。


……いやぁ、意外とつらいな。


恐らく成長後の親友から、あんまり興味持たれないってのは。

***

「それで、こんな廃墟に一人でなんの用かな?」


……唐突に、事情聴取が始まった。


いやそうだろう。


彼女は『騎士』と名乗っていた。なので公的機関の人間だ。


だから。


こうやって聞くのも、そこまで不思議な話じゃない。


「いやぁ、実は気付いたらここにいたんですよ」


嘘をつく体力は、無かった。


「ほう。察するに、何者かによる精神操作、といったところか」


「ま、そんなとこです。転生というか、転移というか。こういうのって、よくある話なんですか?」


「あぁ、意外とな。どこから来たのか、風来坊が世界に偉業を残すのは、神話の時代からのお決まりでね。あんた、有名人になれるよ」


でへへ。


「ま、悪い方かもしれないけど」


へへへ。


「悪いようにはしないさ」


あざます。


「言う事、聞いてくれれば」


……なんとうか。


本当に他人なんだな、と。会話しながら残念に思ってたり。


そして私たちは、洋館の玄関に辿り着いた。

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