メ♩ト ♫ ロ ♬ ノ 🎼 ー ੭: ム (仮)
凪村師文
🎼1話🎼 始まりの旋律①
「じゃぁ母さん。行ってくるね」
東京駅の新幹線乗り場の前で蒼空は母親にそう言う。
「うん。楽しんでらっしゃい」
満面の笑みで母親はそう言った。蒼空はそれに綺麗な笑みを返して、大きな灰色のスーツケースを引いて、緑色の切符を慣れた手つきで改札に通した。
昔は仕事で全国を飛び回っていたからか、蒼空は新幹線に乗るのに不思議と気持ちの高ぶりは無かった。改札を通り抜けて彼は一度振り返る。ずっと手を振ってくれる心配性の母親に軽く手を挙げて、切符に目を落とした。
『東京→鹿児島中央 7月1日 8:30発 11:00着 のぞみ17号 9号車 10番 A席
【新大阪 乗換】 11:20発 15:37着 さくら553号 6号車 13番 A席』
と書いてある。
(わざわざグリーン車にしなくても良かったのに…)
と蒼空は心の中で思いながら18番線のホームへ歩く。
本来鹿児島に行くならば羽田から飛行機の方が断然早く着くのだが、蒼空が道中たくさんのいろいろな景色を見たいという無理を言って新幹線にしたのだ。長時間移動ということでせめてもグリーン車ということだろう。おかげで切符に書かれている金額が驚くべきものであるが、見なかったことにした。エスカレーターを登り切り、待っていた白色に青いラインのピカピカの新幹線に乗り込む。
(13番、12番、11番、10番…ここか)
グリーン車というのもあり、空いている車内を座席番号を見ながら歩く。窓際の席に座って、荷物を下ろす。新大阪まで時間があることもあり、もろもろのくつろぐ準備をしていると母親からラインが送信されてきた。
『蒼空、行ってらっしゃい! 沢山楽しんでくつろいで、いっぱい思い出を作ってきなさいね』
実に心配性のわが母親らしい文面に思わず苦笑をもらすが、心配していることに違いはないので、
『うん。ありがと。行ってきます。たまには電話するから楽しみにしてて』
と送っておく。すぐにかわいい白熊がサムズアップしているスタンプが送られてきた。
そんなことをしているうちに、新幹線は静かに動き出した。東京ならではのビル群を縫うように走り抜ける。今日でしばらく見納めの東京の風景を目に焼き付けるように、蒼空は窓から外の景色を眺めていた。
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