#03『キオク』
小学生の頃、私はまだ世界が好きだった。
というか、私にとって『世界』はキョウコただ一人だった。
友達ができた経験は初めてじゃなかったけど、親友になれたのは初めてだった。
彼女は、どこか危うい私をこの世界に引き留めてくれて、唯一私の歪みを『好きだ』と言ってくれた。
それが、私――鏡宮裏奈にとって全てであった。
「裏奈はね、誰よりも素直で、誰よりも可愛いんだよ。ほら、童話だとお姫様は攫われたり酷いことをされたりするでしょ? きっと裏奈は、お姫様なんだよ」
当時、私は酷いいじめを受けていたと思う。
具体的な事は随分と前だから思い出せないし、思い出したくも無いけど。
「けど安心して。私は裏奈の、王子様になってあげるから。……まぁ、女の子だから、王子様になるのはちょっと難しいかもだけど」
落ちぶれて、卑屈で、矮小で、暗い私を、彼女だけは『お姫様』だと言ってくれた。
今でこそバカバカしいと吐き捨てそうだが、当時の私にとって、私を認めてくれたという事は、すごく大きかったと思う。
「じゃあ、キョウコはずっと一緒に居てくれる?」
「うん。ずっと一緒だよ。大人に、なっちゃっても!」
なによりも眩しい笑顔で、彼女は私を光の下へ連れ出してくれた。
けど。
『アサギリキョウコは家族ごと失踪した』
という話を耳にした。
どうもそれは真実らしく、私から彼女へ覚えたての連絡先を使って連絡したって、何も返ってこなかったし、誰も帰ってこなかった。
誰かに言わせれば、やれ一家心中だの、誘拐だの、監禁だの、児童買春だの、好き勝手に言いやがる。
当時、アサギリ一家失踪事件はメディアでも広く取り上げられ、親友だった私にも多くの取材が舞い込んだ。
それから、私がテレビを破壊し、一ヶ月引き籠るまではそこまで時間は要らなかったと思う。
辛かった。何より、キョウコが死んだと誰かに何度も言われるという事が。
テレビを壊して以来、家庭でも私は孤立している。
そのまま私は、中学生になってしまった。
友達は、まだできない。
***
そんなキョウコが今、目の前にいたのだ。
「あなた、だれ?」
それぐらいは聞いても良いだろう。
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