第2話
「う~む、やっぱりこのお店のコーヒーは美味しいなぁ。お持ち帰りしてよかったよ。自分でも淹れられるようになりたいが、どうしたものか。」
──バタン!
その時、探偵社の扉が開かれた。
「精神探偵っていうんはここか?」
現れたのは、目つきの悪い学生だった。
「うん、ここだよ。」
コーヒーを優雅に飲みながら、探偵は答えた。
「俺だよ。あいつをいじめてたのは。」
席に座ると唐突に言った。
「あいつ……」
探偵は少し考え、急に笑顔になると、
「そーかそーか!来てくれたか~!いやいや、よかった。あの人に言われたのかい?」
Mさん(名前はあとから聞いたのだが)は、ちっ、と舌打ちをしてから言った。
「ああ、そうだよ。いくら突き飛ばしてもここに来いってしがみついてきた。いつもと違った。あんたのせいか?」
そう言って探偵をにらみつけた。
「ふふ♪せいといえばせいなのかもね。そんなことより、きみは、なんでここに来たんだい?」
「は?」
Mさんは、何を言っているんだという表情になった。
「あいつに言われたからって言ったじゃねえか。」
「そうじゃない。言われたあと、なぜ、ここに来ようと思った?と聞いているんだよ。」
Mさんが眉をひそめる。
「だってそうだろう、言われたって行かなくても良いじゃん。とは考えなかったのかい?」
「そ、それは……」
「実はね。きみがここに来た時点で、この話は終わっているんだよ。なぜならね、君があのこのいうことを聞いたということは、きみ自身あの子のことを__」
バン!!
突然、Mさんは、つくえを叩いた。
「自覚はあるんだね。」
「ねえ!」
即答した。
「いや、あるよ。私が何を自覚しているかを言わずにきみは ない、と即答した。これはきみが、何 の部分を理解しているからさ。」
Mさんは黙っている。
「否定しないのかい?」
「ねえ…俺には、自覚なんてねえ。」
絞り出すように言った。
「はあぁ、きみはバカだね。」
「は?」
Mさんは、また怒った顔に戻った。
「なんで、人というのは、自分の意見をかえたがらないんだろう。心の中では、自分の考えより相手の考えの方がいいと思っているのに、自分の元の意見を押し通そうとする。バカだと思わないかい?」
探偵が聞き返す。
「……。」
「自分の意見なんてね、ころころ変えてしまって良いんだよ。いくらでも、好きなように。」
Mさんは、黙っている。
「なぜかってね、人は間違えるのが当たり前だからさ。間違えない人なんていないんだよ。だから、どんどん間違えた方がいい、学べることが多いからね。しかし、そのあとが大事だ。間違いを間違いと判断し、正せるか、がね。」
「……。」
Mさんは、黙っている。
「まあ、正論に従いたくない、そういうこと以外にも理由があるのかもしれないが、自分が正しいと思ったことを否定し続けるのは、ただのバカだよ。」
Mさんは、ふぅとため息をついてから言った。
「そうですね。俺は、正直いじめは、良くない、やりたくないと思っていました。」
Mさんは、急に表情を緩め、口調が変わった。
「なんで、しなきゃいけなかったんだい?」
「しなきゃいけなかった…ははっ、そうですね。実は中学校時代、俺、いじめられてたんです。」
Mさんの声が優しくなっていく。
「それで、親や先生にばれないように、うまくいやがらせさせられて、高校に入ったら、またいじめられるんじゃないかって…不安で……怖くて…それで、それで…」
「自分を守るような形でいじめを始めてしまったと。」
Mさんはうつむいている。
「…そうです。」
「フフッ、よかったよ。」
「は?なにが?」
Mさんの口調が戻りかける。
「いや、きみが人をいじめることで快感を得るような狂人じゃないことがわかったから、
よかったと言ったいるんだよ。」
「っ……。」
「さぁて、きみがそこまで気づけたなら、もう言うことはない。どうするべきかは自分でわかっただろう。」
「はい……。」
Mさんは、立ち上がった。
「あのっ…!」
Mさんが突然振り返った。
「なんだい?」
「また、ここ来てもいいか?」
探偵は、フッと笑った。
「もちろん♪ただ、料金はいただくよ。」
「はぁ?」
「もちろん嘘だよ。いつでもおいで。
じゃあ、バイバ~イ。」
━━後日━━
「よかったね♪」
「はい!」
探偵社には、Kさんが来ていた。
「はいっ、僕がいれたコーヒー。」
「ありがとうございます。」
Kさんは一口飲むと、
「…これどうやって淹れたんですか?」
「それは、いい意味かい?それともわr」
「悪い意味です。」
「…そんな食い気味に言わなくても……。」
探偵がいじける。
「そんなことより、私もう帰りますね。」
「えっ、もうかい?」
Kさんは立ち上がる。
「はい、話したいことはもう終わったし、この後習い事あるので。」
「そっか。じゃあ、気をつけて。Mさんによろしく。」
「はいっ。」
「そういえば、お名前をお聞きしてませんでしたね。」
そう聞かれた探偵の顔が一瞬暗くなったように見えた。
「名乗るほどのものでもないさ。探偵さんと読んでくれたまえ。さあ帰った帰った。」
探偵がKさんを扉の方へ押す。
「えっ!ちょっ。」
「さよ~なら~。」
バタン!
Kさんは、しぶしぶ帰っていった。
「はぁ~。喫茶店でも行くかな♪」
探偵は、立ち上がり探偵社を出た。
ガシャッと、扉の閉まる音が廊下に響く。
ただ、鍵をかける音はしなかった……。
──精神探偵②終──
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