第二話 リオルが立った!!リオルが立った!!
まずはじめに、神様が人間に擬態した。
私の出番はまだらしい。うそん。
神父の格好をした神様。
スレンダーな体型だからかとっても似合ってるし、男性に見える。よくよく思えば、神様って中性的な顔つきなんだよな。
「中性的、じゃなくて実際に中性だよ。両性具有だから」
『えっ』
それは知りたくなかったかもしれない。
神様は、アパートメントのある一室のドアをノックした。
中から「はい」と女性の声が聞こえてくる。
「突然の訪問、申し訳ありません。ウォーレン教会バラディア支部所属の神父、ウォレスと申します」
首から下げた紋章のペンダントを掲げながら神様 ―― 今はウォレスか。ウォレス様がそう声をかければ、ドアが開いた。
きょとんとした表情でこちらを見るのは、リオルの母君であるエリー。
ウォレス様が首から提げている紋章ペンダントは、教会所属の神父にしか持つことができない。
特殊な加護がかけられており、魔力によって複雑な輝きを見せている。
加護がなければこの輝きを見せることはできないし、この国に住む人間は皆教会に通って神父と顔を合わせている。そのとき、ペンダントは必ず見るので一般人でも本物かどうか分かる仕組みになってるそうだ。
ちなみに、ウォレス様が持ってる物は本物。
なんでも時折色んな国に下りて人間に擬態することがあって、ウォレスはその擬態した姿らしい。
教会上層部も協力しているから、ウォレスという神父があちこちの国に現れても問題ないようにしてるらしい。すっご。
「まあ、神父様が来てくださるだなんて…どうぞ、中にお入りください」
「ありがとうございます。お邪魔いたします」
ウォレス様が入るのについて、私も中に入る。
すると、狭いリビングの中で絨毯が敷かれたところに、コロコロと私の推しが転がっていた。
私と目が合うと「きゃー!」と嬉しそうに笑う。んあああきゃわいい!!
私も推しと一緒にリビングにコロコロと転がる。キャッキャと喜ぶ推し最高。好き。
「ご機嫌ですね」
「あら、精霊様が来てくださったのかもしれません」
「精霊様ですか?」
「ええ。この子が生まれてから、時折来てくださるようで…。私は精霊様の存在を感じられる程度ですが、この子はお姿を拝見できているようです」
ああん、きゃわいい。
そのよだれでベタベタなおててでも気にならないよぉ〜〜もちもちおててきゃわいい。
母君からお茶を出されたウォレス様は、一口飲む。
それから、ゆっくりと母君に話しかけた。
「本日、突然訪問させていただいた理由は、ご子息のことです」
「リオル…ですか?」
「はい。つかぬことをお聞きしますが、ご夫君は…?」
「夫は騎士を務めておりますが、任務で長期遠征に出ておりまして…まだ戻らないかと」
「そうですか…。本題になりますが、ご子息の魔力保有量は、同世代の子らと比べても多い。それは実力者が近くにいればすぐに分かります。おそらく、ご子息の魔力量の話を聞きつけた者がこの周辺を嗅ぎ回っていることを耳に挟みまして」
母君が驚愕の表情を浮かべる。それからだんだんと青ざめていった。
そりゃそうだ。面と向かって「あなたの息子は狙われている」と言われてるのだから。
お、リオルお座り上手だねェ〜〜!
え、待って?待って立っちゃう?立っちゃうの?がんばえ〜〜〜!!
「そこで提案なのですが、ご子息が十五歳になるまで我が教会の庇護下に入りませんか?」
「え?」
「そうですね。避難といった方が正しいでしょうか。あなたからご子息を取り上げようとする輩から逃げるために。十五歳になればご子息の意思によって自らの未来を決めても問題ないでしょう。我が教会はご存知のとおり、王侯貴族からは不干渉を是としています。例え、ご子息を狙う輩が貴族であろうが誰であろうが、神の御下に保護された者を引き渡すことはありません」
まあ実際神様だしね。
神様自ら保護するって言ってるんだから、どんな国の偉い人だろうがどうもできないでしょ。むしろ手を出したら神罰下るんじゃね?
きゃーーーーリオルが立った!!リオルが立った!!
え、まさか歩いちゃう?歩いちゃう?
やーーーんよちよち歩ききゃわいい〜〜〜!!あ、あ、あ、私に向かって歩いてきてくれてぽすっと腕の中に倒れ込んできた。私を見上げて、にぱーって、あ、あ、あ、尊死しそう。
「…よろしいのでしょうか」
「ぜひ、頼ってください。教会は神が見守る場所、困っている方々を救う組織ですから。ご夫君にはこちらから連絡を取りましょう」
「……よろしくお願いします」
ふむふむ。話はまとまったようだ。
っていうかそんな制度あったの?え?ここに二週間ぐらい前に神託として周知させた?さっすが〜。
リオルを抱っこする。
きゃっきゃと喜ぶリオルに自然と笑みが溢れる。ああ、可愛い。
―― 人間の魂は、幼子の頃はとても綺麗な色をしている。大人になるにつれ、色々と染まっていくのだけれど。
だから等しく、人の子は皆かわいい。愛しい。
それは神様も同じようで、だからこそ不幸になる芽をできる限り摘もうと私の案に賛成してくれたのだろう。
王侯貴族に引き取られて幸せになるケースもあれば、そうでないケースもある。
けれどそれは子ども本人の意思はない。周囲の大人によって進められるものだ。だから本人が大人同等の判断ができる年齢である十五歳までは保護することにしたそうだ。
『まずは幸せになる第一歩だよ、リオル』
「あい!」
「まあ、リオル精霊様に抱っこしてもらえたのね。良かったわね」
そっとリオルを母君に渡す。
母君は愛しそうに、リオルを抱っこした。
尊い、尊いこの光景を、壊させてなるものか。
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